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第8話 初クエスト

 ゴブリンかぁ。いんのかぁ。

 あーなんかようやく変な世界に来たんだって気がしてきた。


「よ、よしっ、ゴブ退治と洒落込もう」


 ものは試しだ昼から肝試し。

 染みだらけの紙切れを木製ピンからベリッとむしり取った。


 あーでもゴブリンって一応、敵対モンスターなんだよな……。

 なんか軽く考えて、つい手に取ってしまったが物語によって設定は微妙に違ったりするもんだ。


「こいつ弱いよな?」

「さいよわっスよ」


 おお、最弱モンスターっぽいのは変わらないのか。

 なら俺だけでも退治できそうじゃね?

 このツッコミパワーがあれば問題ないというか……どっちかっていうと一人で確かめたいことがないこともないというか。


 ちらっと隣を見上げる。


「そのぅ、やはりだね、半モヒ君。こんな低級依頼に二級品の先輩を付き合わせるのは申し訳ないし、せっかくだから体を休めた方がよろしいと思うのですよ。だから、俺一人で挑戦してみようかなぁと思うんですけど……」


 半モヒは弾かれたように仰け反って目を見開いていた。

 あぉん? んだとごらぁ!

 そう威嚇されているようにしか見えない。


「俺が……は、半モヒだとおぉん……!?」


 やべ、素で口にしてたわ。


「すんません、ついできごころでっ!」

「渾名を賜るとは……オレを、くぅ、オレを認めてくれたんすねアニキぃ!」

「斜め上すぎる!!」


 スルーしようと思ったが訂正しとこう。気色悪い。


「誤解だからな? まだ名前知らなかっただけだから」

「あ、名乗ってなかったっスか。オレは、ヤロゥ・バゥカ。呼び出すときゃ気軽にヤロゥと呼んでくだせぇアニキ!」


 ヤロゥが、まさかの本名かよ!

 姉ちゃんの口が悪いからてっきり罵倒だと思い込んでたよ!


「俺はミノルでいい」

「へぃアニキ!」


 うん、そうなると思ってた。

 こうして貴重な時間を無駄に費やしている場合ではないな。

 もう自棄だ。


 窓口へ駆け寄り依頼書をカウンターに叩きつけようとして、ぐっと堪えた。

 危ねぇ、またヒビ入れるところだった。

 けど、怯んでたまるか。これが試金石となるんだからな!


「この依頼でお願いしまっす!」

「つまんない依頼ね」


 などと呟いて姉ちゃんは、だるそうに受け取った。


 人のやる気に水を差すなよ!


「なんだよほんと……この毒魔女が」


 ぴくりと、何かを書きつけていた姉ちゃんの手が止まり、こっちを向いた。

 げっ、思わず口の中で呟くように出てしまったのが聞かれた!?

 姉ちゃんの目が鋭く細められる。


「そんな古い呼び名、どっから拾ってきた」


 本当に呼ばれていたことの方が驚きだよ。


「はうぅ……マズイっすよアニキぃ」


 半モヒを見ると横でガタガタと震えあがり、毒姉に向けてがばっと頭を下げた。


「すすすみません申し訳ございません全くもってオレの落ち度でございますぅ!」


 恐ろしさで訳も分からず謝ってしまったんだろうな。

 お陰で酷い目に遭うのが俺だけでなく助かった。気持ち的に。

 姉ちゃんの腕がぶれて視界から消えると、頭頂部に衝撃が走っていたのだ。


「いっでえええぇ!!」


 俺と半モヒの醜い叫びはハモっていただろう。


「ほら承認したから、とっとと行け」

「ぐうぉ……また勝手に!」


 そうして忙しいのよシッシッと窓口前から追い払われた。

 マジでなんかぶわっと、すごい風来たんだけど。

 その風と共に流れてきた紙切れを掴んで見れば、依頼受諾者は……。


「んだよヅカミンパーティって!」

「うーっス。本日は、案内役を賜り光栄の至りっス。あ、光栄といえど役割は後衛でも前衛でも」


 横からしょうもないダジャレ飛ばしてんじゃねーぞ。


 悲しいかな、今の俺に選択肢はない。

 半モヒが立候補してくれたのは案内役だったよな?

 パーティで受付って、ただの案内どころか、がっちり組まされてるやん……。


 二級品冒険野郎と五級品組ませるってどういうことだよ!

 なんて文句を言うこともできず、俺たちは変な強風に押し出されるようにして冒険者組合事務所を出ていた。


 最悪すぎる。何が忙しいだこの毒吐き魔女が。

 てめぇは街角で辻ネイルサロンでも開いてろ!



 

 仕方なく歩き出した半モヒに並ぶ。


「冒険者辞めて三年は経つのに、現役ばりばりっスよ、あれ」

「なるほど、あの姉ちゃんも元冒険者ダッタノカー」


 そうだと思ってた。

 こんなガラの悪そうな場所の受付嬢なんて警備も兼ねてそうだよな。


 たんこぶが出来た気がする頭頂部を撫でつつ半モヒを見上げると、モヒの間からこぶが生えて、ますます面白頭になっている。


「なにも殴るこたないのにな」


 喧嘩っ早くないとやってけないのかもしれんけど。

 暴力ヒドイン反対!

 いやあれはモンスター枠でいい。倒さないが。


「いやぁ、アニキには悪いっスけど、それはしょうがねぇ」

「なんで?」

「そりゃ、現役時代の呼び名っスから。引退してんのに吹聴されたら、復帰するのかと詮索されかねないんで」

「みんな知ってんじゃないの?」


 というかこいつの耳にも届いてたのかよ。

 そういえば登場時も盗み聞きしてたっぽいし、異常な聴力が普通?


 それより今は毒魔女呼ばわりがまずい理由だ。

 姉ちゃんの物言いを信じていいか分からないが、田舎街っぽいことを言ってた。

 そんなところだと嫌でも評判は残りそう。

 俺も気を付けよう……すでにやっちまってるが。


 半モヒはなにかを思い出すように空を見ると、身震いし顔をゆがめる。


「一級品冒険者だったから、そりゃあもう強かったっスよ。魔女のくせして腕っぷしも相当なもんで、かなり恐れられてたんス」

「いんのかよ魔女」

「もちっス。ほんとアニキは純粋っスね」


 うるせぇよ。無知なのを良い風に言うな。体がピュアなことも思い出してしまって落ち込むだろうが。


「それで、蒸し返されると困るってのは?」

「上の奴らが、放っておかないんで」


 おぉ、いきなりヘビーな話題来た。


「権力争いだとかに巻き込まれるのか!」

「普通は一年も引っ込んでりゃ腕も落ちるんで、しっかり引退しちまえば、そこまで勧誘もないって話っスね」

「へぇ、色々あるんだなー……」


 なるほど。

 なんでそんなところに地雷落ちてんだよ!

 そんで何を都合よく俺は踏み抜いてんだよ!


 一つ身をもってタブーを学べたな。

 二度目はありませんように。


 それはもういいとして別のこと考えよ。


 魔女といえば魔法だろ!


 ここの魔法が、どういったもんかまだ分からないが、魔法による加工技術だとかはあるみたいだった。

 魔法団がどうのとか聞いたし、そこに属する職人とか?

 団長は爺と言ってたよな。

 たんに魔法使いではなく、わざわざ魔女と言い直すということは、男女で別もんなのか?

 ジョブシステム的なものだと魔法使うには条件が要りそうだよな。


「魔女って、どんなもん?」

「今熱いのは、闇魔女かなあ」

「闇魔法とかあんの。それで名をはせたとか?」

「自ら名乗ってたんっス」

「完璧に拗らせてるな」


 やれやれ将来恥ずかしい思いをして身悶えるんだろうな。哀れなことだ。


 意図した質問の答えではなかったが、まあ追々でいいか。


「もうすぐっスよ」


 そんな話をしている内に、俺と半モヒは街外れの森に到着していた。


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