七章6〜“エイルーナの挑戦”
翌日の朝、俺はルシエルに自分も戦いたいという話をすると、難なくOKされた。
その表情は知っていたと顔に書いてある。
朝から俺とエイルーナはいつも通りの訓練をして本日の調子を確認する。
俺は10段階なら8か9、つまりは好調と言えるだろう。
しっかりと食事をして、また訓練をする。
旅支度など諸々の準備などはレイス達に丸投げである事は申し訳ない。
昼食後にもまた訓練をして、そして夕食前には風呂に入ってイメージトレーニングをする。
順番はどうするかみたいな事を朝話したが、エイルーナは先攻は譲る気はないと…まぁ予想通りである。
俺としてもギリギリまでイメージとの擦り合わせを行えるのだから悪いことでは無い。
そして軽めの夕食と共に装備の手入れと、入念なイメージトレーニング、そして準備運動である。
戦闘は基本的に急に始まるので準備運動などは…と言われているが、これはあくまで訓練である。
そして挑戦である、なので万全のコンディションで迎えたい。
それはエイルーナも同じだろう。
レイスやミシェイルも準備を終えて、4人で昨日訓練した町外れの砂浜に向かう。
そこにはルシエルとメリエルが待っていた。
「………」
相変わらず無表情のルシエルが俺たちを見据えている。
ある程度近付けば俺達は足を止める。
「ルーナ、怪我するなとは言わないが、頑張れ」
「あのムカつく顔のしちゃってよね」
ミシェイルやレイスがエイルーナに声をかける。
エイルーナは頷きながらそれぞれに視線を移していく。
俺と目が合えばお互いに頷いた。
エイルーナは剣を抜き、鞘を俺の方に投げてルシエルに歩み寄っていった。
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〜エイルーナ視点〜
血が冷たい…頭が、視界がクリアなのがわかる。
体調は勿論、調子は今までに無いくらい良かった。
剣を手にしてゆっくりと砂の感触を確認しながら近付いていく。
まだ始めない、メルが間に入ってくれる事になっている。
ルシエルも背中の長剣を片手に持ち上げ、剣先を地面に向けるように降ろす。
ルシエルは私と歳は同じで身長も高いが、大人に比べればまだまだ小さい。
剣はその背丈には長すぎる程だが、その剣を片手で振り回す筋力がある。
動きは速いし勘も良い……、間違いなく強く、そして私より格上だ。
私は幾度も挑み、そして破れてきた…それも全て完敗、擦り傷こそつける事が出来ても攻勢に回られれば防ぐ術は無く、こっちが攻勢に出ても、まともに剣は通らない。
このままでは終わらない……。
私は両手で剣を握り、そしていつも通り上段に構える。
深く深呼吸して、真っ直ぐにルシエルの全身を捉える。
こうやって構えている時はすごく落ち着く……。
全神経が鋭敏に張り巡らされて、空気の…夜の潮風の感覚を、匂いを全身で感じ、受け止める。
今日は月明かりもあるので、夜の砂浜であってもそれほど暗いと感じない。
向かい合うルシエルは僅かに微笑んだ気がする。
でも、そんな事今はどうでも良かった。
全身にマナの皮を被るようにイメージしながらマナを放出する。
限界ギリギリまで薄く硬くイメージを重ねていく。
メルが私とルシエルを交互に見ている。
直ぐにその時はやってくるだろう……。
「はじめっ!」
「ガァァァァ!!!」
メルの出した合図とほぼ同時に地面を蹴って飛び出した。
マナで強化された肉体によって踏み出されたその速度は“普通”の人間の限界を容易に上回る。
私は元々レオリスのように細かな事をして状況有利を作っていくタイプじゃない。
最速で、全力で一撃のもとに相手を沈めるスタイルがいいと義兄もルシエルも言っていたし、私自身の性に合っている。
だから小細工はしない、全力で地面を蹴って踏み込んで、最速で接近する。
そして間合いに入れば最速で全力で最高の一撃を振り下ろす。
ルシエルは片手に持つ剣を横薙ぎに振り抜いて、私の剣を弾き返してきた。
回避の選択肢ではなかった、体勢は五分!
もう一度剣を振り抜く、力ではまともにぶつかれば負けてしまうのはわかっている。
だからって私がルシエル相手に取れる選択肢は多くない。
逆に選択に困ることは無い。
速く剣を振る。
もっと疾く…疾く…疾く……。
数回にわたり剣と剣がぶつかり、火花を散らした剣戟、私とルシエルは体勢の均衡は保たれていたが、動いてきたのはルシエルだった。
不意に姿がブレた。
この動きを知っていた。
そしてこれに対応していた動きも……見ていた。
剣を腕の一部のようにイメージして、腕をしなる鞭のように、そして体の中心をしっかり固定して捻るように振り向きながら剣を振るう。
背後から迫るルシエルは咄嗟に防御行動に入っていた。
虚を突いた!体勢が崩れているのがわかった、バランスを崩しているのが…。
ここしか無いとそう本能が告げる。
同時に危機を感じた。
「ぐっっ!!」
体勢を崩したままルシエルは剣を投げてきた。
横回転で回転して飛んでくる長剣は、横にステップで避けのは間に合わない。
剣を弾けば必ず隙が出て徒手空拳でやられてしまう。
踏み込もうとしていた足に制止を掛けずにそのまま速度を落とさずに姿勢を低くして潜り込む。
剣を抜けて体を起こしながら剣を振り抜こうとした。
「っ!がっっ!」
剣を投げたその体勢のまま片足を軸にして体を捻るように回転させ、その勢いのままに回し蹴りを繰り出してきていた。
その足の位置は私が体を起こした場所にピンポイントで……。
自分から猛スピードで突っ込んでいき、そしてピンポイントで蹴りを合わされた。
私の体は宙を舞い、砂浜に叩きつけられてなお、その勢いのまま砂浜を転がった。
魔装で肉体を強化してもダメージは通る、それもこれだけ重心が前のめりになったカウンターとなれば尚更。
ダメージが大きいのか喉から熱が登ってきて、そして血の味を感じる。
徐々に増えてくるのを感じながらも、立ち上がろうとすれば、氷の短剣が紙一重で顔の横を通過して地面に突き刺さっている。
飛んできた方に視線を移せば、相変わらず無表情の男が立っていた。
今回も私は完敗したのだ。
七章7〜“vsルシエル”
レオリスとルシエルの対決。




