五章11“赤目の少年”
…ここは何処だ?
頭が痛い……何があった?
俺は武具屋を出て宿に向かっていた。
そしてレイスの声が聞こえて…そうか殴られて気を失ったんだ。
くそッ…。
腕は背中で縛られている。
足も縛られている。
縛ってるのは縄だな…つまり縄を切るのは魔法を使えば出来るだろう。
状況確認をしなければならないが……ここは小屋か?木造りの小屋…。
明かりもないしついでに、椅子が1つ入り口の近くに転がっているぐらいしか物が見当たらない。
小屋が古くて隙間から光が射し込んでいる。
しかし光は弱いので、あまり日の当たらない場所か、夜なのかそれともその両方か…。
俺たちの行動していた時間を考えれば夜なのは間違いないか。
さて…問題は誰がこんな事をやったのか。
正直わからない。
恨みを買うようなことはしていない…、来る前に遭遇した野党の生き残り?
わざわざこんな場所まで?そうは思えないな。
しかしヨーグに来てから関わった人は……冒険者ギルドの店主、名前も知らない。
関わったと言えるかわからないがあの美人な情報屋?名前も知らない。
じゃあラウズさん?
そんな嘘をついてるようには見えなかったし、邪魔をする意味がないはずだ。
そんな恨まれることはしてないつもりだから…やはりあれか?
俺の家紋を見たやつが誘拐して身代金をって感じとか?
わざわざ剣聖の家系に身代金…可能性はない事もないか。
扉の向こうに気配を感じる。
誰か来る…、恐らく犯人か…、俺に武器はない。
魔法で縄を切ることは可能だろう。
しかしそれは抵抗する姿勢を意味する。
一旦大人しく様子を見るのも手だろう。
だがリスクも高い。
俺はインパクトを使って縄を破るように破壊する。
だが縄の切れ端を握って腕を隠すように壁にもたれかかる。
扉が開いて現れたのは1人の少年だった。
身の丈ほどの長剣を背負ったロングコートを着ている…俺とそんなに変わらない背格好の少年。
外は雨が降っているのがわかる。
濡れた青い髪の毛を片手でかきあげて前髪をあげる。
「よう、起きてるみたいだな」
その顔には見覚えがあった…青髪に赤目の目立つ容姿の男…俺の記憶に確かに……。
そう言って赤い目の少年は小屋に入って来る。
少年は転がっている椅子を足で器用に掬い上げるように蹴り上げる…見事に椅子はしっかりと床に足を付いて立ち、その上に少年は腰を下ろして、足元の床に背中の剣を突き刺す。
俺の精神としては少し落ち着いた。
相手はそんなに歳の変わらなさそうな少年…、楽観視するには早過ぎるが、強面のおじさんが来るよりは精神的に余裕がある。
「…あな」
「はじめまして…レオリス・アストラル?」
俺の言葉を遮って挨拶を始める少年。
少年は歪むような笑みを浮かべていた。
その笑みはとても…冷たく…そして恐怖を感じた。
「俺は…ルシエル・ノーバルギア、仲良くやろうぜ?次期剣聖」
ニヒルな笑みを浮かべたまま俺を見つめる少年。
野党って感じではない。
白いロングコートに、中は黒を基調とした服装。
あまり旅を意識した服装には見えない。
この前はこの上からローブを着ていたが、あれは買い換えたとかそういう事だろうか?
パッと見た限りだが床に突き刺した剣以外の武器を持っていないように見える。
「静かだな…」
「……」
少年が退屈そうにこっちを見てそう口にする。
「普通目的とか聞いてみるなり、暴れてみるなりするもんじゃねぇのか?」
「聞けば答えて貰えますか?」
その答えはわかっている。
だが聞かない訳にはいかない。
「質問によるな」
相変わらず俺をじっと見つめている。
目が赤い…もちろん充血してるからなんて理由じゃない。
瞳が赤いのだ。
赤い目なんてかっこいいとか思っていたが、あざ目の当たりにすると非常に怖い。
まぁこの少年の表情や雰囲気にもよるが…。
「何が狙いですか?」
とりあえず質問をする雰囲気になった。
まともに答えて貰えるとは思わないが、聞きたいことがあるのは本当である。
「ん〜、俺も知らねぇ」
知らないのかよ、と突っ込みたくなる衝動は抑えておこう。
コイツは依頼された可能性があるってことかもしれないな。
「ここは何処ですか?」
「ヨーグからそんなに離れてねぇよ、街外れの山小屋」
本当かどうかわからないがスラスラ答えてくれている。
「俺の武器は持ってますか?」
「あるわけねぇだろ」
そうだよな、誘拐されてるんだ、ターゲットの武器を持ち込ませる誘拐犯なんていやしないな。
まぁレイス達が……俺はバカだ。
なぜ俺はここにいるのか、誘拐されたのだ!
俺が誘拐されてレイス達が俺を見捨ててスルーするとは思えない。
いや見捨てられてたくないからそう願う。
「……俺の事を攫ったのはあなたですか?」
「ああ、そうだ」
雨の音が狭い小屋に響き渡る。
不思議なほど静かだ。
2人の呼吸音、自分の高鳴る心音…聞こえて来ると …。
「俺と一緒にいた仲間は…」
出来る限り平静を装ったつもりだ。
声を荒げず、震えないように息を整えて口にした。
相手を見据えて…。
さっきまでスラスラ答えていた少年は黙った。
視線を外して小屋全体を見渡している。
そして俺に視線を戻した。
「あー…どうだろうな?」
ここに来て初めて濁した答えを出した。
焦りが俺の中に生まれるのがわかる。
心臓が活動を早める。
呼吸が荒くなるのもわかっている。
「確か女が2人と男1人?だな多分」
話が入ってこない。
コイツは強いのか弱いのか…いや、強いだろう。
体格もそうだが気配がある…雰囲気がある。
こんなリラックスした態勢のくせに隙が無い。
「1人男だか女だかわかりにくいやつがいたが、あれば男だろ!俺の感覚がそう言ってる!」
男の表情は明るい言葉や声色とは相反して冷たく暗い、退屈そうな無表情のままだ。
武器はないか?
アイツの横の剣だ!デカイ剣だが使えなくないはずだ。
「だが1人飛び抜けて良い女がいたな!どうせならあの女を誘拐したかったな、あの時もつい声かけちまったし…」
心臓の活動が治らない。
激しく血液を送り続けている。
「泣くなよ?レオリス・アストラル…、お前の仲間は俺が斬っちまった…わりぃな」
俺はインパクトを使って足の縄を破ると、飛び跳ねるように立ち上がる。
足に溜めていたマナを蹴りつけて加速する。
「インパクトアームズッ!!」
右腕にマナを集めて拳を握る。
マナを…床を蹴って加速した勢いをそのままにルシエルの顔面に向かって拳を突き出す。
拳がルシエルの顔面にふれた瞬間に溜め込んだマナは爆発するように放出される。
ルシエルの体は飛ぶように吹き飛べば、小屋を突き破って雨の中に弾き出される。
「あぁぁぁぁぁ」
俺はそこにある剣を握る。
剣は予想していたより重いが気にしない。
床から引き抜くと、そのまま小屋を飛び出して追いかける。
「いてぇな…おい……」
そう言って頬をさすりながら立ち上がるルシエルに走って距離を詰めていく。
「あぁぁぁぁぁ!!」
もう一度マナ蹴って急加速する。
一瞬にして距離を詰めて腹に剣を突き刺す。
そのまま体ごと押し込んでいくと、ルシエルを貫通してその後ろの大木に剣が突き刺さる。
「うぐっ…!!」
「はぁ…はぁ…はぁ。」
ルシエルは口からボコボコと血を吐き出しながらもこちらを見つめている。
その目からは恐怖が感じられない。
コイツは死が怖くないのか?
そう思った時に俺の精神は怒りから違和感に…そして得体の知れない恐怖が広がりつつあった。
だが、引くわけにはいかない!
「俺の仲間はどうした!答えろ!」
普通なら答えれるはずがない…そう思っている自分もいる。
なのにそう叫んでしまっていた。
「…いてぇだろうが…」
相変わらずのニヒルな笑みに戦慄が走る。
「あぁぁぁぁぁ!!」
頭の中でボンバーアームズと叫ぶ。
ルシエルの頭を殴る。
胸を殴る。
腹を、顔を頭を、胸を顔を頭を腹を何度も何度も殴る。
どっちがやられているのかわからないような声を上げて殴り続ける。
そして……。
「はぁ…はぁ…インパクト…」
ルシエルの体に張り付いた赤いマナにインパクトアームズ衝撃が加わると爆発を巻き起こした。
かつて使った時よりも明らかに意識してマナを込めている。
それは訓練の時からわかっていた。
マナを込めれば威力が高まる。
その威力は爆風で自分を含めた辺り一面を爆音とともに吹き飛ばした。




