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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第93話 級外品認定

 溜息とともに、冒険者メダルを見下ろす

 俺に与えられた新たな級は、なんと『級外品』!


 意味分かりづれぇし、ちっとも格好良さとか、すごそう感が伝わってこない。

 実際、半モヒが微妙な驚愕具合で固まってたりするしよ。


「で、これってどんな位置付けなんだ?」

「ふん、級を上げろっていうから、言われたとおりの階級にしてやっただけよ」


 ただの意趣返しかよ!


 そんなに他の組織から口を出されたのが嫌か。魔法おやじへの個人的な嫌がらせかもしれないが。


「他の場所で通じんの? 依頼の区分とかどうなんだよ」


 こちとら生活かかってるんで! たのんますわマジで!


「そ、そうっス、オレも聞きてえっス!」


 お、復活した。

 半モヒも知らないなら、本当にでっち上げかい。


「確かにアニキはすげぇ。だが、それがまさか、いきなり幻の級へすっ飛ばされるほどとは……ちっと判断が雑すぎんじゃねぇかと」

「え、実在する級なの? 毒姉が作ったんじゃなくて?」


 何を企んでんのかと、じっと毒姉を見る。

 分かるはずないんですけどね。


 魔法おやじとのやり取りを聞いてるだけだと、SSS級みたいな雰囲気が漂ってたよな?

 微妙に意味は違うんだろうけど、そうだとしたら……ちょっとワクワクしてきたぜ。


 毒姉は怠そうな目のまま、口の端だけ吊り上げた。

 あ、これ完全に良い方の意味じゃねぇや。


「計り知れない実力や、得体の知れない実力を持つ者を、ひっくるめて話すときに便利な言葉なのよね」

「あのー、それって俺の潜在能力が飛びぬけて素晴らしいってこと……だけでもないよな?」


 にやにやして毒姉は頷いた。

 半モヒが小さく解説する。


「計り知れないということは、計れないものはないも同じといった揶揄でもあったりなかったりするっス……」


 相槌代わりに、「すげーやん」とか言うくらいの投げやりな言い方だったりってことなのか?

 みるみる期待が萎えていく横で半モヒが吠える。


「いやいや力量が定かではない、なんてこたありやせんぜ! オレだけでなく、闇玉対決を見たもんなら納得するはずだぁ! 現に副団長さんは実力を見て言って、やしたぜ……」


 おお、珍しく半モヒが毒姉に物申している。

 が、毒姉が突き出した手のひらを下げると、語尾の音量も下がっていく。


 魔法おやじは級上げを急がせるため、大げさに推薦してくれたんだろうけど……それが仇となりましたな。

 頭を切り替えようか。


「まあ名前はなんでもいいよ。四級品よりは上なんだろ? それより出来る事はどうなるか教えて」

「やっぱりね。ミノルは分からないって思ってたわ」


 人で遊ぶなっての!


 毒姉は姿勢を正して、真剣な面持ちを繕い俺を見据える。

 やっと、お仕事顔だ。


「これよりあんたは、全ての級の依頼を受ける権利が得られたということよ」


 ふーん。

 じゃ、ねえよ。


 流しそうになったが、俺の頭には不安が渦巻いていく。

 おいおい、おい。


「それって、まさか……一級品も、なんて言わねえよな」


 毒姉は相変わらず、口の端だけ上げて見せる。




 くっそ、嵌められたああああああああ!!!




「ま、まだまだこっちの常識とか分かってないし、何すっか分からねぇのにいいのかよ!?」


 魔法おやじの依頼が来る前に、俺には危険が待っている。

 ここにはシャレにならない半モヒという勘違い野郎がいるんですよ!?

 三級品どころか、いきなり二級品の狩場に拉致られたらどうすんだよ!!


 こんなん売られたも同然だろ!

 思わずカウンターを叩きそうになって、ぐっと堪えつつ訴える。


「仮にもっ、組合員の働きを助ける組織じゃないのかよ!」


 叫んでいる風だが、声音は我ながら情けないほどに裏返り気味だ。

 毒姉は両手で頬杖すると、さも微笑ましいものを見たように目を細める。


「ふふっ、ここまで驚かれるとからかい甲斐があるわね」


 ここだけ本当に嬉しそうだ。ひでえな!


「さすがに私も、いきなり上の依頼をやれなんて言わないわよ」

「本当かよ。疑わしいな」

「裏がなくはないわね。三級品に上げたくらいじゃ拍が付かないでしょ。後々に面倒がないように、念のためってだけよ」


 フリーパス代わり?

 それはそれで不安だな。期限とかないだろうし。

 一々手続きが面倒くさいと考えてもいいが、毒姉の想定する念のためってのが恐ろしすぎる。


「後はヤロゥと頑張って」

「もちっス!」

「投げやりだなぁ」


 毒姉は何か書類らしきものを手に立ち上がる。


「用は済んだ。帰って寝ろ」

「へいへい」


 どうせ何言っても押し切られそうというか、眠いし疲れた。

 俺たちがギルドを出ると、毒姉は壁から板をスライドさせた。

 普通の戸もあったのか。そういえばスイングドアは室内側に付いている。

 夜は締まってんだな、などと思いつつお休みを言って毒姉と別れたのだった。






 ひっそりと静まり返った街の中を横切りゴブ森に差し掛かると、どちらからともなくぼやきが始まる。


「いやぁ長かったっスねぇ」

「なんか色々とありすぎだったよなぁ」


 タツィオさんと約束したけど起きれっかなぁ、と思ったのは一瞬。

 真っ暗だから分かりづらいけど、これが日本なら空は白んでいるはずだ。

 もはや俺には安眠できる時間帯ではない。

 悲しいが、衝撃に備える心構えだけして寝よう。


 それにしても変なランク貰っちゃったよな。


「三級品に上がったと思うか」

「おぉ! ということは明日から早速難度を上げていくと!?」

「言うと思った。けど、都行きは変えねえから。準備のこと覚えててくれ。あ、予定通りだからな」

「お任せを!」


 そんな大仰なこと頼んでねぇから。


 受けられる依頼の幅が広がったなら、護衛依頼を受けようと息巻きそうなんで、釘を刺したつもりだけど分かってくれるだろうか。

 旅代をケチるために、やったことも自信もないことで他人の身を預かるとか外道過ぎだ。


 とはいえ冒険者として生きていくなら少しずつ慣れないとだよな。

 まずは、この世界の旅に慣れてから考えよう。




 木々の狭間から覗く藍色の空へと、冒険者メダルを翳した。

 暗くとも、文字の溝が闇の濃淡で判断できる。


 この世界の住人から見ても、異様な力を持っているという証を得られたようなもんで。

 今後を考えれば嬉しいような、変な勘違いを誘発して面倒くさいような、複雑な気持ちで噛みしめる俺だった。






 ★★☆☆☆彡 


 各所との摺り合わせの後に魔法団は、領兵へと約束した通りに、大規模闇魔法事件に関する流れを領主へと報告した。

 常に短いやり取りだ。出向いた魔法団副団長ディスピュート・メイジュは、すぐに領主の元を辞去すると、己の上司であり魔法使いの頂きに立つといってよい団長の部屋を訪れる。

 部下の姿を認めた団長は、半ば答えは知れようとも尋ねた。


「領主はなんと」

「継続せよ、と」


 その理由は魔法団が最も心得ている。街を取り巻く自然の異常事態を監視し対策する組織なのだ。その彼らが変化を認めつつも対策を打ち出し、各所へと協力を取り付け動こうと決めた。

 領主が腰を上げるとすれば、その結果如何によるだろう。

 団長は報告の件はそれで終えると、話を付けた『各所』の中で異彩を放つ者へと話を変えた。


「ミノル殿だったか、彼は山から下りて来たと聞いている」

「この時期に、この街へと。偶然に過ぎると言ってもよい存在ですな」


 今まさに、不穏な力場が生まれようとしているのだ。


「恐らく、クロムの魔法が引き寄せたのであろうが」


 二人は垣間見たミノルの技を思い浮かべた。

 団長自身、外壁の上より様子を見守っていたのだ。

 闇属性なのは確かなはずだ。しかし、まるで底が知れない。


 人の力を越えた力を扱う――そんな人間が、同時に二人も現れた。

 だが、闇魔女クロムは場の力を得ていることは明白だ。

 片や、冒険者ミノルは、彼自身の肉体からとしか思えぬ発露の仕方である。


 もちろん魔気を練って増幅し体外に及ぼす技というものの存在は知っているが、これまでに目にしたことはなかった。

 だとしても、発する力の大きさは人の身に余る。

 ここまで異常が重なるならば、一連の事柄がミノルにも関係しないとは言えないものの、頭を抱える事実でもあった。


 多くの、人には扱えぬ力が、一つ所に集中する。

 ミノルの存在が吉と出るか凶と出るか。


「……あの者が力を求めて、自ら引き寄せられたのかもしれませんな」


 どうにかディスピュートが言葉を紡ぐと会話は途絶えた。

 薄暗い室内、彼らが無言で見下ろした先。

 作業台となっている机の上には、一つの道具がある。

 重しでもある伝達素材の台座に、幾つもの魔法瓶が括りつけられた観測器材。


 頂点に乗った瓶の口からは、黒い霧が溢れていた。



二章終了

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