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急募、諜報部員

「すみれってさ、最初からいろいろと諦めてるよね。」

夕日の差し込む教室で、窓を背に佇む彼女が言った。

「来る者は拒まず、去る者は追わず。仕方ないとか言ってさ。

でもそれって結局裏を返せば、あんたは身の回りのこと全部どうでもいいって思ってるってことなんじゃないの?」


逆光で顔がはっきり見えない彼女の手厳しい攻撃は続く。


「自分の人生なのに、あんたの立ち位置はまるで傍観者だよ。一つでいいから、これだけは譲れないとか、絶対にこうなりたいとか、そういうこだわりはないの? 

自分を全然大切にしようとしないあんたのことを、大切にしたいと思ってる人がいるってこと、考えたことないの?

自分から手を伸ばして、何かを掴もうとしてよ!

諦めないでよ、すみれ! 

もっとあがけ! 

願え!」

「生きたいと願え! ヴィー!」


男性の悲痛な叫び声に、はっとして目を開くといつもの天蓋が目に映った。

エッジストーン家の私の部屋だ。外はまだ薄暗い。


久しぶりに見た夢だった。

前世でも何度も見た夢。16歳の頃の記憶。

舞台は高校の教室。登場人物は、私の幼馴染みの女の子。

この夢を見た朝はいつも心の中がぐちゃぐちゃで、しばらく私の精神状態は不安定になってしまう。


またあの子に怒られるような生き方してるのかな、私。

ごめんね。でも私、まだ譲れないものが見つけられないんだよ。

ため息をつきながら夢を反芻したところで、最後の叫び声が友達の声じゃなかったような、とやっと思いいたった。

誰の声だったかな。考えてみたけれど、全く思い出せない。

考えているうちに眠くなってしまって、ついつい2度寝してしまった。


コツコツと何かが窓に当たる音がして目が覚めたのは、日が昇りきってからだ。


コツコツコツ


コツコツコツ コツコツコツ


コツコツコツ コツコツコツ コツコツコツ コツコツコツ


ヤバイ! さっさと起きなければ、窓を叩き割られる!!

慌ててベッドから駆け下りて窓を開くと、窓から大きな嘴がにゅっと突っ込まれた。

嘴の持ち主は、勿論先日空からやって来たオオタカだ。


「おはよう」


オオタカに手を差し伸べてペチペチと嘴を叩いてやると、ケッケッと気持ち良さそうに鳴き声をあげる。

私がいつも通り、ナミの魔力を充填して大きめのウォーターボールを作ってやると、オオタカはおいしそうに喉を鳴らしてそこから水を飲んだ。


実はあれからオオタカは、ずっとこの家の庭に居座っている。

レイモンドお兄様の電撃で記憶が混乱していて、帰るべき巣が分からなくなってしまったのか、それともこの家を取り巻く環境が気に入ってしまったのか。本当のところは誰にも分からない。

意識を取り戻したときに、気付けにと思って私が魔法で与えた水が気に入ってしまったのか、朝になると私の部屋の窓をコツコツと嘴でつついては水をねだる毎日だ。

もしかしたら、意識を取り戻したときに最初に認識した生物が私だったので、刷り込み効果が発動して私を親と間違えているのかも知れない。

オオタカは毎朝水をもらうと何処かに飛び立って、夕方になるとまたこの家の庭に戻ってくる。特にお腹をすかせているようには見受けられないので、何処かで餌を調達していると思われた。


何処かで……って何処で?!


私の前世からの知識では、オオタカは猛禽類。肉食の彼らは森の小動物などを捕食していたはずだった。

まさか、街中で人様のペットとか捕食したりしてないよ…ね?

姿を消した孤児とか、いないよね?

目の前の、つぶらな瞳が可愛いこの子がどうやって餌を調達しているかなんて、できれば考えたくない。考えるだけで、いろんな可能性に血の気が引いていくから…。

こちらの世界では生態がまだはっきり分かっていないオオタカだけど、とりあえず私の前世の知識から、王都内の牧場や肉屋には注意喚起して回った。いきなりの上級貴族からの通達に表立って不平不満を言う者は誰もいないが、ご近所周りの皆様が毎日不安な思いをしながら生活しているのは間違いない。


この問題を簡単に解決することができない理由は、ひとえに問題となっているのが希少な生き物の、しかも子どもだからだ。オオタカから被害を受けたという報告は、現在どこからもあがってきていない。今の国王が鳥好きなことも手伝って、オオタカの命を奪うという選択肢は今のところ全く検討されてはいなかった。

国としては、個人の屋敷に飛び込んできた鳥なので、できるだけ穏便に個人の力で解決してほしいというスタンスのようだ。

誰がオオタカをエッジストーン家に誘導したのか知らないが、嫌がらせ効果バツグンである。


現状を打開するために、何度も家族会議が開かれた。

オオタカを再度麻痺させて捕獲したとしても、生態が分からないので放すのに適した場所が分からない。あの大きさだ。保護してくれる施設もない。

その場しのぎの案として近所の方の不安を軽減するために、オオタカの体を隠蔽の魔法で見えなくする案も出たが、それはすぐさま却下された。

オオタカを人から見えなくしたところで捕食問題が解決されるわけではないし、逆に姿を見えなくすることで警戒態勢をとることさえ出来なくなってしまう。


オオタカを縮小の魔法で小さくする案も出されたが、結局こちらも却下になった。

体を小さくしたせいで外敵に襲われて絶命した場合、エッジストーン家では責任がとれないからだ。


ともかく早急にオオタカの生態を調べあげる必要があった。

エッジストーン家としては一時的にオオタカを保護していますという立場上、足環をつけたり、名前をつけたりすることは憚られたが、毎朝部屋を訪れるオオタカに私が愛着がわかないわけがない!

他の家族にばれにくいように「オオタ」という愛称もつけた。

とりあえず、オオタが昼間何をしているかを明らかにすればいいのだ。


それって、私が1日オオタの後をつけて行動すれば全部解決することじゃない?


養父様やオリバーお兄様と違って、私にはするべき仕事もないし、学校にも行ってない。幸いなことに精霊の加護もあるし、体が小さいからオオタに乗ったり、足に籠を付けてそこに私が乗り込んだとしてもたいしてオオタの負担にならない気がするんだよね。

軽くリーフに提案すると、リーフは泣いた。


「そんな危険なことをさせるために加護を付与したんじゃありません!

お願いします。もっとご自分を大切になさってください。」


自分を大切にって何処かで聞いた台詞だな。

すみません。どうやら私、転生しても全く成長してないようです。


リーフをなだめている間に、目の前のやりとりに全く興味のないオオタは何処かへ羽ばたいて行ってしまった。

仕方ない、今日のところは諦めよう。


「ノコノコついていったところを、待ってましたとばかりに身柄を拘束されたらどうするつもりですか!」


リーフのお説教はしばらく終わりそうになかった。


「魔法で、オオタがどこで何をしているか探ることってできないかな。」

お説教の合間に質問を差し込んでみたが、リーフの感触ではそれも難しそうだった。

どこにいるかは分かっても、精密な地図がないのでそれがどんな場所かまでは判断できないそうだ。その上そこで何をしてるか探る魔法だなんて、難易度が高すぎて精霊でも首をひねるレベルらしい。

ドローンみたいに一緒に飛んで、オオタが何をしてるか撮影できればいいんだけどな。

私が一緒に行くのが駄目なら、オオタに護り石を載せて…と言いかけたらリーフがまた泣いた。


もう、ほんとゴメン。

鬱陶しくなってリーフを捨てようとしてるんじゃないんだよ。頼りにしてるから。

大事に思ってるよ、ほんとだって。

だから機嫌直して。



結局オオタを探るために、リーフが同郷の後輩をスカウトする話で事態は落ち着いた。

いい子が見つかるといいねぇ?


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