六章17〜“主人公属性”
半人半鬼のイケメン。
ずば抜けた戦闘センス。
飛び抜けた身体能力だけではなく、優れた魔法にそれを扱う技量。
隣にはいつも可愛い姉。
親を亡くして姉弟で傭兵や冒険者として魔物を刈りながら生計を立てて、親の仇を探している。
さて俺は思った……これは主人公なのではないだろうか?
もしくは今後彼は英雄と呼ばれる事になるとか?
その仲間の剣士Aってルートが今俺の前に敷かれているという可能性……。
あると思いませんか?
さてさて、そんな主人公が自分の中の悪魔の力を使って、仲間の窮地を救うが、その力が暴走して仲間に迷惑をかける。
これはそんな在り来たりな物語である。
まぁ悪魔か鬼かという差はあるが、そんなの微々たる差である。
何故なら世界観によっては前提条件が変わるなんて当たり前の事。
この世界に魔物は存在するが、今のところ悪魔なんて存在は聞かない。
魔族とかそんなのもあまり聞かないが、鬼が恐らくよくある魔族的立ち位置なのだろう。
何故か…ツノがあるのがそうなのだろう。
さてさて、それにしても暴走のタイミングも少しずれているのではないかと思います。
仲間のピンチに…確かにエイルーナはピンチだったかもしれないが…絵面的にはもっと早くエイルーナを助けるか、俺がピンチになったタイミングなのではないかと思う。
その辺まだ主人公ポイントが足りてないのではないかなと、まぁトリガーはエイルーナであったのだろうとは思うが突発的に暴走されたので反応が遅れたのだと言い訳しておく。
「パワーアームズ!」
エイルーナを掴むルシエルに拳を握って右腕で殴りかかる。
確かにルシエルに何かと噛み付こうとするエイルーナだが、流石にいきなり首を絞められるような事はまずしていない。
そもそも俺の中のルシエルのイメージ的にはそんな唐突に暴力を振るうDV系男子ではない。
寧ろガヤガヤと言われる事に対してハイハイと適当に返事をしながら聞き流す、クール系主人公タイプだ。
あと、殴っても怪我しても大丈夫だよね?
ルシエルの顔面にしっかりクリーンヒットした右の拳。
パワーアームズの増幅した力によって、俺の想像よりもしっかりファンタジーっぽく吹っ飛んだ。
ルシエルの手から逃れたエイルーナが、ゲホゲホと咳き込んだ膝をついている。
「大丈夫か?」
「ゲホッゲホッ…ゲホッ…なんとか…」
ルシエルの方を警戒しながらエイルーナの無事を確認する。
そもそも変異種相手にあんな動きをした奴がしっかりと俺を殺しにかかられたらどうしようかと少しビビっているのは秘密である。
だが現状を把握しなければならない。
ツノのあるルシエルはゆっくりと立ち上がってこちらを見据えながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「ルシエル!しっかりしろ!」
もしこれがルシエルの悪ふざけであれば俺はいきなり殴り掛かって、しっかりしろとか言い出して変な奴極まりないが、ルシエルの顔を見た時それは悪ふざけではないのだと理解した。
ルシエルの赤い瞳は狂気を含み、いつも無表情のその顔は不気味に口角を吊り上げて笑っていた。
牙を見せて……。
「…私あまり状況を理解出来てないんですけど……」
「ハハッ…だろうな、とりあえずレイス達呼んできて欲しいかな…」
それはそうだろう。
変異種に吹き飛ばされてボロボロの体を引きずって戻って来れば、変異種は氷漬け。
一度氷漬けを、破られているがなんか大丈夫そうと近付けば首を絞められる。
しかもそいつの頭にはツノが生えていると……。
「…急ぎですね」
「無理させて悪い…」
エイルーナも何となく察しているのかいないのか……。
「あとで説明した下さいね」
「それはあいつに言え!」
エイルーナはそう言い捨てると痛む箇所を押さえるというよりは支えながら走り始めた。
それを横目に確認しながらゆっくりと歩いて距離を詰めてくるルシエルへの警戒を怠らない。
「今なら冗談ですってことで笑って済ませれるよ?」
そんな冗談を言いながら剣を右手に握り、パワーアームズを発動する。
現状がどんな状況なのかわからないが…メリエルが来ればなんとかなるんじゃないかと思っている。
攻勢に出る必要はない、攻撃を受け止めて受け流して回避する、剣を力で押し飛ばされないようにパワーアームズは必須だろう。
まぁ、他の魔法は多分必要ない……あ、魔法使われたらどうしよう……。
そんなことを考えていると間合いに入ったからか、一気に深く踏み込んだ剣を振り下ろしてくる。
速いが……。
「それなら反応出来る!」
ルシエルの剣を側面から叩くようにして軌道を逸らさせる。
本来なら体勢有利を作り出せるところだが、身体能力の差か立て直しも早い。
だが今回に関して言えばそんなのは関係ない…攻勢に出る気は無いんだからな。
それにしてもパワーアームズを発動しておいて良かったと、初手を弾いて思うとは。
予想以上に重かったのと、少しタイミングを外したせいで力押しでの形になった。
パワーアームズ無しで弾くならもっと剣筋を読み切ってやらないと力で押し付けられかねない。
ルシエルはさらに踏み込み、剣撃を繰り出してくる。
俺はその踏み込みに注視しながら下から、左右からと連続する剣撃を受け流す。
咄嗟にルシエルが一歩下がり、そしてその姿が…影がまるでブレるように見えた。
同時に背中に悪寒を感じた。
何故かわかった……恐らくルシエルは高速で背後に回り込んできたのだろう。
俺にはあんな動きは出来ないし、エイルーナにも無理だろう。
だがこれより素早く動く人を俺は見ていたのも関係するのだろうか?
影を追うように…光を追うように…身体を回転させて、同時に振り下ろされる剣を弾いた。
「…力に飲まれても意識があるのか?それとも別人格って奴だったりするのか?」
俺が反応し防御に成功した事に、ルシエルの顔は驚いているように見えた。




