第83話 捕縛
空に轟く不穏な振動。
それは闇魔法によるものだ。
大量の黒い線は、花火で言えば、しだれ柳みたいに広がっては垂れ落ちていく。
それが視界を掠めるや、弾かれたように俺たちは来た道を駆け戻った。
ギルドを出てからそう離れてなかったが、ギルド前通りに戻ったら、すでに怒声が飛び交い人が走り出していた。
俺たちがスイングドアに触れるより早く、出て来た奴が叫ぶ。
「みんな表だ! 表門に行け!」
俺と半モヒは、かくっと方向を変えて走った。
今度は俺も半泣きではない。
本気で興味があるんだ。
俺には誰よりも高い闇耐性があると分かって、それがあいつと同等らしいってのが、気にならないはずない。
それに、あれから色々活動したことで気付いたこともある。
闇触手を弾くときに考えた魔法属性同士の反応の仕方。それには、誤りがあったと思ってる。
まあ理屈はともかく撥ね飛ばせるとは思ったんだし、あの時はそれで動けたから結果的に良かったんだけどな。
弾けなくとも俺には問題なかったと思うけど。
「お、すでに集まってやスね」
表門側の城壁の向こうは、薄っすらと明るい。
近付くと、すでに門前の広場は人で埋まり辺りは騒がしかった。
ちょうど冒険者は帰宅中にでも遭遇したのか、かなり集まってる。
そこに兵やら怪しい黒ローブ集団も押し寄せて、前にも増して緊急事態具合が増していた。
変だ。
「なにか前と違うな」
「アニキも気付きやしたか」
「お前も感じるか。で、なんなんだ?」
「分かりやせん」
分からんのかい!
半モヒを無視して表門の方を見る。
あたこちで号令が上がり、慌ただしく人が行き交っていて門の向こう側は見えないが……。
「魔法団が出張ってんな」
そう半モヒが呟いたのを聞いて、俺も以前との違いに気付いた。
俺たち冒険者が直接対応したのは別として、一応は兵が街を守るように前に出て、その背後からローブ軍団が様子を窺っていたはずだ。
けど、今はどちらも列を成し、明々と魔法具が照らす中を移動し始めていた。
そう、門が開かれているんだ――。
俺もひしめく列の後に続く。
といっても兵も魔法団も機敏で、苦労せず外へ出られた。
……やっぱり魔法団の奴らも運動が苦手というわけでもないらしい。
そこから様子が変わったのは、魔法団が兵の前に出たことだった。
振り返れば、以前とは逆に冒険者が門前を固めていた。
目が合った何人かが、慌てたように両手をバタバタと振って口を動かしている。
「あー、あいつらアニキに危ねぇから戻ってこいっつってやスぜ。へんっ、なんにも分かってねぇなぁ!」
などと半モヒが小声で解説してくれたが、言われなくともそんな気はしてた。
というかお前も俺が何するか分かってねぇだろ。
なんせただの見物だからな!
背後を無視して前進する先を見る。
魔法団を先頭にした兵の列は速度を落とし、じりじりと近付いていた。
もう見えている。
――闇玉だ。
思わず喉が鳴った。
すでに闇の細い煙が何本も立ち昇り、こちらへと漂い始めている。
「まじで、堂々と出てきやがったよ……」
状況としては前回となんら変わりないのに、今回はいきなり魔法使いや兵が出て来た。
なんで俺たち冒険者は出番なしなのかと思ったが、あいつの力がどんなもんか調べるのに出されたんだったな。
今回はすでにネタが割れてるし、対処法も用意できたんだろう。
……やっぱり冒険者って捨て駒っぽいじゃん。
そして、魔法使いが前列の理由もすぐに理解できることになる。
ただの灯り棒だと思っていた、白く光る細長い棒。
それらが一斉に輝き、隣の光と混じって見る間に巨大な白い壁を作っていた。
二級品冒険者のニバンさんのパラソル魔法が一列分ですぜ!
「ニバンさん何人分だよ!」
「えぇあんなのが何人もいちゃ嫌ですぜ」
それは俺も嫌だが。
あの人も、冒険者で光属性が一番高い人だったろ?
あくまでも冒険者の中では、ってことかよ……。
魔法使いの本領発揮に愕然。
それにしても恐ろしいのは、あの闇玉もだ。
全ての闇煙りが標的を光の壁に絞った。
ぐわっと光を飲み込むように雪崩落ちて襲い掛かってきたんだ。
俺の知る限りでは、あの魔法使い一人だってなかなかの技量の持ち主に見えるというのに、それを束で相手取っている。
ここの人間が、これだけ警戒するんだから、敵も相当だよな……って、何か変だな。
闇玉の中の人なんて見えやしないのに、なんか一人って思い込んでた。
今までもそうだけど、俺、誰かに聞いたっけ?
そういえば、魔法おやじにしろ、そんな風に話してたよな……。
「アニキ、動きやスぜ。今回は魔法団も本気っス!」
ちょろっと考え事してる間に、一気に変化していた。
前より早い。
「え、てかなんで俺たちぽつん?」
「さっすがアニキは動じねぇなぁ!」
気が付けば兵の列は、魔法団を真ん中にして、闇玉を両サイドから挟むように展開していたのだ。
えーと……なんか今さら動くのも恥ずかしいからいいか、このままで。
今回は闇玉も他を気にする余裕はないらしく、煙の手は伸びてこない。
それどころか見る間に闇玉を形成していた煙がほどけるように消えていき、隠されていた中心が露わになっていく。
「あれ、今回は逃げないのか?」
「ほぅ、さすがに上級魔法の閃光の投網を破ることはできなかったか……」
解説ありがとう。碌な名称はないのか。
「要は、ただの盾じゃなくて絡めとってるんだな?」
「そっスね。ただし闇魔法に対してだけっスが」
「え……それだと本体は」
「だから兵が囲んでるんでしょ」
軽い期待で喉が鳴ったのとは違う緊張に、喉が詰まるようだった。
見る間に光の壁が崩れていくが、同時に闇の存在感も薄れていく。
あんなに巨大な手触りだったというのに。
光魔法の白い火花が散り終わると、微かな闇の煙を残して、暗い荒野が戻ってくる。
灯りは兵の持つ灯り棒だけだ。当然、辺りは暗いし灯りも届かない。
そこに誰かがいるのだとしても判別は難しい。
いくら俺が闇の深さ具合が読めるようになったといえど、なにかそこにあるなぁと分かるくらいのもんだ。
毒きのこで試して分かったが、初見のもんは直に確かめる必要がある。
感覚では確かめられても新たな知覚だからか、俺の頭が付いてこないからな。
じっと巨大な闇玉だった中心に目を凝らす。
「闇が晴れるぞ!」
魔法使いの列から上がった声を受けて、兵たちが一気に広がって包囲を狭めていた。




