二章5〜“この血と名に誓って”
王都ゼレーネのアストラル家別宅。
この屋敷は少なくとも本家よりは小さいが、やはり俺基準で語るなら無駄にしか見えない、それくらいには広いのは間違いないだろう。
大きな広間にシャンデリアらしき照明。
壁に飾られる絵画や剣と盾。
一度も使われない部屋があるんじゃないかと思うくらい多い部屋。
こんなデカイ屋敷なのに王都に来る時にだけ使うって……。
宿とかしたら儲からないか?
ちなみに来る前に連絡を入れて業者が清掃に入ってるので、部屋の設備も大概はすぐに使えるらしい。
屋敷に入って俺たちが一室で腰を下ろしている間に、リドルフは荷物を運び入れて、夕食の準備や風呂の準備、さらにはそれぞれが使う部屋を最低限ではあるが確認、及びもう一度掃除を済ませる。
この人はあれだ、あくまで執事なんじゃないだろうか……、忙しく動き回る姿を見ればそうとしか見えなくなってきた俺がいる。
そうこうしている間に食事が用意されていた。
清掃が入った時に一緒に必要な物を買い揃えて貰っていたらしく、あとはそれを調理するだけ…。
他の事をしながらでなければ普通だが、他の多々ある仕事もほぼ同時進行で終わらせる手際の良さ。
ドレイクはきっと小さい頃、眼帯をつけた可愛い伯爵だったのだろうその頃にリドルフと契約したに違いない…何故こんな風になってしまったのか、ショタコンのお姉さんは悲しんでいる事だろう。
そして俺はすごく失礼である。
本日の夕食は
パン
スープ
揚げ肉…唐揚げ的な…?
パンは王都で貴族が好んで食べる高級のものだ。
味は相変わらずないに等しいが、柔らかい。
ふわっとした食感は、前世に比べるとやはり1つランクは下がるが、それでもこの世界で食べたパンではかなり美味しいと思える!
揚げ肉は鶏風の食用の獣の肉に香辛料を塗して、あとは唐揚げと同じだ。
少し筋張って食べ難いとは思うが、臭みなんかは無いので不味くはない。
極め付けはキノコと野菜のスープだ。
野菜や果物は結構前の世界と似ているので、比較的わかりやすい。
しかしキノコは別だ。
別というより苦手だ。
この世界のキノコは自己主張が強いのだ。
椎茸や松茸のように出汁がーとかそんな次元じゃないじゃない。
器を見れば分かるほどに目立つ姿をしているし、食べた味や食感が椎茸に近いものが入っている。
しかもコイツは色が紫色なのだ。
マッシュルーム的なヤツは黄色いのだ。
人工的に着色しているわけでもなく…。
食べる前から嫌になる俺だが、食べない訳にはいかないのだ。
ドレイクは無関心だが、ミトレアは好き嫌いには厳しい、珍しく厳しい…。
前世でもキノコは嫌いではなかったが、こうも似てる食材が、わかりやすく違うと違和感が先行して苦手意識が出てしまう。
さらに言えば調味料や調理法の問題もあって、前世より美味しかったものに巡り会えていないので尚更である。
ちなみにクリスもキノコが嫌いそうだ。
キノコがタップリのスープが出てきた時は涙目になっていたり、ドレイクがいると少ない口数かさらに減る。
あとドレイクも嫌いそうだ……理由は勘。
勿論今回もクリスは涙目だった事は言うまでもない。
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食事を終えたアストラル家の面々は、別部屋にドレイクに連れて行かれる。
クリスだけ荷物を取りに行ってから合流した。
ちなみにリドルフは風呂の用意と後片付けをしている。
「明日の晩は王家の社交場へ行くことになる、ミトレアはレオに復習させておけ」
おっと、やはり貴族となるとあれか、舞踏会的なものに参加せねばならないのか!
一曲よろしいですかな?ってやるのか?
これまたファンタジー感のある事に俺の心は躍る。
「わかりました」
ミトレアはそう言って俺を見てニッコリと微笑む。
というか復習ってことはダンスは習ってないや…挨拶とかそんなのだろう。
「クリス、レオの剣は用意しているな?」
「はい、ここに!」
そういうとクリスは、この部屋に集まる前に持ってきていた剣をドレイクに手渡す。
ドレイクは剣を鞘から抜いて刀身を確認する。
刀身は刃は銀色の美しいとも感じる鈍い光を放つ。
ドレイクは一通り懐かしむようにその刃を見てから家紋の入った鞘に納める。
「レオ、こっちへ来なさい」
「…はい」
なんとなくだが…いや、このくだりで察することが出来ないほど鈍感ではないつもりだ。
そう、これは俺が剣を授かるという流れだ。
当主であるドレイクから…アストラル家として…。
「やり方はわかっているな?」
俺はしっかりと頷く。
多分周りから分かるくらい緊張している。
明日は剣聖の一族、アストラル家として城に行き王族と関わることがあるのだ。
一族として剣を持たなければ格好はつかないだろう。
正直真剣を持つのは早いんじゃないかって思うが、それを言っても仕方ない。
椅子に腰掛けていたドレイクが立ち上がる。
俺はその前に片膝をついて腰を落とす。
「我等に代々受け継がれてきた剣だ、私もお前の父もこの剣を受け継ぎ、そして剣を振り続けた」
父もか…。
「いずれお前が母から聖剣を受け継ぐまでこの剣がお前と共に在る」
俺はドレイクを見上げた。
相変わらず威厳のあるその姿で、睨むような鋭い眼光を俺に向ける。
俺はその目に真っ直ぐ応える。
俺はまだ修行の身…というか未熟過ぎる未熟者だ。
この剣を持つには実力は勿論、もしかしたら中身的に考えても相応しくないかも知れない。
それでも俺が受け継いでいくのだ。
この剣を…。
「お前の肉体に流れる血に、お前の背負うその名に恥じぬように精進せよ」
ドレイクが俺に剣を渡す。
俺は頭を下げて両手で剣を受け取る。
伝統ある剣を受け継ぐのだ。
剣は予想していたよりも重く感じる、そして何か熱が流れ込んで来る気がした。
俺の中の何かにその熱が流れ込み、そしてグツグツと…まるで血が沸騰しているように高揚している。
「ハイッ…、この血とアストラルの名に誓って…」




