七章11〜“心配”
エイルーナはいつにも無く今にも泣きそうな表情である。
それはきっと自分の選択した事が申し訳無いのだと…そう思っているのだろう。
「私の我儘で同行させてもらって…なのに私の都合で……」
エイルーナの我儘?それは違う。
俺がエイルーナを連れて行きたいと思ったからだ。
旅をする戦力としても、俺たちの世話をしてもらうにしても、エイルーナの我儘でなんて断じてないのだ!
「生活補助が必要でしたら、せめて学園に着くまでに…して頂けませんか?」
「…その後は?」
「…とりあえず冒険者として旅を…」
予想通りだ、1人で生活しつつ、実戦経験を積むのならそれが一番効率的だろう。
冒険者ギルドで受けられる内容も様々だ。
RPGさながらの届け物などの、所謂お使い任務から討伐任務まで様々である。
だが…子供が…それも美少女が一人でそんな事をして……どうなるかなんて考えるまでもないだろう。
俺達と学園で過ごす事を強要するという選択肢も勿論存在するが、それはエイルーナの気持ちを考えると可哀想である。
メイリーンさん達には申し訳ない事でもあるが、エイルーナの人生はやはりエイルーナが選択するべきだと思う。
本人が疑問に思って、別の道を選ぼうとする事に、俺が選択を強要するわけにはいかない。
「……やはりダメですか?」
エイルーナも俺の立場やらをわからない子ではないにも関わらず、こうやって相談してくれている、まぁ悩んでから決まるまでの早さは流石と言えるが…。
俺が考えるべきは別の事である。
もしエイルーナが抜けたとして大変な事は?
そもそも俺たちはエイルーナに全て押し付けて旅をしてきたようなものだから、大変なんてもんじゃ無いだろう。
俺たちの都合ならやはり学園までは補助として付いて来てもらうか?
そしてそこからエイルーナは一人旅に出る…?エイルーナは学園までの気持ちは複雑なものだろう。
モチベーションは?
それでは結局エイルーナの為にならないのではないか?
でも結局1人で冒険者をやる事は危険だ……。
「…そうか…ちょっと待っててくれ」
俺は1つの考えが浮かんだ。
今回優先すべきなのはエイルーナだ!
俺たちの苦労なんて後回し、なんなら俺たちはもうちょっと自分で色々やれるようになった方がいい!
俺は立ち上がって走り出す。
もしかしたらエイルーナは嫌がるかもしれない。
でもエイルーナ1人で危険な旅をさせるよりはいい。
途中にレイスとミシェイルがいた。
「あそこにエイルーナがいるから、そばにいてやってくれ!あと、ルシエル達は?」
「ん?あ、ああ…、もう町に…」
「ありがとう!」
俺はミシェイルが言い終える前に走り出した。
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町に向かって夜道を歩く二つの影。
それを見つけて追い掛ける。
「ルシエルっ!!」
俺の声に反応して先にメリエルが足を止めて振り向き、遅れてルシエルも足を止めた。
「レオ?」
「2人ともちょっといいか?」
俺の言葉にルシエルも振り向いてこちらに振り返る。
「またって思うかもしれないけどさ、2人は今後何をするんだ?」
「……人探しだ」
そう、クリスの手掛かりを探して旅をする。
この中央大陸は広い、何より魔都と呼ばれるゼレーネがあり、それを中心に魔物の異変が起きている。
「安全な旅か?」
「…安全な旅なんてあるわけねぇだろ」
その通りだ、実際旅してわかった、
魔物はウヨウヨしてるし、野盗はいるし、町中でも半鬼に襲われて拉致されたり、売り飛ばされそうになるしな。
俺たちはこれから船でリンドルム大陸に渡って、そしてメニア魔導学園へ行く。
こっちだって危険な旅だが、学園に着くまでの話だろうし、何にしろ危険な橋はなるべく渡らない。
無理した前回の結果が変異種との遭遇だったしな。
「つまり、しばらくまた冒険者をやるって事だろ?」
ルシエルは何が聞きたいのかという顔をしながらも、俺の質問にしっかり頷いて答えてくれる。
「頼みがある、2人の旅にエイルーナを連れて行ってやってくれないか?」
「…は?」
ルシエルは意味がわからないと言った顔をする。
エイルーナはきっと止めてもその内出て行く事になるだろう。
そして1人で冒険者をする。
エイルーナは強く賢いかもしれないが、まだまだ子供で、知らないことばかりだ。
いくら優秀でも1人では限界があるのだから!
それでももし、ルシエルやメリエルが許してくれるなら、エイルーナを連れて行ってくれるなら安心できる。
2人とも良い奴だって事は、この数日で理解しているし、実力だってそこら辺の奴らに引けを取らない。
冒険者としても学べる事が必ずある!
それに…もしクリスを見つけた時に…いや、これは俺の我儘だし今回は関係ない!
俺は事の顛末…エイルーナと話した内容を2人に伝える。
「…つまり1人で行かせるのは心配だから俺らが面倒見ろと?」
「ん…まぉ、言い方は悪いがそういう事になる、エイルーナは食事とかも用意出来るんだし邪魔にならないだろ?」
グリンダムからリズまでの間も、やはりエイルーナ主導で食事やら洗濯やらをやってきているので2人ともその事は知っている。
冒険者は半分は町の外で過ごすんだから、そういうスキルが高いエイルーナは邪魔にならないはずだ。
寧ろ俺たちの今後は……後回しだ。
「………」
「メルはいいよ。でもルーナはそれでいいの?」
ルシエルではなくメリエルが了承した。
だが、メリエルの言う通り、エイルーナがそれを快く認めるかどうかはわからない。
そもそも思いついて確認する前に俺が来ちゃった。
「…そうだな、アイツから頼まに来るならそれでいい。増える面倒よりも楽になる事の方が多いからな」
ルシエルも一応条件付きで了承を得た。
その条件も、別に変な事でもないし、難しい事でもない。
どっちかと言えば当たり前の事だ。
「わかった!ありがとう」
何にしろ準備は出来た。
後はエイルーナだ。




