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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第89話 裁定は下されたけど

 泣きそうに顔を歪めたままのクロムだったが、魔法おやじから伝えられたことを呑み込むためだろうか、わずかな沈黙のあと、ためらいがちに頷いた。


 魔法団がクロムの才能を買っているのは本当だろう。

 スケールのでかい突っ込んだ話を兵たちの前でもして、罪が緩くなるよう計らってるよな。


 今回は失敗したけど、挫けずに今後も頑張れよ!

 などと、心で思わず応援してしまう。なんだか一つの良い場面に出くわしたようだ。

 いや、やっぱり茶番感というか内輪ノリから締め出されているような複雑な気持ちだな。


 なんと言えばいいか、魔法使いでも魔法団所属でもない俺からしたら、意味不明なこともあるんだよな。

 兵の反応からも、クロムのやったことがすごいってのは事実なんだろ?

 それって魔法団の規定に沿わないだけじゃねぇの?

 新しいものが発見されたらしいだとかニュースで見たとき、俺なら「ふーん。進歩するもんなんだ」と感想が浮かんで終わりだ。


 それなのに、頑なに魔法としては認められないというのはなんでだろうな。

 魔法団に所属する人間としては、あの魔法書に載ることが憧れとか? 権威?

 それとも、法律になってんの? それはありそうだ。


 まあ、今回はやたらと住民の不安を煽ったという方が問題だろうけどさ。

 あ、魔法おやじはその辺から問題の本質を逸らそうとしてるのか?


 ちらとタツィオさん一行の様子を見れば、難しい顔をしている。特に真ん中に立つ人。

 簡単には誤魔化されそうにないと思うけどなあ。

 案の定、偉い人が口を開いた。


「魔法団の見解では、あれは魔法ではない。そして闇魔女……クロム・ウェルジュが、新たな魔法ではないと認めたことは、しかと見届けさせてもらった。しかし、此度の手配は、その件ではないぞ。確かに事前の協議では、今回実害がなければ魔法団に預ける取り決めだったが、些か強引ではないか……」


 最後、こっち見んな。


「うむ。ミノル殿の勇気ある行動に乗り、場を濁したことは認めよう」


 魔法おやじも忘れてください。


「勇気、ね」


 毒姉も余計なツッコミ入れないで。


 咳払いと共に姿勢を正した魔法おやじは、再び威厳ある風を装った。


「クロムから詳細を聞き取りつつ、確認すべきことがある。それは、今後の対策方針にも関わることなのだ」


 ほう、まだ何かあんの? 誤魔化しではなく?


「類稀な才を持つミノル殿にも、聞いて欲しいと言ったことに関係する」


 えぇ……。

 あ、そういえば俺に聞かせたいとか言ってたな……。

 内容は全く想像がつかないけど、高耐性で俺も目を付けられてたのは分かった。

 どきどきしながら言葉を待つ。


「ミノル殿は魔法について学び始めたところのようだから、基本的なことにも触れさせてもらおうか。後に、やや込み入った話もあるのでな」

「それは我らも助かる。できるだけ簡単な言葉で頼むよ」


 魔法おやじが兵たちを見ながら言い、偉い人が答えた。

 そっちへの気配りかい。

 しかし兵でもそうなら、魔法の知識って本当に一般的ではないんだな。

 まあ俺だって、電気とかゲーム機だとか便利機器を使うけど作り方は知らないもんな。


 そして俺は睡魔が襲ってこないか心配しつつ耳を傾けるのだが、心配は杞憂だった。


「まず、なぜクロムが、この地で事を起こしたかだ」


 それだよ!


「クロムは都住まいなんだよな? 力を見せつけたいだけなら、人の多い都の方がいいはずだ」


 つい興奮して身を乗り出してしまったが、兵たちも頷いている。

 半モヒと都行きの予定を立てていて、都とは徒歩で一日の距離らしいと知った。

 それも変な事象で遮られなければってことらしいけど。


「魔法で、あっという間に到着なんてことは」

「魔力の限界がある。そのようなことは無理だ」


 やっぱそうなのか。

 クロムは闇座布団で飛んでくるのかどうか知らないけど、時間が短縮できるとしても少しらしい。


「冒険者が走った方が速いっス」


 半モヒの言葉に、他の一同が頷く。

 え、マジで……。


 あーとにかく、わざわざこの街に来たことには理由があると。

 原因のクロムを見れば、困惑しているようだ。


「そんな……わたしは、普通に妖精素材を使って、派手に魔法を使っても迷惑のかからない場所を選んだだけよ? そりゃ、魔法というには、妖精に頼り過ぎだったかもしれないけど……」

「あれで迷惑かけないようにとか考えてたのかよ」

「だ、だって、都の周辺は外も人が結構いるし。ここは新天地帯の端なだけあって、本当に荒野だし!」


 しまった声に出てた。


「そんな事情もあったんだな。まだ俺は都は行ったことないから」


 なぜか満足気に魔法おやじは頷くと、兵を見て続ける。


「クロム自身も、気が付いていなかったようだな。なにも力を借りる相手は妖精だけではない」

「しかし、魔法具を使うには妖精素材しかないだろう」


 兵の偉い人が、少し苛立たし気だ。

 ちょっと気持ちは分かる。魔法おやじが蘊蓄垂れだすとき、うざって思うし。


「魔法を形にしやすい場というものがある。一般的に知られてはおらぬが、魔法使いは練習時にそうした場を利用するのだ」

「それは魔法団が秘匿しているのか? なぜ周知されない」

「条件が揃って発生するものであり、決まった場所があるわけではないためだ。そして……それこそが秘匿していたことと言ってもいい。未だ調査中であると前置きさせてもらうが、実は、その条件の揃った場が発生しつつある」


 魔法おやじは、これまでにない真剣さを見せた。

 それに対して偉い兵は苦々しさをにじませる。

 兵が苛立たし気だったのは、魔法おやじのうざさだけが理由ではなかった。


「なるほど……闇魔女は、知らずその場を感知し利用したと言いたいのだな? 街に危害を加えるつもりがなかったことは、理解したこととしよう」


 情状酌量の余地ありってことかな? それを呑ませられたというか。

 してやられたと悔しそうだ。

 訳の分からない駆け引きが行われているのだろう。

 やっぱり俺は置いてきぼり感。


「ええっと、じゃあクロムは、今回は厳しい罰はなし?」

「ああ、そうなるな。だが次はない」


 俺の呟きに偉い兵は断言してくれた。

 これで少しは肩の荷が下りた気分。

 とはいえ、その罪をチャラにすることで現れた新事実が、また問題か。

 もう俺から切り出すか。


「その調査だかにクロムの力が必要ってのは分かったけど、なんで俺まで? そもそも魔法とか、よく知らねぇし。なんであの闇玉が、正式な魔法と認められないのかとかだって理解してないぞ」

「や、闇玉っ!? わ、わたしの編み出した、『完全なる百夜の常闇』が……」

「それ名前かよ」


 こじらせてんな。


 ん? なんか常闇って、他でも見たな。魔法書だっけ?

 何かが引っかかるけど……後にしよう。涙目で睨まれている。

 魔法おやじが溜息を吐いた。


「そこも説明しよう。魔法団に属する者は入団の際に誓約することでな、知らずとも仕方ない。魔法団の存在する意味でもあるのだが」

「それは天然記念物対策じゃないの」

「対策の前提だな。外と隔絶することで生き延びている人類だからこそ、人の力のみで抗えるものでなければならない」


 途端につまらなそうな顔で、欠伸をこらえる毒姉が目に入った。

 おやじから溢れる気合いとのギャップに困惑。


「自然の中にありながら、自然の力を拒絶するからこそ、魔の法なのだ」


 ああ、ここの魔法って、そういうことだったのか……。

 なんだか妙に納得してしまった。


 それで俺の身に起きたことが不安になる。

 想定外の力が働いたってことは、魔王だとか認定されたらどうしよう!?



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