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七章12〜“即決”

 


 ルシエルとメリエルの了承を得た。

 俺はそのまま2人が宿に戻ることを確認し、来た道をまた引き返す。

 再びエイルーナに話しに行く、ついでに一緒に居るはずのレイスやミシェイルにも説明する。


 それにしてもこんな夜にも関わらず俺は良く走る走る、それにしても俺は体力がついたな。

 前世の生前よりも体力がある気がする。

 そもそもマラソンなどの長距離走などは、素人のレベルだと慣れや根性の問題だとか聞いた事もある。

 ある程度レベルが上がらないと体力の差は大きくないのだとか……。

 それを聞いた時は慣れと言われても、それこそ体力じゃね?なんて思ったりした…うん、激しくどうでもいいな。


 少し走れば、先程までエイルーナと座っていた場所に3人の人影がある、という事は移動せずに待っていたんだな。


 途中で俺に気付いたらしく全員が立ち上がって俺を迎えてくれる。


「こんな時間なのに慌ただしいね」


 俺を迎えるレイスはいつも通りである。

 何がいつも通りかと問われると、声色や表情、特に雰囲気とか。

 掘り下げるならレイスは年相応の高い声でいつもニヤニヤしている、一言で表すとするなら飄々とした雰囲気と言っておけばいいのではないだろうか?


「…ちょっと忙しくてね」

「…私から話はしました」


 そんな俺にエイルーナが声を掛ける。

 話というのはパーティを離脱したいって事だろう……つまりは2人に説明する手間が省けたという事だ。

 レイスやミシェイルに目を移せば、ミシェイルは神妙な顔付きで俺を見て頷いている。


「エイルーナ、その話の続きなんだが…、本気なんだよな?」

「…はい!」


 俺は話をする前に再確認する。

 こういう事はよく考えるべきだとか、そういう意見もあるのかもしれないが、俺はそうは思わない。

 思考の早さは人それぞれ、それに悩むことで良い選択が出来るとは限らないし、勿論悩んだ挙句の別の選択の方が良いのかもしれない……。

 でも、そんな事を言い出して仕舞えばキリがない、大切なのは本人の気持ちで、他人が選んだ選択ではなく自分が選んだ選択であるという事なのではないかと思う。


 俺の目を見て頷くエイルーナ、決意を感じる眼差しだ。


「…本気で自分の目標の為だっていうなら、俺は出て行く事に反対しない」

「…ありがとうございます」


 何か言いたそうにしているミシェイルが視界の端に映るが、悪いが今は触れないでおこう。

 俺の中では今、娘に上京の話を持ち出されたお父さんの気分なのだ……まぁ娘なんか居ないからそんな経験ないんですけど。


「…冒険者をするんだよな?」


 俺の質問にエイルーナは頷く。

 同時に俺の頭の中はどうやって伝えるのか、どう話すか考える為思考を回転させる。

 そのまんま伝えればなんていう奴もいるが、頭の中の事をそのまま伝えるっていうのは余程賢くないと無理だと思うんだけど……。


「あー…えーっと、いや、遠回しに言う意味なんてないな…、ルシエル達と一緒に行くってのはどうだ?」


 さっきまでの思考は全て捨ててストレートにそう投げた、我ながら呆れる。

 エイルーナもその発想は無かったのか驚いたような表情をしている。


「ルシエル達に話はしてきた、エイルーナが望むなら一緒に来てもいいって…、あの二人もしばらく冒険者としてこの大陸を旅するらしいしさ」


 エイルーナは眉間に皺を寄せて考え込む。

 真相はわからないが、メリエルは勿論、ルシエルの事をエイルーナは口で言うほど嫌いじゃないのだと思っている。

 もし本当に嫌いなら剣を…戦い方を教わったりしないだろうし……。


 だが心境としても複雑だろう。

 エイルーナ自身、俺達と別行動をしようとするきっかけを与えたのはルシエルである。

 そのルシエルにまた同行して旅をするのだから…。


 でもメリットだってあるのだ。

 実力者2人から得るものはあるだろうし、冒険者としての生活に慣れることが出来る。

 暴漢だのなんだのの心配だって、ルシエルになんとかしてもらえるかもしれない。


 命をかけた実戦なんてのも、危険な依頼に同行すればいいのだ。

 あの2人もいれば、最悪の展開にはならないだろうし……。


「あとはエイルーナ次第だ」

「……わかりました」

「はやくね?」

「そうですか?」


 俺はてっきり1日くらい悩むものだと……。

 でも俺達と一緒に学園に向かう事を辞める選択をした時間を考えるとそんなものか…。

 もしかしたらその前から思ってたりしたならちょっとショックだな…。


「ちょっと待てレオ!本当にルーナを行かせるのか?」


 先程まで我慢してくれていたミシェイルは、もう限界らしい。


「…それがエイルーナの為だと思う、それに多分止めても無駄だ」


 きっとどこかのタイミングでエイルーナは1人で旅に出るのだろう、前に親に反対されてもなんていってた気がするし……。


「…そうか……なら仕方ないな」


 ミシェイルは寂しそうに俯いている。

 アストラルの屋敷に来てから、確か近いこともあって仲良くやっていたのだから当たり前か。

 もっと反対するという事も出来たかもしれないが、すんなり受け入れたのはエイルーナの為なのだろう。

 俺がそうだからよく分かる。


「でもさ、真面目な話俺らの方が心配じゃない?」


 ケロッとした顔で後回しにしていた問題に触れてくるレイス。

 そう、その通りである、俺たちの方がずっとマズイ気がするのは気のせいなんかじゃない。


「あー…大丈夫だろきっと」

「なにその顔……すごーい不安なんだけど…」


 世間知らず3人にしっかり者のメイド1人のパーティは、次の船の出発から世間知らず3人になるのだ。

 えっと料理に洗濯に、お金の管理その他諸々……。

 先行き不安だ。

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