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オオタの一日

私が昔、まだ前世で加東すみれだった頃、友達に連れられてアイドルのファンミーティングに参加したことがあった。

小さい会場は押し合う人とその熱気でいっぱい。

会場に集まった観客の視線は、たった一人のアイドルに釘付けだった。

会場のあちこちでペンライトの明かりがチカチカ。

遠い昔、ソンナコトモアリマシタ…


そんな風に軽く現実逃避してしまうほど、今私の部屋は精霊たちでいっぱいだった。リーフが口コミで広げた、私の護り石の新規採用面接開催のせいだ。

昔体験したファンミさながら、私の部屋には精霊がこれでもか、というくらい詰めかけていて、オレンジやら水色やらの小さな精霊の光があちこちでチカチカまたたいている。

もちろん、精霊たちにとってのアイドルは私だ。

いつの時代でも、口コミの力って恐ろしい…


「リーフ、これどうするの?」

押し掛けた精霊たちの圧に負けて、問いかける声が何故か小声になってしまう。


「お任せください。」

リーフはニッと笑うと、警備員のごとくその場をてきぱきと仕切りはじめた。

あっという間に精霊たちは一列にきれいに整列させられて、私たちの前を経由して廊下へ出ていく道筋が出来ている。

この光景、まるで、アイドルの握手会のよう…


精霊たちは、まずリーフとの相性をみるために最初にリーフと軽く触れ合って、これは、とリーフが思う人材(?)だけが列から離れて待機場所へ案内される。その他の子はそのまま私の前へ進んで軽く会話を交わした後、リーフがつけた道筋にそって廊下へ出された。

廊下へ出た精霊はそのまま思い思いの方向へ帰って行ったり、エッジストーン家を散策したりして、それなりに楽しんでいるようだった。


いやぁ、アイドルの人って偉大だわ。全く見ず知らずの何百という精霊とニコニコ会話するのって、私にとっては本当に大変な作業だった。

作業時間にして、ざっと四時間。

おやつも食べず、水も飲まずに私たちは本当に頑張ったと思う。

ヘトヘトになりながら、最終的に三人まで候補を絞ることができた。後は本来の宿り石の儀式に則って、三人で目指す石を取り合ってもらえば完了だ。


面接日に満月の日を選んだのは、そのままその日の夜に儀式を行うためだ。「宿り石の儀」は満月の日に夜を徹して行われる儀式なので、子どもは立ち会いが許可されない。後は養母様たちに丸投げして、私は明日の朝目を覚ましたら結果が出ているという寸法だ。

お陰様でヘトヘトの私は、今夜ゆっくり眠れる。養父様、養母様、アリガトウゴザイマス。


翌朝、スッキリ目が覚めた私は、新しい護り石と対面した。

リーフ同様ペリドットのきれいな結晶に宿った精霊は、活発そうな男の子のように見えた。具現化する精霊の容姿は、精霊自身のイメージに大きく影響されるので、きっとこの姿がこの子の理想なのだろう。

いいね、サテライトとして働く意気込みを感じる。

仲良くやれそうな気がした。

愛称はライトで。サテライトだからライトって、もうそこはいいじゃないデスカ。突っ込まれる声が聞こえるから、先に謝っときマスケド。


説明もそこそこに、早速水を飲みにやって来たオオタにライトを装着する。事態は切迫しているのだ。出来るだけ早く現状から抜け出す必要があった。

最近オオタは本当に私に馴れてきて、首もとのもふもふした羽毛を触っても全然怒らない。怯えもしない。触り放題。もふもふ天国だ。

私がもふもふを楽しみながらオオタの気を引いている間に、トマスがライトが入るポケット付きの足環をオオタに装着して準備OKだ。

自分よりも体長の大きな鳥に素早く近付いて、相手に不快感を与えることなく足環を装着してしまえるトマスの技量がマジで凄い。さすが、自らこの役目をやりたいと名乗り出ただけのことはある。


オオタはしばらく私に付き合ってしたいようにさせてくれていたが、そのうち、もういいでしょ的な空気を出し始めた。本日のもふもふタイム終了だ。

私が名残惜し気にオオタから手を離すと、オオタはゆっくり後退り、いつものように大空へ飛び立って行った。

オオタの振る舞いを見ていれば誰もが同じ疑問を抱くと思うのだが、オオタの立ち振舞いにはその端々に人への気遣いが溢れているようにみえる。

ゆっくり後退りする様しかり。飛び立つ時も彼は低空飛行はせず、まず真っ直ぐに高く飛び立ってそれから上空を移動していく。

近隣の人家に配慮している?

野生種にしては、彼は人慣れし過ぎている気がした。

あくまでも私の勘に過ぎないが、オオタの影には確実に誰か人がいるに違いない。


今回の追跡調査は長丁場になるため、モニタールームとしてダイニングが開放された。

ダイニングの片隅には大きな盥に水を張ったものが用意されている。風もなく凪いだ状態の水面は、鏡のようだ。モニターとして申し分ない。

場所をダイニングに移し、優雅に朝食を取りながら待ち構えていた家族へ挨拶もそこそこに、私はリーフやナミと協力してライトが見ているライブ映像を水面に映し出した。

感度は良好。

水面には、遠く下の方に王都の街並みが映し出されていた。

今日は一日、私はプロジェクターとして、絶え間なく盥に魔力を注ぎ続けてダイニングで過ごすことになる。

長い一日の始まりだ。

私は盥が見えるところに椅子をセッティングしてもらうと、片手間で食べられるように用意してもらったサンドイッチの朝食をとった。


オオタは真っ直ぐに王都を飛び出すと、まず都を囲う外壁からほどほどの距離にある大きな木にとまって羽を休めた。

王都の外には大きな森が広がっているようだ。森の向こうには高い山並みが連なっている。

オオタはしばらく木の上から下界を眺めていたが、目当てのものを見つけたのだろう。森の奥の方へ、木の上で過ごしていた獲物目掛けて滑空を始めた。

なるほど、こうやって餌を確保していたわけね。良かった。王都内でご飯見つけてなくて。


無事にご飯にありついたオオタは、しばらく森で過ごした後、今度は山並みの方へ飛び立った。

お腹はもういっぱいなのだろう。下界を色々な野生動物たちが行き交っているが、オオタはそれに目もくれない。

そのまま一番手前の山並みを飛び越えると、視界が不意に開けて景色のきれいな渓谷に出た。谷合には小さな川が流れていて、山頂から流れ落ちる落差の大きな滝も見えた。

オオタは滝壺の近くに舞い降りると、霧のように滝壺から沸き立っている水しぶきを身体中に浴びて水浴を楽しみ始めた。お風呂タイム。オオタは、なかなかのきれい好きらしい。入念に羽繕いしている。


羽繕いが終わって羽が乾くと、オオタはまた飛び立った。滝を眼下に見ながら、今度はそのまま川の上流へ飛んでいく。辺りは深い森の様相だが、遥か向こうに小さな村があるのが見えた。

オオタはそのまま飛び続けて村を飛び越えると、ついに川の源流らしい、湧水が溜まって出来た小さな湖のほとりに降り立った。

辺りに人影はまるでない。

オオタが高く鳴き上げると、彼の声が森に響いた。

こうなると、このあと誰か人が出てくるんじゃないかって思うじゃない、普通。

見るからに怪しい光景なんだからさ。

でも、誰も現れない。

オオタは一人で色んな種類の鳴きかたを披露しているが、それに誰かが応えを返すこともない。

結局しばらく鳴き続けただけで、その日は帰路についてしまった。


きれいな景色がいろいろ見られて、若干心は潤ったかも知れないけれど、どうにも納得のいかない結末だった。

半日以上かけてずっとその様子を見守っていたトマスと私は、お互いの顔を見合わせて大きなため息をついた。精神的なダメージが半端ない。

元々の目的だったオオタの生態はある程度解明されはしたけれど、トマスも私もオオタの影に潜んでいる人物が現れるかと思っていたのだ。

だからガッカリした。


「とりあえず、オオタカの生態が分かっただけでも大したものよ。」

時々ダイニングに様子を見に来ていた養母様が結果を知って、私とトマスをねぎらってくれる。

確かにオオタが人に危害を与えていないと分かっただけでも、大きな収穫があったと言えるだろう。

オオタは実にいい子だった。ちゃんと人目につかないところまで飛んで行って、一人でご飯を確保して食べ、お風呂に入って身支度も整えていた。説明がつかないのは、最後の湖での行動だ。

何であんなに鳴いていたんだろう?

そこまで考えて、ある考えが不意に私の頭をよぎった。


もしかしたら、もしかする?

思いつくままに可能性を(あげつら)う私に、リーフは一言「可能です。」と返した。

一度そうかも、と可能性を考えてしまうと、もう黒幕(言い過ぎ?)は彼だとしか考えられなくなってしまった。

早急に彼にもう一度会わなければならない。何としても、早急に。

宿り石の儀について、どんな儀式かは精霊の愛し子にて

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