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異世界転生物語〜二度目の人生は剣士となる方向性  作者: 飛鳥
六章 グリンダム〜変異種編
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六章15〜“怒れる魔物と鬼のツノ”

 

 3人で森を走っている。

 何度も何度も後悔しているが、こんな事なら遠回りしてでも安全なルートを行くべきだった。

 というか舐めてた?

 いや、変異種さえいなければルシエル達が居てこんなに苦戦する事は無かっただろう。


 後方で追撃を再開した気配はないが、これで諦めて貰えるとは思っていないので油断はしない。


 俺やルシエルに比べて比較的元気なエイルーナは、先頭を走りつつも俺たちを気にしているのがわかる。

 仕切りにこちらを振り返っている、俺たちの背後ではなく俺たちを見ているのが少し悪い気もする。


 先程と同じように後方から咆哮が聞こえてくる。

 そしてその声には先程よりも怒りが入り混じっている気がしなくもない。

 背筋が寒気が走る。


 ブルドーザーのように進行ルートの障害物をなぎ倒しながら突き進んでくる。

 その足はやはり先程より早い。


 かなり差を開いたにも関わらず、すぐに距離を詰めてきている。

 考えろ、考えろ…思考を止めるな、なにか打開策があるはずだ!


 考えても考えてもいいアイディアが浮かばない、距離も近づいて来ている。

 変異種は、地面を強く蹴って飛び掛かってきた。

 そして右の前足をその勢いのまま叩きつけてくる。


「跳べっ!!」


 狙いは真ん中にいたルシエルだったのか、それとも俺なのかだったのか、ルシエルの右側に走っていた俺とルシエルの間に振り下ろされた前足。

 俺は右に、ルシエルとエイルーナは左に跳ぶ……、だがそれだけではなかった。


「ルシエルっ!!」

「わかってる!」


 俺とルシエルが感じたのはマナの波動だ。

 振り下ろされた前足…その衝撃が残る大地…そこからマナの波動がある。


 そこを中心に左右に広がるように土の槍が地面から飛び出してくる。

 俺はさらに変異種から見て右に、すぐさま起き上がって走る。

 足元から飛び出してくる土槍が追撃してきている、ルシエル達も同じように下がって避けている。


 そのまま変異種は俺の方に向かって再度左の前足を使って飛び掛かってくる。


「っ!!俺かよっ!」


 足元にマナを集中して一気に飛び退いて回避する。


 空中で変異種と向き合うように調整する。

 俺の視界には、追撃の魔法の合間を上手く抜けて、変異種の背後から飛び掛かろうとしているエイルーナの姿が映る。


 嫌な予感がした。

 それはルシエルの表情からそう思ったのだ。


 もしかしたら賢い魔物だっているのかもしれない…エイルーナは自分達に背を向けた変異種は隙に見えたのではないだろうか?

 そして魔法隙間を見切って潜り抜けた。

 ならルシエルは何故動かないのか、それはやはり疲労などから万全ではないからか?

 そうは思わない……ルシエルには隙に見えなかったのでは?


 エイルーナとルシエル…魔物との戦闘経験は比べるまでもないだろう。


 変異種は前足を軸にして激しく身体を回転させた。

 たった1回転した、一瞬のことだ。

 あの巨大な体躯が凄まじい早さで回転したのだ、土が舞い、砂埃が目を刺激する…だが、そんな事で目を閉じたりしないように訓練はした。


 踏み込んできていないから俺には当たらない……そう思ったと同時に理解した。

 理解した時にはエイルーナは木をへし折って吹き飛ばされていた。


「…エイルーナァァ!!」


 頭が真っ白になった。

 目の前で仲間が……俺は迷わずエイルーナの下に駆け寄ろうとした。

 しかし冷静さが足りていなかった。

 目の前の変異種が前足を振り下ろそうとしていた。


「この…バカっ!」


 俺が潰される紙一重でルシエルが飛び込んできて、突き飛ばしつつ飛び込んだ。

 間一髪かと思われたが、ルシエルは背中を剣のような爪で抉られていた。


 それでもすぐに立ち上がり、俺の腕を掴んで無理矢理立たせる。


「立て!あの女はアレくらいじゃ、くたばったりしねぇ」


 ルシエルの言葉に自分が少しだけ落ち着いたのがわかった。

 そこでやっと前を向くと、すでに変異種の顔が…いや、口が近づいてきていた。

 飛びつくように噛み付いてくるのを2人揃って…というより反応が遅れた俺を引っ張る形でルシエルとともに回避する。


 ルシエルの背中はすでに傷が塞がっているが、背中の衣服が破れて鍛えられた背中が露わになっている。


 次は前足を振り下ろす…ではなく横薙ぎに振り回してくる。

 回避方法は前から上か後ろ…。

 前に行くのはリスクが高すぎる、後ろに引くには俺の反応が遅れているのをルシエルは見落としていない。

 これもリスクが高いが残された選択肢は…上!


「ったく…」


 俺はマナを使って跳び上がる!しかしルシエルその場に立っていた。

 まさか体力的にも限界が来たのかと不安が襲うが。

 予想以上に高く飛び上がった俺は、ルシエルも変異種も上から見下ろす形になっていた。


 太い木の枝に掴まって下を見下ろすと、ルシエルの額に違和感を感じた。

 光……いやマナの塊?

 それは光っているというにはあまりにも妖しい光であった。

 そしてそれが形を成しているのがわかる…この形は見れば理解した……というよりは考えるまでも無かったのだ。


 ルシエルの額に伸びるナイフ程度の長さのマナの結晶……。

 理解していたが、予想していたよりも何故か恐怖を感じさせた。


 ルシエルの額には“ツノ”が現れたのだった。


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