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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第82話 決心

 本日は毒きのこデイのお陰で、これまでにない稼ぎを叩き出したぜ!

 初めて俺の回転焼きサイズのコインケースから餡子がはみ出るほどだったのだ。

 小さな巾着に分けて、財布代わりに買ったはずのウエストポーチを、ようやく元の用途通りに使えて嬉しいです!


「いやぁ、ほれどうよこれ。なかなかのもんだろ?」


 カウンターに肘を掛けて鼻高々に言い放つ俺。

 そんな俺を心底うざそうに見上げた毒姉曰く「普通ね」だそうだ。

 ということは? 並の四級品冒険者らしくはなったってことだよな!


「へへっ、この分だとさぁ、そろそろ三級品に上がんじゃね?」


 俺の期待を込めた問いかけに、毒姉は鼻を鳴らしただけだ。

 なんか色々と含みがありそうだから意図は突っ込まねぇけどよ。

 まあ、なんとなくは想像つく。


 ここのギルドだと、割合的に三級品冒険者が多いみたいなんだよな。

 だから、それくらいで喜んでんじゃねえぞってことだろうさ。


 俺もそんなに甘くないだろうと思ってはいるっつーか。

 実のところ四級品を維持したい気持ちとせめぎ合ってたりする。


 だって上がったら上がったで、毒きのこ以上の敵が増えると思うとなぁ……。

 俺の場合、反応速度の問題が付きまとう。

 なにより出かける範囲も広く、遠くなっちまうよなぁってのが面倒くさい。


 みんなよく日暮れまで帰ってこれるな。

 ……これも身体能力の差か。

 そこらへん、俺の場合は真剣に何か策を考えた方がいいのかも。


 とにかくだ。

 なんで分かっていながら一応聞いてみたかといえば、もう都行きを決行しちゃおうと思ってるんだ。

 ちょっと俺にしては大金を手にしたからって調子に乗ってるんだよなぁ。


 でも、三級品に上がるのを待つつもりはない!

 というわけで、そう伝えることにした。

 カウンターから体を起こして背筋を伸ばし、毒姉に向き直る。


「まあ、どっちでもいんだけど。俺、遠出すっから」


 毒姉から、すっと表情が消えた。

 こえぇ。負けないぞ。


「どういう意味?」

「都に足を延ばそうと思ってさ。この町だと知れないことも多いんだろ? 毒姉も辺鄙だとか散々に言ってたし。あーだから、その、色々と知りたいんですぅ!」


 努めて真面目な表情を保ちつつ説明したつもりだ。

 最後、毒姉の威圧毒視線に危うく怯みかけたが、どうにか持ち直したぜ!


 じっと毒姉の反応を待つ。即座に撤退できるような体勢は万端だ。


「ふーん」


 毒姉は、なんともいえない微妙な顔付きだった。

 何かを考えるように、頬杖をついている指で自分の頬を叩いている。

 じっと息を詰めて窺っていると、毒姉は伏せていた目をこちらに向けた。


「一応、真面目に話しとくわ。本当なら三級品になるのを待ってから外に出るのをお勧めするのよね。普通は、三級品から受けられる商人の荷物持ちでもやるついでに出かけるもんだから」


 おお、本当に真面目に解説されてる? あまりに意外。

 まともに一冒険者として扱ってもらえてる感!


「少しは各所との関係なんかも覚えてないと危ないから、ってくらいは言いたいところだけど、少しは常識も身についてきたようだからいいか。なにより、別に組合が止める規約はないからね」


 へぇ、そういうもんなんだ。

 それにしちゃ俺はやけに絡まれていた気がするんだけど。

 ……力ある馬鹿って危ねぇもんな。仕方なかったね!


「説明はすごく助かります! でもさ、なんか言い方的にあんまり歓迎されてない的な感じするんだけど?」

「とんでもない。感心してただけよ。みんな移動費用を商人任せにしてんのに、下級の内から自腹で旅に出るなんてって。しかも競争率の激しい都に行くんでしょ。稼げるといいわね」


 ぐっ……ぐさぐさと累積ダメ入ったぞ今!

 まったく、ねちねちと痛いところをついてきやがる。

 もちろん、その不安は当然あるよ。脇に追いやってたけどな!


 横からぼさっとトサカが介入。


「そこはオレがついていきやスんで、ご安心を!」

「やっぱヤロゥも付いて行くのね」

「もちっス! アニキの向かう先にゃまだ見ぬ荒野が耕され尽くす未来が待ってんだからなぁ!」

「うるさい」

「せんっした!」

「というわけよ」


 俺が痛む胸を宥めていると、毒姉が俺に向けて同意を得ようとばかりに言う。

 え、今の訳の分からないやり取りは何かの話し合いだったの?

 不思議そうに見ると、毒姉は半モヒに親指を向けた。

 あー、半モヒがいるからなんとかなるだろってことか。

 本人の前で堂々と「たかれ」と言われてるようで居たたまれないけど……どうにか毒姉に話は通せたんだよな?


 まだ毒姉が不満気に口をとがらせているのが気になる。

 口の悪さは別として世話になってるし、聞いてみとこうかな。


「じゃあ数日後かな、準備ができたら出るけど、なにか他に心配事でもある?」

「ちっぽけな組合だからね。滞在中の人員が減るのはいい気はしないってだけよ」


 もしかして、帰ってこないことを心配されてんのかな。

 都行って帰ってこない奴が多いとかありそう。


「別に稼ぎがいいからって移住はしないぞ。ほら半モヒの家がこっちにあるだろ? 俺も観光したいだけだし、面白いもんがなければすぐ帰ってくっから!」

「観光、ね……」


 思いっきり呆れた目を向けられた。

 あー、この世界の事情的には、暢気に観光したいだとか能天気すぎる発言なのかもしんない。




 どうにか相談を終えて組合を出ると、すでに暗かった。

 話に熱中していたせいか、時報妖精の騒音に気付けなかったな。


「んじゃアニキ、明日は買い物っスね」

「そうだなー、飯食いながら最低限の荷物を決めておこうか」


 そんな話をしながら、ぶらぶらと歩き始めたところで、俺達の足を止める音が。


 俺自身のホームシックなどという悩みも退け、毒姉の石化視線スキルも、ぎりで避けた。

 しかし、巻き込まれ系キャラの俺が、そうそう予定通りに行けるはずもなかったのだ。


 この街にはまだ問題が残っている。

 未解決の闇魔法事件が――。


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