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二章10〜“黒竜と剣士”

 ドレイクの指示に言われるがまま真っ直ぐ走ると、リドルフがすぐに俺を発見してくれた。


「レオリス様!ご無事でしたか」

「はい、リドルフさんも無事で何よりです!」


 リドルフに簡単に説明をした。

 黒竜が現れた事。

 クリスが残った事。

 ドレイクがクリスの救援に引き返した事。


「では、我々は避難しましょう。黒竜が王都の中央にいる以上、王都から出る事が先決です」


 俺も思うところがあるが、あったところで何か出来るわけではない、中身は大人かもしれないが、体はガキなのだ。


 俺は逃げるしかない…それしかないのだ…。




 ――――――――――――――――――――――――



 〜ドレイク視点〜




 私が駆け付けた瞬間はギリギリだった。


 黒竜のブレスの性質上防ぐという選択肢はなかったのだと、そう直感した。

 そして回避して着弾した場所を見ればその直感は正しかったと確信する。


 クリスの状況は厳しいと見る。

 吐血しているし、顔色も真っ青だ。

 彼女特有の強化魔法も、解けて反動も出ているのだろう…。

 こんな状態ですら剣を離していないのは剣士としての誇りか、意地か…。


「クリス、マナを纏う事は出来るか?」


 クリスは弱々しくだが頷いた。

 まだ意識はハッキリしているのだろうが、問題は怪我の方か。

 私は勿論クリスもヒーリングは使えなかった筈だ。

 クリスの状態が悪いのは見てわかる。

 しかし私が抱えて逃げると、追撃されて被害が拡がるからかなり厳しい。


 ただ望みはある。

 ここに来る途中にグレイズ王子殿下が、兵士を集めてこちらに向かわせる準備をしていたからな。


 その中には勿論治癒術師もいる事だと信じたい。

 つまりは賭けだ。

 不安要素もある。

 援軍に治癒術師が居ない可能性。

 そもそもクリスがもたない可能性。

 私が足止めも出来ずに黒竜に敗れる可能性。


 私は抱き抱えていたクリスを降ろすと、クリスの腕から聖剣を抜き取った。


『久しぶりダネ?ドレイク』


「ダ…メ、です…ドレイクさ、ま」

「これしか無いのだ…久しぶりだなラシュタル…」


『君のマナはもうボクに食い尽くサレて殆ど残っテナイと思うんだケド?』


 我ら剣聖が受け継ぐ聖剣…白竜剣ラシュタルは初代剣聖レオンハルトによって剣の中に白竜を封印した武器だ。

 マナを触媒に剣から力を引き出すことができる、聖剣とは名ばかりの魔剣である。

 そして白竜の力は体内のマナ貯蔵量をどういう原理か圧迫して減らしていく。

 いつかはマナが無くなり力を引き出す事が出来なくなる。

 マナは生命力でもある、蓄積量が0になれば、つまり命を落とすのだ。


 命を削り力を引き出す魔剣。

 しかし封印の効果でアストラル家の血がラシュタルを暴走させない為の保険となっている。


 クリスは特殊な強化魔法で、剣から受ける強化をあまり必要としなかった事と、受け継げる者もいない。

 国としては剣聖を空席には出来ないという様々な理由でクリスが剣聖と名乗りこの剣を受け継いでいる。


「マナも空ではない…」


『ああ…ソウ…楽しみだネ』


 私は覚悟ができている。

 レオの為にクリスを死なせるわけにいかない。

 そして何かを成すにも力が足りない。

 賭けを有利に運ぶ為に私の命を捧げ無ければならないのならば、この命喜んで差出そうではないか。

 既に引退して使い物にならないこの身を盾に…クリスやレオの未来に繋がるのなら…。

 何かを守る為に命を削り戦う。

 剣聖の宿命だ。


 懐かしい感覚だ。

 剣を持つ腕から熱が肌の上を這うように登ってくる。

 腕から白と紫のまだら模様が広がっていく。

 そして私に時間はない事を感じさせる。


 黒竜はこちらに向かって再度ブレスを撃つつもりか、口から煙を出している。



 私は一気に近付く。

 今の私の動きは雷神装衣のクリスと大差ないだろう。

 己の肉体強化だけではない、白竜のマナも体を巡回している。

 つまり命を削り続けている。

 黒竜の下顎に向かって剣を振り抜く。


 首回りの鱗は他の部分より遥かに硬いので簡単に斬り落とせるなんて事はない。

 だが振り上げるように振り抜いた剣は下から頭を打ち付けられ、ブレスは天に向かって吐き出される。


 竜の戦い方はそうだ。

 先ずは鱗を削りマナを削る。

 そうしなければ再生が続く。

 竜は首を切り落としでも再生する。

 なのでマナを削ることから始めなければならない。


「ぬぅぁぁぁぁぁぁ」


 私は剣を立てて黒竜の胸に突き刺す。

 私はこの剣を使い続けてきたが、白竜の力を引き出す事は数えるほどしかない。

 それは私が己の矜持の為に、この力には頼らない事を決めていたからだ。

 しかしそんな事は言っていられない状況だ。

 何度もあるわけではないがこの全能感は我々剣士の欲を掻き立てる。


 力を…もっと力を。

 剣士としての力への渇望を満たすこの剣は……。


 黒竜が前足で目の前で胸に刃を突き立てる私を振り払おうとする。

 私は即座に剣を抜き、振り払ってくる前足の下を地を這うように転がって回避する。


 すぐに起き上がれば、比較的鱗が薄いであろう前足の付け根に斬撃を与える。


 そのまま飛び上がり黒竜の首元に剣を振り抜く。

 黒竜は私を追うように前足で攻撃を繰り返すが、影を追うようにその攻撃は私を捉え切れていない。


 しかし、斬撃を入れても傷は再生する。

 そして感覚でしかないが、あまり効いているという手応えを感じない。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 うまくいっていると感じたが、それに手応えを感じない。

 そう悟った時私は体が重く感じた。

 白と紫の痣にも似たまだらな紋様は、広がってきている。

 恐らく顔…いや半身には及んでいるだろう。


 しかし黒竜は私を追っている。

 つまり無駄ではないのだ。

 クリスから狙いを外し、援軍が来るまでの時間稼ぎを…。


「放てぇぇぇ」


 掛け声が響くと、そこには20人ほどの武装した兵士を連れたグレイズ王子の姿があった。

 魔導師も中にいるのか

 ファイアボールが黒竜に襲いかかっている。


「殿下…なぜ貴方自身まで…」

「国を捨てて逃げる者が賢者にはなれんということだ…」


 援護は差し向けてくれることは期待していた、しかし本人がこの場に来るとは思わなかった。

 この状況で王子が黒竜の目の前に立っていてはいけないだろう。

 しかしこの人はそれをやっている。

 王子が逃げずに黒竜へと立ち向かうその姿に、逃げようとしていた兵士は次から次へと武器を取ったらしい。

 共に現れた20名ほどの兵とは別に続々と兵がつのってきた。


「グレイズ殿下をお守りするのだ!」

「暗黒竜より国を守るぞー!」


 治癒術師によってクリスも治療を受けている。

 弓を射る兵士や、魔法を唱える兵士。

 盾を持ってグレイズ王子の周りを固める者たち。


 この人には生きて貰わねばなるまい。

 義娘や孫の未来の為にも………。






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