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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
級外品の冒険者__闇の糸口

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第96話 暗闇に浮かぶ座布団

 やや目線より上に浮かんで渦巻く、濃厚な闇ロール。別に美味そうではない。

 そこに一歩踏み込めば届きそうな位置に来て、ようやく半モヒは足を止めた。

 ちなみに半モヒ換算だから俺が横っ飛びに飛んでも、ぎりぎり届かない程度。


「……アニキ、こいつぁちとやべぇ濃度っス。この気配、最深部にも劣らねぇ。で、どうしやス」


 半モヒは声を潜めて、背後から首を出す俺に聞いてくる。

 へぇ、黒森の奥に行くと空気があんな風になると……。

 俺からすれば、どろどの泥水じゃねぇかってくらいなんだが……息できんの?


 不安というより、おえっという気分を追い払って対策を伝える。


「お前ならどうする」


 対策を……あるはずないじゃんね。

 そもそも、あれはなんなんだよ。お前はなんだと推測してんだよ。

 まあ、最深部辺りと近いと言うくらいだから、一応の安全基準は頭に浮かんでんだろうと期待して質問で返してみたわけだが。


「魔気、っスかね? アニキの使うような」


 魔気か……言われてみれば海苔巻きにも見える。そりゃ魔気違いだガハハ!


「魔法おやじの言ってた魔法使いが利用しそうなやつって、ああいうんじゃね?」


 道を塞いでっから気になるけど、自然と薄れるもんなら迂回すりゃいいと思う。


「魔法団が危険視するほどのやつじゃなくても、現象としては大なり小なり頻繁に起こってるってことだろ?」

「言われてみりゃ、あちこちで妙な闇の雲があったり消えたりしてやしたね……」

「あるんかい。気付けよ」

「ただ、ここまではっきり目に付くやつぁありやせん」

「ふーん。ちょっと、よく見てみる」


 半モヒの背後から近くの木陰に隠れ直すと、嫌々よく感触を確かめてみることにした。

 俺のダーク・アイが捉えた感触通りに、伸ばしたダークネス・アームから受ける感触も、非常にお汁粉なとろみ。

 腹が減ってきた。

 ではなくて、この感触には覚えがある。


「まるで、闇玉の……」


 言い終わる前に視界がボロい上着に遮られた。


「動くっス!」


 半モヒが庇うように立ち塞がったが、俺たちを丸呑みできそうにでかい闇ロールだ。渦巻く端が視界に入る。

 端から黒いスポンジ生地が解けて広がり、木々の狭間に絡みつくように伸びていく。

 たまにロールケーキを崩れないように端から食べるのに挑戦して半ばで諦めるのを思い出した。俺腹減ってんのかな。


 露わになる中心は、こってりイカスミクリームではない。

 四角く分厚い、座布団に座る巨大な帽子がくるりとこちらを向く。


「あ」

「あぁ!」


 互いに顔を見合わせると同時に声を上げていた。




「なにか場が乱れると思ったら、またあんたの仕業か!」

「知らねえよ! 道の真ん中に居座ってる方が悪い!」


 はい、予想通りでしたね。

 闇魔女クロムだ。

 つか、浮いたままふらふらと近寄るな怖い!

 幾ら黒森が薄暗いといえど、夜の荒野ほどじゃない。

 人が浮くという有り得ないことを間近に見れば、ますます頭が混乱して、座布団と木の枝を高速で交互に見てしまうが、何度見直したところでロープはない。


「な、何を見てんのよ? なにもいないわよね? この辺の魔物は片付けておいたんだけど」

「その……あっそうだよ! お前、あれだけの騒ぎ起こしておいて謹慎処分とか受けてないのか。それに家は都だろ。まさか逃亡してきたとかいうなよ?」

「なっ、しないわよ! ちゃんと伝えてきたし! 冒険者もほとんど通らないっていうから実験のために、この辺りを選んできたのに!」


 そんな不人気スポットかよ!? 道理で他の奴見ねえと思ったわ。


「いや、そもそもなんでまた闇饅頭だったか、その魔法使ってんだ」

「『完全なる百夜の常闇』!」


 キッと睨まれ、すかさず魔法名を訂正された。

 そこの拘りは譲れんのな。


「あーそれそれ」

「魔法……そうよ、わたしは魔法を使ってるって……そう思ってた。確かに感触は同じなの」


 なにか遠くを見て唸りだしたぞ。


「だから、はたから見たらどうかって考えながら使ってたら、確かに副団長の言うように人の扱える範囲を超えてるっていうか……でも、それでも妙なのよ」

「妖気とか何かの素材だけじゃなくて、この森の力? そんなのもいるんだよな」

「そうね、この辺の場というか。それでも、辻褄が合わない感覚があって……」


 どこか言いにくそうだし、原因がはっきりしないのか、魔法団のひみつか。はたまた認めたくないだけなのか?

 分かんないけど、それを聞いても理解できそうもないから話を締めに入る。


「じゃ、それを確かめに来たと」


 クロムは俯き気味に頷いた。


 諦め悪いな。

 いや諦めを付けるためかもな。

 うむうむ悩め若人よ。

 ……俺も若いけど。


「それなら通り道じゃないところで思う存分やってくれ。あ、崖とかあるらしいから気を付けろよ。じゃあな」

「えーと、失礼しやっス」

「へ? え、ええ、それじゃ……」


 ぽかんと目を見開いた顔は、刺々しさがなくなってなかなか可愛いが、まったく人騒がせな。稼ぎの時間が減ったろ。

 そして浮遊物に当たらないよう慎重に避けつつ通り過ぎたところで、大声が。


「じゃないわよ!? 待ちなさいよ! 場を乱しといてそれだけ!? しかも歴史に刻み得る昨晩の大魔法大戦にて希代の天才大魔法使いであるわたしを辛くも降した敵が、なにかもっとこう、ええと……他に言うことないの!?」

「あんなのが歴史に残ってたまるか! しかも辛くないどころか俺の圧勝だし」


 なんかうぜぇな!

 何か詰め寄ってきたと思えば、きょとんとクロムは首を傾げる。


「それに! あれ? わたしの闇を掃ったのは、あなたの変な技のせいよね?」


 その言い方だと違う意味に取れるんですけど。


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