七章1〜“港町リズ”
潮風に吹かれながら海沿いに進むと大きな町がある。
“港町リズ”
目的としていた町である。
ここから船に乗って中央大陸を出て、お隣のリンドルム大陸へ向かう。
とりあえず目的地の学園には漸く半分来た所である。
日数としては正直予定していたより早い。
やはりグリンダムからここまでのルートを近道して短縮したのは大きいが……その分足が吹き飛んだ奴がいたり、口数がさらに減った奴がいるが、そんなもの魔法と時間で修復できるのだから良いということに無理やりしておく。
それにしても4人の旅が今は6人と随分と所帯が増えた、ルシエル達はリズまでの契約だがどうするのだろうか?
目的地は無く、人探しの旅…それも相手はクリス…そして復讐。
俺としても少し複雑でもあるが……、それはそれである。
何か理由があったり、そもそも人違いの可能性だってある。
今考えても仕方ないのだから。
そんなことを考えていればリズの入り口に差し掛かる。
町は潮の匂いに満ちていて、活気に溢れている。
男も女も比較的露出の多い服装で、健康的な肌をしている。
町の入り口には宿が多く、中心は民家が…そして奥に進むと商人というか漁師というか、とりあえず露店が立ち並んでいるように見える。
何より大きな港に、アニメや映画で見るような巨大な帆船が見えるのは男の子として心を揺さぶられる!
ちなみに船首には羊があったりしないし、もちろん麦わらの男が寝転んでたりもしない。
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
心踊るのは男の子だけではないらしい!
ミシェイルが帆船を見ながら感嘆の声を上げてある。
今すぐ走って行きたいのだと訴えように視線を向けてくる。
正直旅で疲れてるしちゃちゃっと宿を取って休みたい。
さらに言えば何より風呂に入りたい、タオルで拭く事すらままならない日もあったのだ。
もう自分が臭くて臭くて仕方ない。
同じ匂いがするのなら絶対的美少女すらただの美少女に成り下がるだろう。
おっとエイルーナがこっちを見ている……。
「…ミシェイル様、今は先に宿に行きましょう、明るい内に宿をとっておきたいですし、明日情報収集の時にでも見に行きましょう?」
「………わかった…」
エイルーナは俺の視線を、言ってやってくれと訴えているように受け取ったのか、少し呆れたような表情をした後にミシェイルを丸め込む。
ミシェイルはあからさまにガッカリしながらも渋々承諾していた。
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すぐにエイルーナの主導の元に夕暮れ前には宿が決まった。
部屋は男部屋と女部屋それぞれ一室ずつを借りた。
元は4人部屋らしく男3人でも十分な広さであるだけではなく、ペルロやグリンダムと比べても内装は綺麗だった。
ベッドもふかふかシーツの手入れも行き届いている!
我が家に比べれば大した事ないが、今まで借りて来た宿の中では最高クラスだろう!
ふと思えば俺は各宿の値段を知らない……世間知らずのお坊ちゃん感が凄い……今度金銭のやり取りをするエイルーナをしっかり横で見て、色々相場などを聞いておくとしようじゃないか。
「あ〜〜〜〜」
部屋に着くなり珍しくベッドに吸い込まれるように倒れこむレイス。
枕に顔を埋めて声を震わせる。
いつもなら風呂だ風呂だと色々準備を始めて、俺が荷物やらなんやらを整理するのが流れなのだが…。
「珍しいな」
「いや、ほんとに疲れたからさぁ」
俺はいつも通り荷物を置いて、整理を始める。
洗わなければならない肌着が沢山ある。
臭いなんて運動部の部室なんて可愛いものじゃない、てかこれ臭い取れるのかな?
ルシエルはというと、あまり疲れている様子を表に出さない男だが、流石に疲れているのか荷物をベッドの横に置いてそのまま倒れ込んでいた。
「お前もかよ」
ルシエルは返事をする気は無いらしい。
そういうものの気持ちはわかるので何も言うまい。
あ?俺?そんな事より風呂に入りたいんだよぉぉぉ!
この世界にシャワーなんて物はない。
湯に浸したタオルで身体を擦るように拭いてから湯に浸かる。
なので部屋に備え付けられている風呂の順番は結構大切なのだが……。
今回は俺は一番に入れるんじゃないか?
俺は体が疲れていて、同じように眠りたい気持ちを抑え込み、風呂の用意を始めた。
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〜エイルーナ視点〜
「ルーナ!ふかふか!」
「おおっ!本当だ!凄いぞっ」
部屋に入るなり荷物を乱暴に置いてベッドに飛び込んでいく2人。
私は乱暴に置かれた荷物を置きなおしながらとりあえず自分のスペースを確保する。
確かに今まで利用した宿に比べれば綺麗に手入れされているし、ベッドもシーツも上質なものだと思う。
金額はヨーグよりも安いのだから、町として景気が良いのだろう。
物価も安いかもしれないので必要な物は後日買っておかなければならない。
私は部屋のチェックを一通り終えると、全員の荷物を整理する。
後日買い足す必要の物がないかという確認を行いながら、洗濯しなければならない物などを分けていく。
それを終えると部屋に備え付けられている風呂の準備を進めていく。
さっきまではしゃいでいた2人は、すぐに眠ってしまっていた。
思えばこの2人は私を含めた他のメンバーと比べても年相応なところがあるのだろう。
というより私達が少し冷めている気がしなくもないが…どうでも良い事だと思った。
風呂の用意を済ませれば子供のように眠る2人を見て、何故か起こすのを躊躇った。
本当はダメだけど……父や母にバレたら怒られるだろう。
出来る限りこの旅で私はそういう姿勢を徹底して来た……けど…お風呂に入りたい。
寝てるし…入ろう。
密かに私は先に風呂を済ませた。
自分の体が如何に汚れていたのかが分かると悲しくなって、また湯を抜いて掃除からやり直した。




