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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第88話 クロムの魔法とは

 薄暗い室内は狭く、中心には細長い会議机が一つ置かれてあるだけだ。

 その周囲に立つ、それぞれの陣営が囁き合うような会話さえ、さざめいているようだった。


 俺たちは、いつもの魔法具店の店先ではなく、奥に入って少し広めの会議用と思われる部屋に案内されている。

 とはいえ部屋数がないのか、壁沿いに棚やら物が所狭しと並んでいるし物置きを兼ねてそうだ。まあどこも建物全体が大きくないしな。


 暗いのは夜だからというだけではなくて、窓も見当たらず、光源は机の真ん中に置かれた小さな灯り石だけのせいだ。ごちゃっと並んだ得体の知れない小物の影が揺らめき、胡散臭さをアップしている。絶対、滅多に使われない部屋に違いない。

 部屋にいるのがローブ姿だとかの連中だから余計に。


 そっと上目に部屋を眺める。

 会議机の上座といっていいのか、そこには闇魔女クロムがナメクジのように、ねっちょりと項垂れて座っている。

 両サイドを挟むのは、魔法団陣営と、領兵の代表と思われる兵。

 俺はといえば、下座側の隅っこで精一杯、体を縮めて無関係を決め込んでいた。


「アニキぃ、大変なことになりやしたねぇ」


 おいばか話しかけんな。

 つか、いつの間に隣にいるんだよ!? 怖ぇから!


「……よく、追いついたな」

「へへっ、あれくれぇの危機など乗り越えられず、二級品を名乗れやせんぜ!」


 褒めてねぇし。

 ああほら半モヒの声は通るから、近くで話していた兵がこっちを向いたじゃねぇか……。

 息を殺して様子を窺うことに徹していたのに。


「おう、そうだった。まったく、なんでお前らまでいるんだろうな?」

「タツィオさんこそ、現場にいなかったっしょ」

「門前で待機してたんだよ」


 裏門観察専属の隊長さんではなかったらしい。

 領兵の代表の一人としてタツィオさんは来ているらしいが、会話内容からすると他の人の方が偉いようで、補佐として付き添ってるっぽい。


 さらにもう一人、魔法団側にいて事情を聴いていた人物がこっちを向いた。

 必死に目を合わせないようにしてた努力は潰えた……。


「ほんとあんたね、仕事増やしてんじゃないわよ」

「はい、ごめんなさい」

「すいやせん」


 なぜか毒姉が……いや疑問に思うまでもないな。

 俺の引受人として呼ばれたようです。

 いつもの嫌味ったらしい笑みすらなく無表情で怖い。

 会議場というより、補導されて親を待ってたみたいな気分になるな。そんな経験はないけど。


 荒野で魔法おやじに一緒に来いと言われたときは、なんで俺までと不安だったが、好奇心とあの場を逃げ出したい気持ちで付いてきちまった。

 大人しく同行して正解だったのだとは思う。


 兵たちの、でかいひそひそ話から漏れ聞こえてきた話によれば、俺の処遇をどうすべきかということにも及んでいたからな。

 その件について魔法団側は、冒険者ギルドの意向と擦り合わせるといった建前で毒姉を呼び出すと、俺の行動についてはお咎めなしに持っていってくれたんだ。

 というより毒姉に任せるということで、今回の件から除外するのを兵に呑ませた感じ。


「片付けるべきは、クロム・ウェルジュの件だ」


 そう魔法おやじが言い切ったことで、兵たちも頷いていた。

 魔法おやじの発言には結構な影響力がある。

 各陣営の雰囲気を観察していた感触として、魔法団の地位は、なかなか高いらしい。


 それでも、やっぱ領主のが上だよな?

 兵の皆さんは領主に報告しなきゃならない事件を、そんな簡単に主導権取られて大丈夫なのか?

 もちろん余計なことは言わないけど。


 そういえば、ここの領主って、なんか俺の考えるもんとは違ってそうだったな。

 決してお近づきにはなりたくないが、いつかはそういうのも知る機会はあるだろう。




 魔法おやじがクロムの側に立って部屋を見渡すと、皆が黙り注目する。

 話し合いだか事情聴取は、これから始まるらしい。


「さて、説明せねばなるまい」


 真面目な顔で魔法おやじは切り出すと、クロムに視線を向けた。

 その表情からは怒りや不機嫌なものは窺えない。


 ナメクジのように机に張り付いていたクロムも、空気の変化に気付いて、ようやく頭を上げた。鼻栓が片方取れている。

 ゾンビのように生気のない眼差しを、何故かクロムは俺に向けた。

 すごく、恨みがましい視線だ……ですよね。


「あのぅ、鼻の調子はいかがでしょうか」


 思わず尋ねると、クロムは残った布きれも鼻から引っこ抜く。


「……血は止まったわ」


 あれ、そういえば。


「回復魔法は使わねぇの」

「わざわざこんなことに使わないわよ」


 手に汗握る会話を、咳払いが断ってくれた。


「話ができるほどには落ち着いたようだな」


 魔法おやじにクロムは小さく肯く。

 そして改めておやじは部屋を見渡すのだが……説明? おやじから?

 てっきり簡易の裁判でも始まるのかと思ってたら違うらしい。


「あの場で、クロムが口にしたことを聞いたろう。ことの始まりは、魔法団の方針に触れるのでな」


 ああ、一応、他の陣営がいるからか。

 もしクロムが口走らなかったら隠ぺいする気だったのか? 魔法使い汚い!


 そういえば、何を担ってるのか分担や連携はしっかりしてるが、それぞれの組織には踏み込まないようだった。

 たとえば、半モヒが喋くる内容だとかに感じただけだけど。


 と、そんな風に納得しかけていたら、思いがけぬ話だった。


「申請された魔法が、どのようなものか、ということについてだ」


 クロムが騒がせた魔法事件ではなく、それ以前の元凶らしきことから聞かせるつもりかよ。

 ……語りたいだけとか言わないよな?

 そろそろ精神的疲労が半端ないんですけど。

 すかさず手を挙げていた。


「俺が聞いていいの? 場違いというか、下っ端冒険者ですし……」


 即座に周囲の大人から睨まれて声が小さくなる。

 だけど魔法おやじだけは、大きく肯いた。


「ミノル殿には、是非とも知っておいてほしいことだ」

「あ、はい」


 嫌な予感はするが、大人しくしておこう。しっかり口を閉じた。


「前に少し話した、人に扱える魔法の限界についてだ。皆が目にしたクロムの魔法は、その範疇というものを超えておる」


 毒姉は澄ましているが、兵は戸惑いを見せる。


「しかし現に、たった一人の魔法使いが行使していたろう」


 兵の中で一番偉いと思われる人物が疑問を呈す。

 心なしクロムは背筋を伸ばして誇らしげな笑みを浮かべるが、魔法おやじが見下ろすと目を逸らした。

 魔法おやじは後の言葉をクロムに向けて続ける。


「それこそが、申請書の精査に時が必要だった理由なのだ。そもそも、人が扱えぬものを魔法と定義してよいものかとな。クロム、おかしいと思わんかったか」


 はっとしたように顔を上げたクロムは、なおも食い下がる。


「で、でもでも、魔法使いが妖気を借りるのは普通で……!」

「それが、人の手に余ることの証だろう?」


 クロムは口を引き結んだ。

 ものすごいものを発見したと高揚して、多分、形にするために苦労もしたんだよな。

 おやじの理屈を理解しつつも、諦めきれない気持ちが、泣きそうな顔に滲んでいた。



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