六章10〜“確かな感覚”
ルシエル達の…というよりルシエルの援護に向かう。
変異種と戦うメリエル、そしてその周囲を抑えるために戦うルシエル。
ルシエルを援護する事が結果的にメリエルの援護になるのだから間違いはない。
そして俺は新たな魔法“パワーアームズ”に期待していた。
相変わらず俺の覚える魔法は、俺の理想というか、イメージする魔法っぽくないので少しガッカリするところではある。
“インパクトアームズ”
使い方も多くあるが一言で言うなら衝撃を放つ、手を広げてやれば手を中心に広がるように衝撃を放ち、規模さえ大きくなければ魔法や矢などを弾くことが出来る。
最もお世話になっている使い方だ。
拳を握れば一点集中して衝撃を放つ、遠距離にパンチ出来ると言うイメージが近いのだが、射程が短すぎて今のところボンバーアームズの起爆くらいしかまともに使えない。
勿論マナを調整すれば射程も威力も調整出来るのだろうが、瞬時に調整出来るほどまだ上手くいかない。
そして剣にインパクトアームズを纏わせる事で斬撃を飛ばす事が出来る。
これを発見、そして会得した時はなんと見栄えの良い事だろうかと思ったが、武器への負担が凄いのと、瞬時に発動するのがまだ困難である事で使用を控えている。
“ボンバーアームズ”
マナを爆弾に変換するわかりやすいようでわかりにくい魔法だ。
まず前提条件として手やボンバーアームズ使用して触れている対象に、爆弾であるマナを張り付けることで、インパクトアームズによって衝撃を与えて起爆するという実に手間がかかる魔法である。
手で直接触れる必要はなく、剣にマナを一度貼り付けて、剣からまた対象に貼り付ける事も可能、結構コントロールは効く。
手間がかかる分もあって火力だけは申し分ない、問題点として爆発には俺も巻き込まれると言うこと。
インパクトアームズとの同時使用で、起爆の手間を省けると推測しているが、なかなか会得できていない。
これを会得したなら恐らくやれる事も増えるだろうと踏んでいるので、暇があれば取り組みたい。
そして今回会得した“パワーアームズ”
使い方もなんとなく理解している、応用までは考えなければならないが…。
この魔法は右腕に限定する強化魔法である。その名の通りパワーを…つまり筋力不足の解消に繋がる可能性がある。
そしてインパクトアームズなどとの同時使用も出来る、まぁマナ調整で同じ事が出来なくもない気もするが、それはどちらが最適なのかおいおい調べるとしよう。
とりあえずら右腕を経由するエネルギー、魔法なら筋力なりを強化すると考えていいだろう。
俺はルシエルを狙うストーンタイガーに接近、剣を右手に握りしめてタイミングを計る。
エイルーナが全力で距離を詰めても反応されたのだ、つまり単純な速さでは反応して躱される可能性が高い。
だが、1つ学んでいる事もある、やはり人間であろうと魔物であろうと予測を裏切るというよりは、虚を突くということは有効である。
俺はルシエルやエイルーナのようにまだ魔装を扱えない。
つまりはマナによるダメージ軽減、全身の筋力の増強や速度の強化は出来ない。
だが足にマナを溜めて、一瞬だけ加速する事は出来る。
俺が狙うのはその一瞬……。
「パワーアームズ…」
一言そう呟いて接近していく。
血が足りてないと言われて少しフラつくかと思っていたが、いざ戦闘に入ると大丈夫なのかもしれない。
まぁ大丈夫じゃないんだろうけど。
勿論ストーンタイガーは俺に気付いて向き直ると、俺に向かって魔法を発動する。
岩の弾丸が俺に放たれる。
この魔法だけは何度も見た、嫌になるほどに見た。
この魔法はシンプルである。
岩…というより正確に言うならば石の弾丸、恐らくマナの調整次第で色々変わってくるのだろう。
石を回転させて貫通力を上げながら放出する…弾は大きくはないが硬く、そして弾速に優れ、何より発動から発射までが早いのだ。
俺に対してだけでなく、エイルーナやルシエルに対しても、咄嗟の機会には殆どこの魔法である事が多かった。
速射性が高く、威力も人間相手であれば申し分ない。
しかし恐らく標的をしっかり狙う事が出来ない…或いは速射する事により、狙いがつけられないのかもしれない。
前進し続けるエイルーナはあまり当たらなかった。
初見でその弾道を見切り、そしてそれを実行して接近するエイルーナは技術はもちろん、その精神力は流石と言うべきだろう。
俺は初見で見切るなんてことは出来なかった。
それにしてもこの魔法をこんなにバンバン飛ばされる奴もなかなかいないだろう。
魔法によって出現する岩の弾丸、それが中空に固定され、高速回転を始める。
キーンと甲高い音を鳴らしてからすぐに発射される。
飛び出す瞬間の弾丸を見て方向を予測する、そして足に溜めておいたマナを一気に爆発させて急接近する。
弾丸の掻い潜り、急加速して接近すれば、右手に握られている剣でストーンタイガーの足を刈り取る。
勢いのまま前足2本と後ろ足1本を切り落とし、そして返す剣でトドメを刺した。
意表をつくことで間合いへの接近をの容易にした。
そして何より肉で止まり。断つ事の出来なかった骨すらも容易に切断することが出来た。
筋力不足、その一点で届かなかった景色に届きはじめたのがわかる。
今自分が強くなったのだとそういう感触が確かにある。
完全な努力のおかげとはいかないが、それでも実感が湧いてくる。
俺の修行に意味があったのだと。




