第76話 闇属性だけと思ったか?
クワガタリスを警戒しつつ歩きながらも、都に向かうための準備について、半モヒに相談した内容を思い返していた。
まだ、この街でも調べられそうなことはあるが、田舎らしいってのは初めから分かってたことだしな。
多くの情報が集まってそうな場所には行くことになるだろうと、なんとなく想像してた。
実のところ、今回の相談による都行きに関する目的は、もの探し活動そのものではなかった。
その予行演習だ。経費の試算だとかな。
軽く話してみただけだが、実際にやるつもりで話せば前よりも具体的な予定が見えてきた。
もっと早く聞いておいても良かったかもしれん。
まあ、少しは俺も事情に明るくなった今だからこそ、スムーズに相談できたんだろうけど。
黒森を歩くようになってから、ずっと頭の片隅で考えていた。
俺ができることはなにか。やっていいのはなんなのか。活動の足掛かりをどうするか。
魔法耐性によって体を補強する力が備わっている話を聞いて、それが自分にもあると感じられたから、他の奴らと肉体面での差はあれど旅立っても大丈夫そうという目処は立った。
後は、周囲が認めてくれるかどうかだ。
身分証明などに関しては、兵からも求められないなら好きに行き来して構わないのだろうと判断することにした。
そこで、次の行動にでることにしたわけだが。
もう一つ、活動を支える仕事の問題。
予想通り、冒険者として一人前と認められるのは三級品からのようだった。
毒姉から、ちくちくと言われる内容も、ランクに対する適正な行動を取れるように配慮した忠告だ。いや、ただの文句かもしれんが……。
ともかく、ギルドが設けた最低限のラインを越えれば、後は勝手にしろと言わんばかりに行動できる範囲も広がるようだ。
最低限、自分自身を守れるくらいは動けるようになるだけでなく、必要な知識が身につく頃合いってことだろう。
だから、ひとまず三級品に上げたいとも考えていた。
三級品に上がる試験みたいのも、依頼達成率だとか、なんとなく知れたし、このまま続けていれば多分いけるんじゃねぇかと思う。
ただ、その時間が問題だから、三級品に上がる前に動くことになることも考えている。
毒姉につつかれるのも覚悟して、下準備を終えたら出かけるつもりだ。
下準備っていっても、後は半モヒの蔵書を読み終えるくらい。
まずは流し読みでも済ませておくか。
半モヒコレクションを物色したら、魔法団に探りをいれておしまい……いや、上級書が読めるってまずい?
魔法書以外の資料本もあるか。初めはそっちから聞いてみよう。
黒森の闇を掻き分けるように奥地へと歩き続ける俺と半モヒ。
一通り、やることをおさらいしてる内に、結構な距離を進んでいた。
「もう粒まみれになる心配はなくなったな」
「お、では早速行きやスか、発泡茸退治!」
「見つけ辛そうだし、先に何匹か倒しとくと楽じゃね」
「昨日ほど見つけ辛いなんて滅多にねっスよ」
「早く見つかるなら、それはそれでありがたいけどな」
そんな予定をなんとなく話しながら、もさもさ草群生地脇を通り過ぎる。
先に毒きのこ退治にするのは、また半モヒが胞子攻撃を喰らったらという、もしものためだ。
俺と違って取り除くのに時間がかかるから、朝の内にこなしておいた方がいいだろう。
半モヒが粒々を取り除くために、闇耐性の元である魔力らしきものを全身に巡らせている様子を思い浮かべた。
うーん、なにか変なんだよな。
俺と半モヒで、作用の仕方が違うっつーか。
この世界では魔法を使うにも練習が必要らしいとはいえ、まだ慣れてないせいだけじゃないような、働き方に違いがあるように思う。
俺と違って体に謎器官こと、魔法生成臓器? そんなのを持つ半モヒだ。
俺は初めから体外に出てるもんを利用してるから、違ってくるのは当たり前なんだろうけど。
そういえば、半モヒが巡らせていたのは闇属性だが、謎器官は魔法全てを扱っている。
「あ、闇だけじゃないやん……」
闇耐性の高さに気を取られていたが、そういえば俺は他の二属性も高めだった。
光属性と露属性。
どちらも闇ほどには実感湧くようなことは、何も起こってないんだよなぁ。
ただ、もしかすると、普段から謎力を発揮するのは他の属性のお陰もあるとも考えられね?
そうだな。
魔法具便器でたとえるなら、効果を重ね掛けされてるような感じ?
くそっ……なんで初めに見た高度な魔法具が便器なんだよ!
「なぁ、半モヒ。ぶわぶわしてる時って、闇属性だけ意識してんの?」
「え!」
半モヒは愕然としている。
そんなにおかしい指摘だったのか?
「いや、その、そう! 人によって感覚が違うんじゃないかと思ってな……」
「くっ……アニキにゃこの負担など感じられ無いも同然だというのか! だというのにオレが扱いあぐねている原因を探ろうとまで……!」
なるほど。体に負荷がかかるのが普通っぽいな。
「いや、一つより三属性を意識した方が、力出そうじゃねって」
「アニキの要求高すぎぃ……!? 光と露属性も高めろと! ちくしょゃー! オレぁやりやスぜ! 闇属性一位の冒険者ってだけで、いい気になってた闇の歴史を葬り去るッ!!」
えーっと、そんな要求を突き付けたと思われるようなことを俺は言ったと。
「まずは教えろって。ならお前は闇属性しか動かしてないんだな?」
「いやぁ、そこまで考えてなかったっス……。適性の高い属性が自然と扱いやすくなるんで。魔力を動かそうと思えば、オレの場合は自然と闇が上がってくるっつぅか」
得意なもんの扱いがスムーズになる。体も自然と、それを選んじゃうと。
「それで闇属性を選んで動かしてる?」
「選んでというか、闇属性ばかり目について、他が見辛くなるって感じっスかね」
主張されまくりで他の存在感が薄くなるのも、属性の得手不得手が出やすい要因かもな。
「難しいのは分かったけど、あえて言う。なるべく全属性を動かすのを意識してみてくれ。多分、粒々の魔法を相殺するくらいの力は出ると思うから」
「やりやス……やってやりやスぜ!! とうとう、アニキが技を伝授してくれる気になった、その期待にぃ応えてぇ見せやすぜえぇぇ!!!」
感動に顔を輝かせ変な気合い入れて雄叫びを上げつつ、木々の狭間をぎゅんぎゅん飛び跳ねながら次々とクワガタリスを打ち落としていく半モヒを、うぜぇと思いつつ心の中で応援する俺だった。




