六章9〜“借り物の言葉”
発動した魔法は普段のインパクトアームズと変わらない様に見えるが、威力が跳ね上がったのがわかる。
普段の魔法よりマナを吸い取られる様な感覚、そして大きな岩の弾丸を破壊する威力、そしてその反動で自分自身も後方に転がっていく。
「レオっ!」
転ぶのは足が無いから踏ん張れないだけなのかも知れないが…レイスが駆け寄ってくるのを無理に上体を起こして迎える。
まだ脅威は去ったわけでは無い。
ストーンタイガーの側面からエイルーナが飛びかかる。
相変わらずの素晴らしい反応で、その剣を躱しているが、その着地先にはルシエルがいた。
ルシエルは長剣をストーンタイガーに突き刺してた。
「アイスフレイム」
呟くように唱えた魔法は、剣から純白の炎が現れてストーンタイガーを白く染めていく。
そのまま自分を追ってきたもう一体に投げつける。
ぶつかり合ったストーンタイガーから純白の炎が燃え移り、二体とも白く固まっていき、そのまま凍てついてしまった。
エイルーナはそれを確認するとすぐにミシェイルの元へ、ルシエルは俺たちの周囲を確認している。
恐らく俺たちを狙っている個体の確認をしているのだろう。
確認を終えるとすぐに近い敵へと向かっていく。
この状況でもメリエルは変異種と戦っている。
「しっかりしてください!」
自分自身の怪我を気にせず、しゃがみこんで頭を抱えているミシェイルを無理に立たせようとしている。
「私のせいで…私の…せいで…」
「しっかりしてください!貴女がしっかりしないとレオリスが危険です!」
ハッとしたように、恐る恐るといった動きで俺に視線を移すミシェイル。
その顔は暗く歪んでいる。
エイルーナが力任せに立ち上がらせてミシェイルを引き連れてくる。
レイスが俺を木に寄りかからせて、エイルーナ達とすれ違うように走っていく。
俺の引き千切れた足を回収して戻ってくる。
エイルーナに連れてこられたミシェイルが暗い顔で俺を見つめている。
「…怪我はありませんか?」
何か言わなければいけないとそう思った、そして絞り出した言葉…痛みに耐えて掠れるような声で質問する。
言ってからまた敬語じゃないかと自分で思うも、それは今は別にいいだろう。
そしてミシェイルは青い顔で俺を見て小さく頷いた。
それを確認したとこで何故か…自然とホッとした。
「よかった…」
ミシェイルは思い詰めたような顔から、溢れるように涙が出て来ている。
そしてそれを自ら乱暴に拭うと、目に力が戻ったのがわかった。
「ああ…、じっとしていろ…」
ミシェイルはレイスが回収して来た足を受け取って、少し表情を歪めているがすぐに元に戻る。
「レイス、ルーナ、レオを押さえてくれ」
ミシェイルの言葉に従いレイスが右半身を、エイルーナが左半身を押さえてきた。
「我慢しろよ」
そう言ってミシェイルは俺の口に布を噛ませて、千切れている足と、その足のあった傷口に綺麗に重なるようにぶつける。
それだけで傷が非常に痛むが、それで終わりじゃない。
そこから魔法で引っ付けるのだ。
普段治療魔法は痛みなど感じないが、腕が千切れた等などの肉体から切り落とされたものを引っ付ける事に痛みを伴う。
そしてその痛みは激痛である。
「っっ!!んぐぅぅぅぅぅっ!!!」
治療の痛みに必死に布を噛んでみるものの、痛みが収まる事なんてない。
痛みがない方法だってあるが、そんな時間も余裕もないのはわかっている。
意識を手放してしまえばこの苦しみから逃れる事が出来るかもしれないが、痛みで意識を奪われそうなのに、痛みで意識を手放せない。
ただここで意識を失うと、この後大変だ。
まだルシエルもメリエルも戦っているし、変異種だって存在する。
周りのストーンタイガーも処理しなければならない。
戦うにしても、逃げるように通過するにしても、気絶した奴を連れてなんて…そんな迷惑は掛けたくない。
歯を食いしばり、全身に力を入れてもがきながら痛みに耐えるのだ。
唇からは少し血が流れ、握った拳の爪で手からも同じように血が流れる。
こういう時の時間の流れとは不思議と長く感じる。
1秒が長い。
傷口を針で刺し、そしてそのまま炙られているようなイメージだ。
俺の様子にミシェイルやレイスが声を掛けてくれている気がしするが、それを聞き取る余裕すら無い。
「ッ…よしっ!」
そして千切れた足が引っ付くまで5分程度だったようだが、俺には30分近くに感じた。
一気に全身の力が抜ける、同時に衣服や髪の毛だけで無く、地面の土がベッタリとか張り付く程に汗だくな事を理解する。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」
脳の命じるままに酸素を求めて、全身で呼吸する。
ゆっくりと全身に酸素が巡っているのがわかる気がした。
「後は任せます」
エイルーナはとりあえずの治療を終えたのを確認すると、すぐに立ち上がりルシエルの援護に向かう。
レイスは弓を握って周囲を警戒し、ミシェイルは俺の治療を続けている。
「とりあえず足は大丈夫だ、既に動かせると思うが血が足りてない」
ミシェイルは現状の俺の状況を教えてくれている。
血が足りてない…そりゃそうだろう、あれからずっと血を流し続けていたのだ。
襲い掛かってくる睡魔に耐えなければならない。
しっかり足の感覚がある事に落ち着く。
さっきまでなかったのだ、治療痕すら残らないのはやはり魔法の偉大さであろう。
ルシエル達を確認するが、どうも好調とはいっていないようだった。
ストーンタイガーが増えている事と、こちらに来ないように気を遣って戦っているからだろう。
俺は剣を地面に突き立てて立ち上がる。
「レオ、まだ…」
「このままじゃルシエルやメリエルが危ない、あの2人どちらかが倒れでもしたらそれこそ…全滅する」
俺を引き止めようとするミシェイルの制止を目で止めてそう答える。
それでも不満そうに俺を見るミシェイル。
俺は歩ける事を確認する。
少し剣は重い気もするが歩ける、この感じなら走れるだろう。
マナの感覚もあるし魔法を使う事に問題はないだろう…。
ゆっくりと歩き始める中1つ言い忘れた事があったので振り返る。
「ミシェイル、ありがとう!お陰で助かったよ」
ミシェイルは俺の言葉に泣きそうになっているが、涙を堪えて首を振る。
「いや…私を助けたからレオは……すまない…私のせいで怪我を…」
返事をする声が震えて、堪えていた涙が今にも溢れそうに目に溜まっている。
そんなミシェイルを見ながら前世でのある言葉を思い出した。
その時はその言葉はカッコつけでしかないと思ったが、いざとなると本当にその通りだと思った。
「謝らないでくれ、俺は助けたくて助けたんだ、だからさ、こういう時はごめんって言うよりありがとうって言われる方が良いんだ」
俺のセリフはパクリでしかない、だから恥ずかしくなって途中で目を逸らした。
だがミシェイルは目に溜めていた涙を堪え、そして自然と笑った。
「ああ、そうだな…ありがとう、レオ!」




