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不審者、来訪

リーフがスカウトしてくる後輩のための理想的な宿り石は、残念ながらエッジストーン家の所蔵品の中には見つからなかった。

リーフが魔力を通しやすい今の宿り石と同系統の石がもう一つあれば、テレパシー的な手法でそれぞれの石に宿った精霊同士が会話できるらしい。

スカウトしてきた後輩を同系統の石に宿らせ、リーフとコンビを組んでオオタをリサーチする作戦だ。


「新しい魔法石が欲しいんです。」

朝食後に養母様に申し出ると、養母様は怪訝な顔をしてその理由を聞いた。

もとより養母様たちに計画を全て打ち明ける予定だったので、この展開は望むところだ。全然問題ない。


サテライトで仕える護り石。

保護者たちの間で即刻話し合いがもたれた結果、私の計画はそのまま進められることになった。

家族の身に危険が及ばないという点が一番の評価のポイントだったと思う。

普通に、空を飛んでいくオオタの後を走って追いかけるというキケンな案もあったからね。身体的なリスクが最も少ないこの案を採用したい養父様の気持ちも分かる。

屋敷に常駐している精霊たちにリサーチしたら「愛し子ちゃんの役に立てるなら、サテライトでも全然OK!」とどの子も軽くGOサインを出したことも決定を後押しした。

愛し子チート万歳だ。

早速その日の午後、魔法石の出入り業者が候補の石を見繕って屋敷にやって来ることになった。


商人さんたちが自宅にやって来る初めてのお買い物に、私のワクワクはどーんと盛り上がったが、貴族の時間はとてもゆったり流れる。実際に彼らがやって来たのは午後を大分回って、私の興奮が治まりきった頃だった。

やって来た商人は三人組。今回の応対は養母様が務め、私も添え物として彼らに会う。

これはリーフが一番魔力を通しやすそうな石を見つけるためだ。養母様は客前に私を出すことを当初とても渋っていたが、計画実現のために折れてもらった。

養母様の心配を減らすためにも、今日の私はパターンA、無口で人見知りなお嬢様になる。


宝石を携えてやって来た、一番年配の一癖ありそうな代表者:ヴァージル・アッシュベリーは、いかにも宝石商らしい、修羅場を潜り抜けた感の漂う兵風の男だった。

客間に迎え入れると、まずヴァージルが恭しく頭を下げて、養母様に今回の注文に関してつらつらと貴族向けのお礼を言う。それを受けて養母様がにっこり笑って季節の挨拶を返し、彼に椅子を勧める。


どうしてだろう。

どっちの言葉にも心がこもってない気がするんだけど?

若干傍で見ていて怖いんだけど?

客間の空気がビリビリ震えている気がする。どっちも負けていない。まさに竜虎相搏つという感じ。

この感じからすると、多分アッシュベリー商会は、エッジストーン家にとって油断のできない商人だということなのだろう。

二人の様子を養母様の後ろから覗き見ながら、私は決して前に出ないぞ、と心に固く誓った。


養母様とヴァージルが共に笑顔で緊迫した雰囲気を醸し出している間に、彼が連れてきた二人の男によって、テーブルの上にきれいなショーケースが出来上がっていた。彼らが持ってきた、引き出し付きの収納トランクはなかなかの大容量のようだ。

なんだかんだ言っても私も養母様も女。大量の宝石を前にしてテンションは爆上がりだが、貴族たるものそれを相手に悟らせてはいけない。平静な顔は崩さないままで。商品に駆け寄るなんて、もってのほか。

特に今回添え物としてこの場にいる私は、養母様の後ろからそっと顔を出して、遠巻きにショーケースを眺める程度がちょうどいいと判断した。


今回持ち込まれたのはペリドットを中心にキャッツアイやアクアマリン、ローズクォーツなどの色とりどりな石たちだった。

石の種類がいろいろあるのは、私の護り石を外部に特定されにくくするためだ。

石使いの家に新しく引き取られた女の子が石を選ぶとなれば、商店主たちに護り石用と推察されても仕方ない。既に私の護り石は決まっているのだが、精霊が見えない人たちには私の周りを飛び回る精霊を見ることは出来ないし、実際探しているのは護り石と同じ系統の石だ。

新しい石使いがどういう系統の魔法使いか、石から推察するのは簡単だ。石が分かれば情報を逆手にとって、その石使いが使えない魔法もおのずと相手に知られてしまうことになる。

そういう事情から、今回は系統の違う石を取り合わせて2、3個購入する予定になっていた。

……私の思いつきで散財させて、すみません。


石選びはお財布を握っている養母様にほぼ丸投げの私が、今回並べられた宝石たちを見て心底思ったのは、カットと研磨の重要性だった。

今日は上着で隠している私のベルトに入っている護り石は、簡単に研磨されただけの、どちらかというと原石に近い石だ。それぞれそれなりの輝きはあるが、魔力の容量を確保するという目的もあるため、ほとんどカットは施されていない。

養母様が用途を誤魔化すために、はっきり護り石用と告げなかったせいだろう。今回ショーケースに並べられた石は、その1/3くらいが丁寧にカットが施されて輝きを放っている石だった。

流石にこの世界にはブリリアントカットはないようだけど、カットされ磨かれた石はやっぱり輝きが全然違う。 

職人さんの技術に素直に頭が下がる。

これは普通に素手で触っちゃ駄目だろ、と思いながら遠巻きに石を眺めていると、不意に妙な視線を感じた。

ゆっくり顔を上げると、ヴァージルの後ろに控えていた紹介もされていない従者の男が、じっとこちらを見ている。

私と目が合うと、男は嫌な笑いを口元に浮かべ、私から目線をはずさずに小さく頭を下げた。


この人、気持ちワルイ…。


私の中で警鐘が鳴る。

こういう時は決して相手に話しかけてはいけない。身分の高いものが先に声を掛けるということは、相手に発言を許すということだ。

これ以上、彼が発するものを何一つ受け取りたくなかった。

私は彼から目をそらすと、この場で繰り広げられている全ての出来事にこれっぽっちも興味がないというポーズをとって、養母様の後ろに引っ込んだ。

私の意図するところを汲み取ったのか、リーフが一人でショーケースの方へ飛んで行き、目当ての石の上に乗る。

養母様には、口に出さなくてもリーフの見つけた石が分かったはずだ。

私は客間の隅に控えていたクロエを小さく手招きして呼ぶと、そのまま客間から連れ出してもらった。


「あの子の欲しがる石があればと思ったのだけれど、みつからなかったようね。」


閉まっていく扉の向こう側で、養母様がヴァージルに私の退室について説明しているのが聞こえた。

そうですか、私が欲しがる石は今回なかったと。

タヌキですね、養母様。流石です。

自分の部屋に向かって歩きながら一人でにやけていると、クロエが横でほっと息をついた。


「急に退室なさりたいとおっしゃるから、気分でも悪いのかと心配いたしましたが、どうやら大丈夫そうですね。」

私の顔を覗き込むクロエに笑顔を返す。

「ごめんなさい。心配かけました。」

「アッシュベリー商会さんは、ちょっとクセのあるお店なんですけど、品揃えと品質は確かなので、なかなか出入りを断れないんです。いつもは護衛を連れて、5人くらいでお越しになるんですけど、今日は少人数なのに女性の方を連れてらして、びっくりいたしました。」


世間話として笑って聞き流そうとしたクロエの話の違和感に思わず足が止まった。


「女性? 男性三人じゃなかった?」


室内の様子を思い返しながらクロエに問い返すと、クロエは声を上げて笑った。


「また、ご冗談ばっかり。髪の長い綺麗な女性の方がお一人いらっしゃいましたでしょ。」


どうやらクロエは本気で女性がいたと思っているようだ。

納得できない事態に眉をひそめたところに、石選びに立ち会って遅れていたリーフが私に追いついた。

「一人、幻惑魔法の使い手が商人に紛れ込んでいましたね。」

リーフの言葉に、あの気持ちワルイ男の顔が脳裏をよぎった。


つまり、幻惑魔法を使って女性に化けた男が商人の中に紛れ込んでいたということか。


防護結界を越えて入って来ているのだから、今回は特に害意を抱いての来訪ではなかったのだろうが…。

偵察? 陽動?

どちらにしても、得体の知れない魔法使いの侵入はあまり気持ちのいいものではない。

隠されていたのか、あの男の周りに精霊の影は見あたらなかった。

リーフの加護のお陰で、私が幻惑魔法の影響を受けていないこと、あいつに見破られただろうか?


私の知らないところで、誰かの思惑が動いているのは間違いなかった。

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