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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第80話 扱い切れない感情

 魔法団の店を出た俺は、ただ来た道を早足に戻っていた。

 ズボンのポケットに手を突っ込み口を噤んで前だけを見て、全身で会話の隙を与えないぞというポーズを取っているためだが、半モヒに通用するはずもなかった。


 細い路地から表通りに出るとすぐに、後ろにいた半モヒは悠々と俺に並んで歩き、ついでに口も開く。


「アニキ、上級書を読めるってのを、あえて魔法団に伏せる理由を聞きたいっス」


 俺は頑なに口を閉ざして、目も向けない。

 人には黙って待っていて欲しいときってのがある。

 そんでもって、こいつも俺の微妙な空気を読んではいるはずなんだ。口調に好奇心は感じられず慎重だし。

 なのに、口は直接に確かめようと動く。そういう性分だから。


 確かに俺は、そのお喋りに何度も助けられてきたよ。


 だからこそ安易に否定もできず余計に……こういうときは、心底うざい。


「深い訳があるんだろうとは思いやスが、オレにゃ理解が及ばず。僭越ながら、理由を共有させてもらえたらと。補助できることもあると思うんス」


 しつこい。


「……読めない」


 会話を止めようと、なんとか押し出した言葉は掠れていたが、それでも半モヒには聞こえただろう。

 こんな雑な言葉じゃ黙らないのは分かっていたけど。


「ええっ、のっけからさらっと読み解いてたのは忘れやせんぜ! オレは弟子になると決めたからにゃアニキの秘密だって誰にも漏らしはしやせん!」


 案の定、大げさに喚く半モヒ。これまでと何も変わりはしないのに、なにがそこまで気に障ったのか。

 聞いた途端に、足が止まっていた。


 数歩先で振り返った半モヒを睨んで、声は勝手に飛び出し、叫びへと変わる。



「読めねぇったら、読めねえんだよ!」



 正確には睨むどころか、なるべく半モヒの目から視線を外すようにして、胸の内の塊を吐き出していた。情けねぇ。

 俺自身、不条理な怒りをぶつけているのを理解しているからだ。


 この世界に来る直前、俺は浮かれていた。

 浮かれていたところで変な場所に来ちまって、やっぱり浮かれていた、はずだ。


 それでも、実のところ、なにかのわだかまりを胸の奥に押し込んでいたんだ。

 理解できないもんを、いつまでも引き摺っていたってどうにもならないから。

 自分がどう思うかと、環境の変化に体がついてこれるかは別物だって、話には聞いたことくらいある。

 それでも今まで体験したことのない状況に、俺自身がどう反応するかなんてのは、その場になってみないと分からないもんだってのを、ようやく実感していた。


 これまで堪えてきたことが堰を切ったように溢れてしまう。

 その溢れるもんの正体だって見極めきれない内に――。


「なんで、そんなになんでも信じられるんだよ! 無理なもんは無理だろうが! なんでもかんでも過剰な期待向けられる方のことも……考えろよ!!!」


 言いながら自然と俯いていた頭に、自分の声が反響するようにまとわりつく。

 実体となるなら剥がして捨ててなかったことにできるのにと思うくらい、言った端から後悔するくせに。

 それでも感情が高ぶるに任せて文句を叩きつけてしまう時がある。

 こんなの学校では友達と険悪になったときでも、やんない。

 兄貴と言い合いするときだけだ。


 ――あー、そうか。それだ。

 少しだけ、感情の出どころが掴めた気がした。


 半モヒは全ての気配を消したように静かだ。

 視界に足が入ってるから、そこにいるのは分かる。

 俺の八つ当たりを、間近で聞かせてしまった。

 突然、切れて怒鳴り散らすとか危ない奴だよ……。


「……俺が理解できるのは、闇魔法のやつだけだったんだ」


 少しだけ頭が冷えて、取り繕うように理由らしきものを絞り出した。


「言わせてもらいやスが、それだけですごいことっス。どれだけの奴らが、真面目に取り組んで挫けたか」


 いつもの半モヒからは考えられないほど、落ち着いた声だった。

 内心はともかく、別に俺を咎めるような感じはしない。たんに内容だけ受け取って、思うことを伝えてくれただけといった感じだ。

 俺と違って危険な状況なんか幾らでも体験してるだろうし、こういうところは年上だよなと思う。


「うん……分かってる」


 この無駄なほど、やる気と行動力のある半モヒが挫折したことだ。

 それを腐すようなことを言って悪いとは思う。


 半モヒを横目に盗み見れば、顎に手を添えて何かを考え込んでいる様子。

 そのまま、独り言を漏らすように話し始めた。


「そうっした。アニキは、何かを目指して山を下りて来たんだ。未だ修行中の身で、人に教えるのが負担だろうってのにも考えが至らねぇとはな……。オレも必死だったからとはいえ気付かず、面目ねっス」

「その設定まだ生きてましたか」

「設定? そっスね。オレも今後を考えねぇと……」

「え」


 あ……まずくね?

 このままここで師弟関係は解消となれば、こいつのことだから腕試ししてからとなって……俺爆散!!!


 俺は高速で上半身を折り曲げていた。


「虫の居所が悪いからって怒鳴ってすみませんでしたっ!」

「えーっ! なんで謝るんスか!? こえーっスから!」

「誠心誠意謝ってるだろ怖いってなんだよ!?」

「拳は向けないで欲しいっスー!」

「違っ、ちげーから! これは殴ろうとしたんじゃなくてっ!」


 すったもんだしていると、すぐ側の家の窓が開いた。


「なんの騒ぎだい! 喧嘩なら荒野でやっとくれ!」

「お邪魔しましたー!」

「せんっしたー!」


 巨大ゴーヤ風棍棒を振り上げたおばさんが窓から乗り出したのを合図に、俺達はすたこらと逃げ出していた。



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