第90話 こっちに振るな
魔法おやじから魔法の定義的なものを聞かされ納得していたところに、毒姉から待ったがかかる。
「そういうのは聞き飽きてんの。さっさと進めてくれない?」
魔法おやじのキメ台詞かなんか?
話し始めると長いしな。毒姉も被害に遭ったことがあるのだろう。
「毒姉も魔法団にいたの」
「ちょろっとね」
「早々に冒険者へと転向されたのは、魔法団にとっては大きな損失だったが、ポイズィ殿は肉体にも恵まれていたのでな」
ああ、昔はガチムチ系だったんだっけ。
……冒険者なる前からかよ!?
すぐに毒姉が鋭い視線で魔法おやじを睨む。
「それ以上、余計なことを言うなよ」
すげぇ。
毒姉が凄みを利かせると隣で半モヒが震え、兵たちは顔を引きつらせているというのに、魔法おやじは溜息を吐くだけだ。
これに慣れるくらいって、どんだけだよ。
立場的に嫌でも顔を合わせる機会は多いんだろうなあ。
はい、魔法団の存在意義と魔法の存在がイコールっぽいことは覚えました。
人間には、この世の他の超自然的な存在から身を守る術はほぼない。
外の異常現象から生活できる場を確保するのも一苦労で、それさえ新天地帯という特殊の場が要。
その上で、頼れるものがない場所でも己の身一つでどうにかする手段というものを探り、維持し続ける必要があると。
今のところ俺の解釈では、こんな感じだ。
実際には他にも色々あるだろうし。
そこまで脅かすわりに、普及させようって気配は見られなかったからチグハグだしな。いや、全員が魔法使いになったら社会が成り立たないか?
とにかく、それはいいんだよ。
毒姉の言う通りだ。
結局、どういう結論に持って行きたいんだ?
あ、気になるのは特に俺のところなんすけどね。
じっと魔法おやじを見る。
他の奴らも焦れたように注目した。
「我ら魔法使いの利用する場とは、黒森の奥部や雲帯のように魔気の濃い場所のことなのだが……」
それって、お外全般じゃね?
「重ねて、未だ調査中であることを理解した上で聞いて欲しい。最近表れつつある場は特に濃度が高く、さらに高まる兆候が見られる。天然記念物とはいかずとも、最悪――虹の浮島ほどの脅威になりうる」
「バカな!」
「あんなもんに増えられちゃ困りやスぜ!」
周囲の動揺に反して、なんて緊迫感の薄れる名前なんだ……。
魔法おやじが手で騒ぎを宥めた。
「今回に限ってではあるが、幸いにもクロムが生み出そうとした方法により、魔気を散らすことができる可能性が示唆された。闇属性の濃い場でな」
「そっか、だから……この辺だと、すごく安定したんだ」
クロムも身に覚えがあったらしい。
あれだけの規模の闇玉を維持するのは、やっぱ難しいのか。
妖精素材や魔気とやらを利用して、どうにか形にしてたとはな。
それにしては、かなり自在に操ってたと思うけど。
その疑問の答えが魔法おやじから出た。
「闇属性が突出していることもあろう。我らだけで再現するなら、十人は見繕って訓練を施さねばならんだろうが、他にもやるべきことはある」
「一人に任せられるならば楽ではあるな……」
「とはいえ、我らも代わりの者は用意せねばならん。正式な報告が領主へ出された後になるが、兵からも闇魔法を使える者を寄越してもらうことになるだろう」
魔法おやじと偉い兵が、そんな取り決めを交わして、話し合いは終わりの雰囲気が漂い始めた。
偉い兵と魔法おやじがクロムを向く。
「クロム、手を貸してくれるな」
「わたしの魔ほ……編み出した技が役立つというなら、もちろん」
それが交換条件だもんな。
クロムにとっては減刑よりも、せっかくの技術が生かせることの方が重要そうな力のこもり具合を感じた。
属するコミュニティの胸先三寸で決まる社会なら、罪がどうのという感覚が薄いのか? 基本は知り合いしかいないなら、話し合って解決が一番いいか。
聞く限りだと、すげえ人口少なそうだもんな。
一々ちょっとしたことで処罰だとかしてたら、すぐに滅亡しそう。
なら、あんまり俺もビクビクしなくて済むかも。
どうせなら、なんか偉そうだと発覚した魔法おやじをツテとして最大限に利用させてもらおうか。毒姉という恐ろしい後ろ盾もあるぜ、へへっ。
「あれ? 違う街なのに、クロムとは顔見知り?」
近いんだから顔くらいは知ってるだろうけど、もっと交流がありそうな感じするんだけど。
「うむ。本部だからな。団に属する魔法使いは皆ここを訪れるため、一度は会っている」
「へー……本部。こんな辺鄙な街に!?」
「辺鄙……まあ、だからこそなのだが」
あ、危険なところらしいよな……。
戦力的に良い人材を置いてると安心すればいいのか?
閑職という言葉が過ったが黙っておこう。
「それでだ、ミノル殿。流れで理解されたろうが、ミノル殿にも手を借りたい」
魔法おやじが毒姉を見ながら声を強める。
あれは冒険者ギルドの了承を得るためのようですが、毒姉はどうぞどうぞと軽ーく頷いていた。おい。
「いいけど。俺にできるのなんて、その……殴るだけっていうか」
クロムのジト目が刺さる。
「うんうん話に聞くのとは大違いだな。あの技には感服した。闇の魔気を放出することにより魔法を打ち消す……噂に聞くことはあれど、実在したとは思いもせなんだ」
あぁ!
気を放つって、そういうことかい!!
それで俺に借りたい件ってのは、殴るだけでいいらしい。
未知の力がぶつかり合うとなれば何が起こるか分からない。
もしも暴走しそうになったなら打ち消して欲しいという、保険としてだったのだ。




