六章14〜“点火”
「お前ら先に逃げろ!」
「いいから黙ってください!」
ルシエルの言葉にエイルーナが一蹴する。
エイルーナはルシエルが嫌いだと普段から口にしてはいるが、それでもここで置いていくつもりなんてないらしい。
勿論俺も置いていくつもりなんてないしな、そもそも嫌いじゃないけど…。
後ろを振り向けば変異種はまだ動いていない、あまりにも動きがないので意図的にというよりは再生がまだ終わっていないと考えてもいいのだろうか?
俺の残した爪痕がまだ残っているのが見える、どうやら傷などにならなければ消されたりしないらしい。
「まだ動いていない、出来るだけ離れて…可能なら隠れよう!」
「隠れるのは無理だ」
走りながら考えを口にする俺の言葉を、ルシエルが否定する。
「あれだけダメージを与えた、つまり俺がマークされてると考えたほうがいい、必ず見つかる」
ルシエルの言葉に森に入った直後の事を思い出した。
位置も不明、距離も離れている中俺の位置を的確に把握し、そして狙撃してきた。
「でも、置いていきません」
ルシエルが続いて言おうとしていた事を予想してか、エイルーナが強めの口調でそう告げる。
「…私が貴方に勝つまでは死なれては困るので」
「……」
実にエイルーナらしい理由だと思った。
まだ付き合いも浅く、それほど仲間意識が高い訳じゃないだろう。
それでもエイルーナはルシエルに戦いを挑み、時には教わり、そして喧嘩…というよりは一方的に噛み付いているという方が近いか……。
俺やレイス、ミシェイルよりルシエルと親交を深めているのはエイルーナなのだろう。
「それに、そろそろ置いていけとかどうこうを咎めるの面倒なので黙ってくださいね?じゃないと次回の食事がお楽しみになりますので…」
ニッコリとした満面の笑み、ルシエルも…そして関係ないはずの俺も圧倒されて、なぜか俺もルシエルに釣られて頷いた。
そんな空気を吹き飛ばすように後ろから地を揺らすような咆哮が聞こえてくる。
「1人で走れる…」
それを聞いてルシエルは強引に俺とエイルーナを引き剥がす。
エイルーナも何か言いたげだが、状況がわかっているので何も言わない。
ルシエルは少し足取りが不安定ながらも、走れている…俺より少しフラついているくらいだろうか、俺も血が足りてないので時折視界が歪むがそんな事は今は関係ない。
巨体が地面を蹴る音が近付いてくる、相変わらず木々を破壊するブルドーザースタイルである。
後ろを見ればどんどん姿が大きくなっている……。
「パワーアームズ!!」
走る足を止めて半身を向ける。
腰をひねりながら右拳を勢い良く突き出しながら頭にはイメージを浮かべながら魔法…インパクトアームズを唱える。
拳からマナが放出される。
距離を進む度にそのマナの塊は小さくなっていくが、パワーアームズのお陰で従来より飛距離とその速度は段違いに伸びている。
今回はそんなに威力を求めていない……届けばいいのだ!
木々の隙間を拳の形をしたマナがこちらに向かってくる変異種に真っ直ぐ飛んでいく。
対象に届く事を確信した!
俺の精神は結構大人…というかそろそろおっさんに一歩踏み入れ始めている。
しかし、男の子はやはり心はいつまでも少年である。
人生を楽しむには童心を忘れない事だとか聞いた事がある気もする。
つまりは何かって?
俺はボンバーアームズを使用したこの爆破。
これは今のところ俺の中で1番威力のある技で、準備こそ必要だが、今のところ必殺技と言えるのではないかと思う。
だが必殺技の名前を考えるのも、叫ぶのも少し恥ずかしい。
そんなの魔法を良く口にできるなと言われかねないが、それはそれである。
でもちょっとだけカッコつけたいのである。
何かと言うと決め台詞とか?
しかし俺はそんなに賢くないし言葉をよく知っているわけでもないが…俺のちょっとした願望である。
それを叶える!!
俺は突き出していた右手を広げて、もう一度ゆっくり強く拳を握って、ボソッと決めていた言葉を呟いた。
「…点火」
インパクトアームズによって敵に飛んでいったマナが、再生する前に貼り付けて…そして消えていないのを確認できたボンバーアームズのマナと触れ合う。
変異種の首元から胴体に向かって爆発する!
巨大な爆発音を響かせてバランスを崩し、その勢いのまま変異種は、木々をなぎ倒しながら地面を転がっていく。
「…芸がねぇな」
その音で、一旦足を止めて確認する中、ルシエルが俺を見てそう口にする。
「ほっとけっ!」
勿論仕留めたなんて思っていない、ただダメージはあるだろうしあわよくば再生でまた足を止めてくれるのが理想である。
「……魔法…」
エイルーナも足を止めて変異種を見つめている。
土煙と爆煙に巻かれて、姿が確認出来ない。
「…ルシエル、行けるか?」
「ああ」
「行こう!」
そう言って走り出そうとするとエイルーナが自分の剣を見つめて立ち止まっていた。
「エイルーナ?」
「…いえ、すいません…すぐ行きます」
俺の呼びかけに首を軽く振ってから振り向いてそう答える。
そのままもう一度走り出していった。




