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霹靂の魔法使い

耳を劈くような爆音と共に、辺りの空気が震撼した。

レイモンドお兄様は立て続けに2発めを射出すると、ことの成り行きを見守っている。


着弾音のあまりの大きさに、思わず首をすくめて耳を塞ぐと、リーフが気を利かせてそっと私の耳に遮音の魔法をかけたのが分かった。

この魔法を使われると、どうやらしばらくの間、音量がミュート状態になるらしい。少し間を空けて、大きな影の主はエッジストーン家の丘に大地を揺らして落下したが、今度は私には何の音も聞き取れなかった。

どうでもいいことかも知れないが、リーフが最近どうもおかしな方向に進化している気がする。しかも、かなり過保護に拍車をかけて。

私の周りの大気中の砂埃を集塵の魔法で小石のように固めてこっそり大地に返したり、外気温が上がってきた日には、空気に冷却の魔法をかけてみたり、きつい日差しにフィルターをかけて光の量を調節してみたり…

明らかにやり過ぎでしょう。

まあ、お陰でいつも私の周りは空気が清々しいし、気温も快適なんだけど。


いつの間にか辺りの状況を偵察に出ていたコスモが帰ってきて、お屋敷の周りに人影らしい人影は見当たらなかったとリーフに報告をあげていた。

コスモの報告を受けるその姿はもはや、精霊というよりも側仕え頭的な?

他の石使いに仕える精霊たちも、こんなに自由に魔法を使いまくっているんだろうか。

今度暇を見つけて、調査してみた方がいいかもしれない。


ふと見ると、ジャスミンは何もなかったような顔で優雅に座ってお茶を飲んでいる。

「あまり埃が舞わずにすんで、よろしかったですわね。」

私の視線に穏やかに微笑んで返す彼女には、なんと肝の据わった子どもだろうかと感心せずにはいられない。

見た感じ、特に今は何の波動も感じていないようなので、多分不安は去ったということなのだろう。


ミュートの魔法も解けたようだし、落ちてきたものを見たいとアーサーに言うと、しぶしぶ私がガゼボから出る許可をくれた。もちろんアーサー同伴でだ。

ガゼボから少し離れた丘に横たわっていたのは、全長が5~6mほどもありそうな大きな鳥だった。

「オオタカの子どもだね。」

鳥に近づいて様子を観察していたレイモンドお兄様が教えてくれた。

今はピクリとも動いていないが、死んではいないそうで。


ていうか、子ども?

この大きさで?

まあ、確かに名前は「オオタカ」なのかも知れないけれど、大きすぎでしょ。

スケールおかしいでしょ。

いろいろ突っ込みどころは満載だけれど、この世界ではこのスケールが当たり前なので、わざわざ口に出して突っ込んだりしない。私は空気を読める子です!

ただ、こうなると俄然他の生き物にも興味がわいた。是非、動物図鑑とかがあれば見てみたい。


「さっきお兄様が使ったのは、何の魔法だったのですか?」


興味津々でレイモンドお兄様に尋ねてみると、横からアーサーが割って入ってきて、自慢げにお兄様の魔法について語り始めた。

レイモンドお兄様は雷魔法の使い手で、通り名を「霹靂(へきれき)の魔法使い」というらしい。

霹靂とは雷のことで、日本のことわざで言うところの「青天の霹靂」というあれだ。

魔力の調節によって、流す電力の量や周波数を自由自在に調節できるお兄様は、医療現場を始め、あらゆる加工工房からも引っ張りだこの才能ある魔法使いらしい。

電気に関連深い、黒い石といえば…

ブラッキーの宿り石について思いをはせていると、アーサーの後を継いでリーフが解説を入れてくれた。


まずお兄様の放った一発め。

あれは、オオタカが魅了魔法などで状態異常に陥っていた場合を考えて放った、ショック療法の電撃。

そして二発めが、身体の自由を奪う麻痺の電撃。身体の自由を奪うとともに、衝撃によって落下位置も調整する。

繊細な魔力の込め具合も、選択した魔法の種類もリーフから見て文句なしの出来だったそうだ。


エッジストーン家の周りには、家人に害意を持つ者の侵入をはじく防護結界がはってある。上空からとはいえ、その結界をかいくぐって侵入してきたこのオオタカは、エッジストーン家に害意はなかったと思われた。人前に姿をさらすこと自体がレアなオオタカの生息地は、こんな王都の街中よりも更に山深い森林地帯だとされている。希少種であるオオタカの更に希少な子どもが、何かのアクシデントで迷い込んだにせよ、こんなところまで飛んでくること自体が不自然すぎてありえない。

「意図的にここまで誰かに誘導されて来た、としか思えないね。」

レイモンドお兄様が険しい顔で独り言のようにつぶやくと

「凄いサプライズプレゼントでしたわね」

と後ろから遅れて丘を登ってきたジャスミンの声がした。


サプライズ、プレゼント?


この場の雰囲気に全くそぐわないワードに、思わず訝しげにジャスミンの方を見ると

「あら、だってそうじゃありませんか。」とジャスミンは笑った。


「この家に害をなそうとするのであれば、わざわざ希少な生き物の子どもを使わなくても、何だってよかったわけでしょう? オオタカの、しかも子どもなんて、そうそう簡単に見つかるものではございませんよ。わざわざ遠方から魔法で誘導して運んで、使った魔力だって相当な量になるでしょうに、ねえ。

しかも、今日はすみれ様のお誕生日でしょ? 本来であれば、家人はピクニックで出払っていたはず。きっと留守宅にこっそり置いて去ろうという、誰かからのサプライズプレゼントに違いありませんわ。」


妙に自信満々のジャスミンに、そんな馬鹿なと思ったり、一理あるとも思ったり…。

いずれにしても、オオタカにメッセージカードは付いていなかったし、どこからも犯行声明が上がっていない今は、私たちがここであれこれ考えても何の結論も得ることはできそうにない。

私には、この世界の情報が全く足りていない。

このままエッジストーンという家に守られて、何も知らされぬまま表向きだけ平穏に生きていくか、この世界の私を取り巻く事情を全て理解した上で、自分の身を護りながら平穏に生きていくか。

近いうちに決断が必要だ。

あ、平穏に生きてくってとこだけは絶対譲らないんで。

後、できるだけ他人に迷惑かけたくないなぁとか、まあ今後の私の人生における希望なんてそんなところだ。


レイモンドお兄様が、つぶさに観察したところオオタカには特に目立った外傷は見当たらないようだった。覚醒するまでまだまだ時間もかかりそうだし、後のことは養父様たちに丸投げで大丈夫だろう。

ジャスミンのふんわりコメントで、何だかうやむやになってしまった今回の件だが、実は私の中には一つの疑惑が湧き上がっていた。


気になるキーワードは「希少な生き物の子ども」だ。


その言葉は、精霊の愛し子として、同じカテゴリーに所属している私を思い起こさせた。

希少な生き物の子どもを思い通りに操ることができる。

今回のオオタカの件は、誰かしらのそういうアピールなのではなかったか。

「他の石使いの血族がやっかんで、横槍入れてくる可能性もあるからね」

初めて会ったときの養父様の言葉が突然甦った。


手に入れられなくても、自由に操ることはできるよ。


もちろん、単なる私の考えすぎなのかもしれない。だけど私には、横槍を入れそうなその誰かの思惑が、今回の件の裏側に見え隠れしているような気がしてならなかった。

子どもに対してそんな手の込んだアピールをするヤツはいない。

もし、これがその手のアピールなのだとしたら、対象者は明らかにエッジストーン家、ひいては養父様と養母様に向けてのものだろう。

私の保護者である彼らを、この屋敷から、私から引き離しておいてから、招かれざる客を送り込むことで自分たちの力を私たちに誇示する。

まさか…ね。


果たして、本日のゲストのおば様たちが今回の件に関わっているのか、それとも全くの第3者の誰かの策略なのか。

私の心の中に、いつまでも消えないモヤモヤした思いが残った。


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