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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第85話 闇魔女

 夜空に浮かぶ女の子、クロム・ウェルジュ。

 その闇魔女と自称する犯人を見上げる魔法おやじの横顔を、ぼんやりと眺めた。


「魔法団、所属……」


 これまで引っかかっていたことが氷解した瞬間だったんだ。

 そして――なんだ、やっぱり関係者だったのかと納得もしていた。


 丘の上の妖木に力を借りた魔法具調査ってのをしてるところを見かけたとき、すでになんの魔法か見当をつけてるだろうと半モヒは言っていた。

 前回の襲撃事件で、兵の一団は真っ直ぐに対象を追っていった。闇の目くらまし魔法とやらを使われると、後を追うのはほぼ不可能らしいのに。

 魔法おやじとの話で、不思議現象などではなく誰かの仕業ということが判明しているのも聞いていた。

 調査隊は都にたどり着いたのに掴まえずに戻ってきたってのは、魔法団が主導したい事情があったんだろうな。


 魔法団は初めから、どこの誰のことかも知っていたわけだ。


 ぽっと突然に、世に知られてない大天才が現れるなんて実際には滅多にないんだろう。

 大抵は環境が作るよな。伝記とか読んだ限りではだけどさ。



 それにしても魔法おやじめ……ただの胡散臭いおっさんと思ってたら、これで魔法団の偉い人だったとはなぁ。

 毒姉みたいなもんだと思ってたのに裏切られた気分だよ。

 俺……そんな人に掴みかかったんだぞ。

 半モヒもそういうところ教えてくれっての!


「こりゃ、いよいよ目的が知れそうっスね」

「ひぃ」


 心で半モヒに八つ当たりしてたら、いつの間にか横に立っててビクッとした。

 固唾をのんで見守るべき状況のはずだったな。

 なのに、闇魔女と魔法おやじのやり取りは、どうにも気が抜ける。


「魔法団の存在意義は理解しているはずだ。それだけの魔法の才を持つからこそ、自然の過酷さが如何ほどのものかも、我らより感ずることもあろうに……。このように人々を脅かすことに魔法を行使するなど、最も避けねばならぬことだ」


 いや、まあ、こんな感じで、魔法おやじは至極真面目に語り掛けているんだ。

 でも、どこか子供にお説教してるみたいなんだよな。


 俺の方が申し訳なくなってくるような、静かで切々とした語り。

 だというのに闇魔女の方は、ぷぅと不貞腐れている。それでも口を挟まず聞いてはいたが。

 けれど答えを促されて出て来たのは文句だ。


「なによ、そっちの都合ばっかり。こうでもしなければ、わたしの話なんか聞く気もなかったくせに」


 ますます反抗期めいてきたというか……もしかして、直に知り合い?


「遅きに失したかもしれんが、事情ならこれから聞かせてもらおう。領兵立合いの元とはなるが、今ならまだ、魔法団に身柄は委ねられている。己を省みて降りてきなさい」


 ふーん。門番のタツィオさんへの報告が込み入ってたのは、魔法団との管轄的なもんだったのかな。

 あ、あの人も隊長とかだったよ。もしかして居る?

 兵の方を見回してみたが、それらしい雰囲気の姿は見付けられなかった。


「ぐゅきぃぃ……」


 言葉に窮したように唸り声をあげる闇魔女を見守る。

 魔法おやじの勧告は、意外だった。

 これって結構、融通つけてくれてるんだろ?

 領軍のメンツが云々聞いてたし、もっと極刑を想像してた。

 これなら俺の精神衛生上まずそうな罰はなさそうだよな。

 などと安心しかけたところで。


「嫌よ」


 なに言っちゃってんだよおーーーー!!!


「現状、己がどのような立場か考えんか」

「わたしは、ちゃんと申請書を出したもの! なのに何度掛け合っても却下したのは、そっちじゃない!」

「認可に時間がかかると伝えられたろう」

「その場しのぎよね。本当に認めてくれる気があるなら、まずは説明を求められるはずでしょ。どうせ若造の言う事だからって、絶対碌に読みもせず書類の山に埋もれてるって分かってるんだから!」


 えぇと。よく分からんが、すでに魔法団内でひと悶着あったと。


「なんだこの内輪揉め」

「なんか妙な方向に行ってるっスねぇ」


 反応に困ってそれとなく周囲を見れば、俺だけでなく兵たちも脱力気味だ。


「そうではない、そうではないのだ……。新たな魔法を思いついたからと、そう簡単に用いるわけには……クロム!」

「だから今、その目で確かめるといいのよ! 来なさい魔法団。あなたたちが団子虫になっても、わたしには敵わないって証明するんだから!」


 ちょっと表現が気になるが、そこではなくて。

 あーあ、どんどんまずい方に盛り上がっちゃったよ……。


 闇魔女から闇の煙が渦巻いて噴き上がり、滝のように降ってきた。

 と同時に魔法おやじが片手を振り上げた途端、握られていた光り棒は輝きを放ち、ガリガリと削り合うような振動が両者の間に走る。


 どっちも反応が早ぇ!

 くそー、魔法おやじの癖にちょっとかこよくね?


「俺、座ってお茶飲んでていいかな?」

「そっスねー」


 なんてぼそぼそと話していたが、すぐにそれどころではなくなった。


「副団長の援護!」

「下がれ!」


 ローブ戦隊はおやじに並び、兵の列は再び固まり矛先を空へと向ける。

 周りが慌ただしく動き始めると、また俺にもハラハラ感が戻ってきた。


「火力で重宝されるが砲台以上の役に立たないなんて、魔法使いが皮肉られた時代は終わるのよ……この偉大なる闇魔女クロム・ウェルジュのおかげでね!」


 ズレた意味でハラハラするんだけどな。


「そのような時代はない! 魔法使いの在り方を、根本から叩き込みなおさねばならんようだな!」

「あーははは! 逃げまどいなさい! できるものならね! 素早い魔法使いこそが最強なのよ! うーはははは!」


 素早い……?

 黒い座布団に正座して、ふらふらと飛んでるようにしか見えないんだが。

 あのちっこくて頼りない女の子が悪名高い魔女とか信じられないな。


 改めて宙で右に左に揺れるものを見て溜息が出た。

 ようやくだぞ。

 ようやっとゴツくない女の子が出て来たと思ったら、中二心卒業できない系とか……。

 ほんと、この世界はどうなってんだよ。俺に冷たすぎない?


 俺は緊迫感溢れる周囲の空気に不安を覚えつつ、どこか胸の奥を抉るアイタタタな気分で、自信満々な女の子を見上げていた。



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