第86話 進化?
見る間にヤバイ方に盛り上がってしまった、魔法おやじと闇魔女は睨み合う。
やっぱ副団長なんて肩書だけあって、魔法おやじは仕事に忠実らしく、容赦なんかなさそうだ。
「強力な魔法一つで全てを覆すことなどできん。その身をもって学べ。団員、連鎖魔法用意!」
その魔法おやじが、とうとう実力行使の指示をする。
しかし闇魔女は一人で派手なパフォーマンスするくらいの精神力持ち。普通に戦う気でいて、引きそうにもない。
「まだ力比べするつもり? その程度の光魔法使いが揃ったって、相殺できるくらいだったじゃない!」
「もう魔力が足りんのは分かっている」
「それはそっちもでしょ!」
大丈夫か、この子。こっちは人数いるじゃん。
すぐ後ろは街だし、人員交代も楽だ。あ、でも、門前に集まっていたローブ数の割りに、ここにいるのは十人足らずだ。
これだけの実力がある魔法使いは他に居ないのかも。
まあ無理でも退避は楽だ。
対してこいつは荒野に取り残されるし、もう安穏と都に戻ることも無理だろう。
この街の兵は他に手柄を取られるのに納得しないかもしれないが、周辺の街にも伝えられたら行き場はない。
俺は、この辺の光景しか知らないけど……。
こんな、なんにもないだけでなく、異常な荒野が世界中に続いているのが本当なら。
……一人でなんか、生き延びられるはずがない。
「引き摺り降ろせ!」
魔法おやじの号令で再び魔法列がぺっかーと輝く。
一気に不安が戻った。
目の前で、女の子がひどい目に遭うところを見せられるかもしれない。
だからって、また止めるようなことをすれば、妨害したと思われそうだ。
今度こそ仲間と考えられて、捕まるかもしれない……。
幾らこんな、なんにも考えてなさそうな残念な奴でも……やっぱ、嫌だよな。
見たくねえよ。
俺は全身を覆っているはずの闇に意志を乗せて、流れを隅々まで意識する。
前回は互いに弾き合った。
だが、今度はあいつの闇魔法の威力を叩き潰せると信じて。
「アニキ……? なにするんス、さすがに今はヤバイっス!」
「なんにもしねぇよ。後ろ、見ててくれ」
「なっ!? 背後をオレに任せると……うおぉぉ! 誰も近付けさせねえぇ!!」
魔法団の光魔法は強く輝いている。初めに、捕らえるために使った閃光の投網とやらとは違う。
攻撃魔法なんだ。
クロムの使った闇魔法の光魔法版なんだと思う。
それも連鎖魔法だとか言ってたように、足りない威力を人数で補っている。
ただ足しただけではない。威力も増しているのが、肌に流れる闇膜のせいかビリビリと響いて感じられた。
冒険者の魔法隊は待機時間も長かったというのに、魔法団のグループ魔法は、まるで一人が唱えているように短時間で、魔法効果の出方にも違和感がない。
指揮者である魔法おやじが、相当の腕ってことなんだろうけどさ。
「……んだよ魔法おやじの奴。多人数で一つの魔法を使うのは難しいとかなんとか言っちゃってさ。しっかり訓練積んでんじゃねーかっての」
もう片方。クロムは闇玉を作っていない。
その分の威力を全て光魔法にぶつけるつもりだ。
これまでになく凝縮した闇が、クロムの頭上からイソギンチャクのように伸びている。
二者の力がぶつかり、拮抗する。
空気は軋むように鈍い音を放ち、兵たちから警戒の声が上がった。
意地の張り合いのように光と闇の魔法は強くなる。
やがて、どちらかが喰われるまで。
「どっちも御免だ」
近くで見ていて良かったよ。
俺は、二つの魔法が食い合う中心に向かって駆け出していた。
立ってた位置から、ちょっと魔法団の斜め後ろからになったが、お陰で集中している魔法団に気付かれなかったんだろう。
「その戦い、待ったあああああぁぁ…………あ?」
俺に魔法の効果範囲なんか分からない。
闇の流れが感じた、ここまでという感覚を信じてギリギリまで近付き、地面を蹴るようにして踏み込んだ。
そのままの勢いで振り上げた右手の平を、思い切り天へと突き上げ――見様見真似で練り上げた闇の力を、乗せる!!
この後の俺の予想は、ぶつかり合う魔法の威力が横から弾かれて散ってくれることです。
残念ながら、飛んでったのは別のものでした。
「きゃぷしっ!!?!??」
姿を歪めた闇座布団。
そこから仰け反って投げ出される闇魔女。
頭は懸命にスローモーションしてくれてるけど、残念ながら俺に時を止めるスキルはない。時間停止ものなんて九割が嘘だからね。何がとは言わないが。
「っっっっすがっアニキッ!! 立場を越えてぶん殴りやがったああああ!!!」
あっれぇええええ!? 俺が酷い目に遭わせてるぅ!!!
や、やべぇ。つい手を出してしまった。あ、この言い方はエロいな。
違う、ツッコミ入れてしまった、だ。
いや、手のひらを出すだけで、なんで相手がふっ飛ぶんだよ?
そうだよ、そもそも触れてさえない。
この吹っ飛び方は半モヒの時以来だよな。でも、あん時は体に当たるくらいはしたろ!
魔物とだって、当てなきゃなんないから苦労したってのに……。
「は、半モヒ! 頼む!」
「へぃっス!」
地面に近付きつつある女の子をキャッチしてくれと頼まずとも、半モヒは急加速してすっ飛んで行った。ほんと人間かよお前は。
しかし、相手もただの女の子ではなかった。
「創生の闇!」
何事か声が聞こえると、散りかけていた闇座布団が、ふっくら具合を取り戻したのだ。
それを体の下に作って落ちると、掴まる様にしながら再びふらふらと上昇する。
だが高度は下がっているから、もう力が出ないのかもしれない。
ちなみに、あと少しでキャッチというところにいた半モヒは、闇魔女が闇座布団を作った時に浮力を得るためか下方に威力を放出したため、どこかに弾き飛ばされて行ってしまった。南無。




