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七章8〜“参りました”

 


 俺が投げた刀は上体を起こしたルシエルに飛んでいく。

 ルシエルは刀の刃を手で握るようにしてその勢いを止めようとする。

 勿論刀はなまくらなんかではない……ドワーフのラウズさんが魂を込めた打った一振りである。

 その勢いを受け止めきれずとも速度は落ちる、そのままルシエルは軌道をずらすというよりは叩きつけるようにして回避した。


「…油断したつもりはなかったが…まさか血を流す事になるとはな…」


 ルシエルの手からは赤い血が流れている、既に知っている事だが半鬼でも血は赤い。

 とは言いつつもその傷はすぐに修復されていく。


「へへっ!」


 真っ直ぐな言葉ではないが、ルシエル的には称賛の言葉であることは間違いない。


 ルシエルは手の傷を確認してから己の長剣を握り直して、こちらを見据えてくる。

 その視線はさっきよりも鋭い。


「受けってのも悪くねぇが…やっぱ攻める方がいいよな?」


 なんか変な風に聞こえるのは気のせいか……。

 ルシエルの動きはまた“ブレ”たのを認識した。

 同時に右から体を捻りつつ横薙ぎに振り抜いてくる。


「ぐっ!!」


 俺も左の剣を右に持ち替えてそれを受け止め…きれなかった。

 パワーアームズを解いたつもりは無かったが、防御の上から吹き飛ばされてしまった。


 考えてみれば簡単な話だ、パワーアームズで強化されるのは右腕の筋力というよりは全体的なパワー。

 剣は腕だけで振るのか?否、そして特に防御となれば足腰がなっていないと衝撃を支え切ることは出来ない。


 俺は吹き飛ばされて尚、しっかり受け身を取って即座に体勢を整えようとしたが、上体を起こした時にはルシエルは目の前にいた。

 そしてそのまま上半身に蹴りが入る。


「はがっっっっ!!!」


 呼吸が止まる…息が出来ない!

 俺は先程のエイルーナのように受け身をとれずに勢いのままに砂浜を転がる。

 同時に既視感から…そして感じられるマナの波動から次に来るであろう攻撃に対応するため、無理矢理にでも体を起こす。


「アイスランス…」


 何処からともなく氷の結晶が現れ、そして肥大化して形を成していく。

 それは槍の形に生成されると下にいる俺に向かって槍が降り注いでくる。


「ルシエル!もう…」

「落ち着いて、ミシェイルちゃん!」


 意識の片隅でミシェイルがルシエルに向かって制止を呼びかけていて、レイスがそのミシェイルを止めているのがわかるが、今はそれどころじゃない。


「インパクト!」


 俺は右の剣を左に持ち替えて右手を頭上にかざして魔法を発動する。

 パワーアームズも使っているので、質量がしっかりしている氷の槍も衝撃波で破壊できている。

 だが、氷の槍の落下と同時にルシエルは距離を詰めていた。


 俺が意識を上に向けていた事で、完全に無防備である。

 咄嗟に剣を盾にと思うが間に合わないし、間に合ったところで受け止めるなんてことはできない。


 ルシエルは剣を真っ直ぐに突き出して、その鋒は俺の喉元で綺麗に止まっていた。


「………参りました…」




 ルシエルはそのまま剣を下ろした。

 同時にミシェイルやレイスが走ってくる。


「大丈夫か?」

「…ああ…」


 同時に理解した。


「大丈夫なのか俺は…」


 つまりそんな怪我はしていない。

 今はもうエイルーナも大丈夫そうだが、俺はそこまで治療を必要としないだろう。

 俺も蹴りを受けている…がエイルーナと違って魔装をしているわけではない。

 つまりは防御力は無いに等しい俺と、防御力のあるエイルーナが同じ威力の蹴りを受けて、このダメージでは済まないという事だ。

 ルシエルは見事に俺たちそれぞれに合わせて戦っていたのだ。


「器用に…やるもんだな…」

「まぁな」


 ルシエルはそう言って剣を背中に戻している。

 エイルーナも歩いてこちらにやってきた、ついでに俺が投げた刀も拾ってくれている。

 その顔はどこか元気がない…というよりは当たり前か、負けが嫌な彼女が負けたのだ。

 それに自分は手傷を与えられなかったが、俺は軽い傷…などとも考えていそうだ。


「とりあえずありがとう、受けてくれて…」

「…魔法に頼らず防御できるようになれ、あとは魔装だな」


 珍しくルシエルが具体的にアドバイスをくれている。

 ルシエルに教わると、上手い感じで相手してくれるのだが、アドバイスをくれないのだ。

 まさに何が悪いかは自分で考えろって感じなのだ。


 魔装は言わずもがな、ルシエルが攻勢に回った時に魔法のタイミングが結果的にトドメの隙になったのは確かだ。


「…うん、ありがとう…他は?」

「…学園に着けばマナゾーンについて調べろ、多分素質がある…マナも多いしな」


 マナゾーン…聞いたことあるような無いような…しかしこういう微妙な記憶の感じの問題点として、俺は前世の記憶が入り混じっているということは、記憶に関しては大きくマイナスである。

 ちゃんと記憶の整理が出来てりゃ…というかしっかり覚えて区別してりゃ問題無いのだろうけどね。


「…やっぱり…本気じゃない…」


 俺たちの会話を聞きながら歩いてきたエイルーナは、悔しさや怒りや悲しみが入り混じった複雑な表情でこちらを…というよりはルシエルを睨んでいた。


「少女に本気で襲いかかる趣味は生憎持ってねぇんだわ」

「お前も少年だろ…」


 俺のツッコミは勿論スルーされたのは置いておく。

 それでもエイルーナはやはり納得出来ていないらしい。


 エイルーナの本来の目的がなんだったのかわからないが、もしも目指すべき強者の底を知りたいのであれば、やはり俺たちはまだまだ力不足だろう。

 だがそれを感じてみたいのはわかるが…。

 少なくとも俺は底知れなさを感じれたし、収穫の多い一戦になった。


 パワーアームズを過信していた事を知ったし、同時にパワーアームズを使っての戦いの感覚を得る事が出来た。

 移動の術だって新たな可能性を感じた。

 ルシエルに指摘された魔法を使う時の隙、恐らく自分でこの戦いを見返せばまだまだ改善点はあるだろう。

 そしてルシエルのいう“マナゾーン”、これについて調べるという学園での目的も。

 ルシエルには感謝しなければならないな!

 あ、あと魔装か…。

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