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七章3〜“友達”

 

 波の音と風の音が空間を支配している。

 静かなのに音が大きく感じる…。


「悪いな…」


 ルシエルはそう口にしてまた歩き始めた。


 その返事は俺の誘いに対する謝罪…つまりは一緒に行くつもりはないとそういう事だろう。

 わかっていた、でも誘えばもしかしたら来てくれるのかも知れないとそう思ったが、その思いは届かなかった。


 俺はどんなつもりだったのだろう?

 素直にルシエルやメリエルと一緒に学校へ行きたいって気持ち?それはある!間違いない。

 でもクリスとの事が無いと言い切れるかと聞かれれば……本当に、本当にないのだろうか?


 ルシエルはそのまま歩いている。

 メリエルがゆっくりと俺に歩み寄ってくるのがわかった。


「レオ、こっち!」

「えっ?」


 メリエルは俺の手を握るとその手を引いて歩き始めた。

 ルシエルを追うわけではなくそのまま手を引かれるままに着いて行く。


「あ、えっと、どこ行くんだ?」

「海!」


 そう言えばさっきからそう言っていたな。

 てか手が柔らかい、そして温かい。

 今は季節としては秋だろうか?この前までは驚くほどに暑かったからな。

 一応この世界でも四季が存在していて、春夏秋冬と元の世界と感覚として差はない。

 今は秋、そして海が見える位置…というかもうちょっと歩けば砂浜であって、この季節だと港町とはいえ人はいない。

 まぁつまりは寒い。


 そんなメリエルの手から伝わってくる熱が心地良く、熱が顔まで登って来ている気がした。


 思えば俺は異性と手を繋ぐなんてイベントは……いや、クリスはあるしミリターナやメイリーンに手を引かれた事はある…うん結構あるな。

 しかしどれも男女というよりは保護者と保護対象としての関係である。

 身近に居たエイルーナは勿論、ミシェイルとも無かった気がする。


 少しの間メリエルに引っ張られて歩くと砂浜にやってきた。

 白い砂浜には波打ち際特有の波の跡が残っている。


「えいっ!」

「えっっ!?」


 普通このえいっ!てのは水をパシャパシャとかけてくるものではないだろうか?

 何故こんな場所に引っ張られて来たのかとか、そんな理由は置いておいたとしても、波打ち際でやる事なんて追いかけっこをするか水をかけあうかしかないはずだ……とそう思っていた。


 メリエルは繋いでいた俺の手を強く引くと、自分を中心にして振り回すように投げ飛ばした。

 普通の同世代の女の子が同じような事をしても、油断していようが咄嗟の対処で事足りる事だが、メリエルである…ルシエルと同じく半鬼半人…つまりは怪力なのである。

 俺はその勢いにバランス制御を失って波打ち際へ高校球児顔負けのヘッドスライディング。

 濡れた柔らかな砂浜なので勿論痛くもないし怪我なんてしない。

 顔に服と泥が飛んできて、かつびしょ濡れになっているくらいな被害である。


「な、なにする!?」

「レオーッ」


 俺はうつ伏せから仰向けになって半身を起こす。

 しかしその俺に飛びついてきたメリエルに、押し倒された。

 俺は再び起こした半身を倒され、腹の上にメリエルが座っているような状態である。


 下から見上げるメリエルは、飛び込んだ水飛沫で少しだけ髪や服が濡れている。

 僅かに服から中身が透けているのは、かつて出会った時の下着同然の姿を思い出し、再び顔が熱を帯びる。


「レオ、元気ない」

「………」

「寂しいの?」


 赤い顔を見られたらと戸惑う俺を他所に、メリエルは心配そうな顔で俺を見下ろしてきた。

 寂しいの、か……。


「ルルもね、寂しいと思う…レオ達のこと気に入ってた」


 そうなのか?俺にはわからないが……。

 でも寂しいなら…。


「メルも寂しいよ」

「……なら、メリエルからも俺達と一緒に行こうって…そしたら…」


 そんな俺の言葉を遮ってメリエルは首を振った。


「ルルはやる事がある、メルはルルお姉さんだから見ててあげるの」


 俺はこの言葉に…もしかしたらメリエルは復讐を望んでいないんじゃないかという疑問を持った。

 思いに差は勿論あるかもしれないが、母を失ったルシエルが復讐に走るのは理解できる、だが同じ立場のメリエルはルシエルのような復讐心が感じられない。


「……だからね、これからもルルと友達でいてあげて?」


 メリエルは少し悲しげに微笑んだ。

 その顔の意味はわからない……でもメリエルは紛れもなくルシエルの姉なのだと…そう思った。

 好き勝手やる弟を姉が後ろから手伝いながら見守る、これがこの2人の絆の形なのだろう。

 俺達とルシエル達の形は……。


「…勿論、友達だ」

「うん!メルもっ!」


 俺の言葉に嬉しそうに笑顔を見せたメリエルは、俺の肩を地面に押し付けるようにして俺を沈めてくる。

 怪力によって柔らかな泥を押し込んで、自然と俺の顔が海水で覆われる程度まで沈められてしまう。

 鼻に口にと海水が流れ込んでくる…相変わらずしょっぱいというか塩辛いというか…どこの世界でも海水の味というか不快感というのは共通である。


「ゲホッゲホッゲホッゲホッ」

「アハハハハハ」


 体を起こしてむせ返る俺をメリエルが指差して笑っていた。

 子供のような無邪気な笑顔で。


「こんのぉ〜!」

「むぅ〜、冷たい!」


 俺はメリエルに水をかける。

 濡れた顔を手で拭って口を尖らせるメリエル。


 せっかく出会えたのた、メリエルともルシエルとも……先の事は分からなくても…。

 俺は初めてメリエルと会ったときに、その純粋な目に呑まれて友達だと答えた。

 あの時は流されて口にした嘘だったが、これからは本当の友達になろう。


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