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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第72話 三級品アップへの条件

 黒森をよろよろと移動しつつも、反射的にクワガタリスだけは殴り倒していく。

 頭の中は今後のことで一杯だった。


 四級品冒険者が駆け出しでしかないという事実の意味が、改めて俺の頭に重くのしかかる。

 宿代と飯代を稼いだら、ほぼ余らない、らしい話だったよな。

 え、でも、他の出費だってあるだろ? そんなんで、どうやって生活すんの?


「この街って狭いから宿もそんなにないって言ってたよな。借家もあんまなさそうだけど、他の冒険者ってどうしてんの?」


 無意識に訊ねていた。


「そっスねぇ、パーティやらで部屋借りてるのも多いっスかね」


 シェアハウスか。不思議そうなカビモヒからの返事にひとまずは納得。


「それなら宿より安そうだな」

「どうスかねぇ。まあ、宿で一室を一人で利用し続けるくらいなら、安いかもしれやせんが。月毎にまとめて払う必要があるんで、三級品でもある程度は稼げるようになってねぇと厳しっスよ」

「あ、そうなんだ……」


 もう少し突っ込んで聞いてみれば、敷金礼金みたいなものはないだけマシくらいのもんだった。


「はっ! アニキ、まさか、我が家を去ろうとッ!」

「いやちょっと別のことに関係あって聞いただけだから。胞子取る作業を頑張ってて?」

「うっス!」


 ようするに、三級品も慣れて来た頃に、ようやっと人並みの生活ができるようになるということだ!


 これまでに聞いたことや体験したことが高速で駆け巡る。

 毒きのこを倒そうが倒すまいが、地味ーにリスもどきを倒し木の実を運び続けるしかないってこと?

 星屑浚いは含めない。


 無理無理無理!

 たとえ、それで三級品に上がれたとして、装備代とかまで稼ぐのにどれだけかかるんだ!?

 未だ他の奴らが着てるような革ジャケットさえ手に入れてない、ボロシャツと布のズボンだけだってのに。

 さすがに、今のラフな格好で挑みたくねぇぞ。


 五級品と四級品のランク差だってかなりあったよな。

 三級品との差なんて、どれだけあんだよ!

 幾ら俺が暢気でも、のんびりしすぎるのは問題だ。


 一応はまだ、家に戻るのを諦めたわけではない。


 ただ、動くのに金が要るから仕事優先してるだけで。

 俺の場合はズルしてというか、モヒ家に寄生してる分、もうちょいで少しは活動できるだけの資金が手に入るかなーとか考えてた。


 やっぱ帰る手段は見つからなかったなと、この世界に腰を落ち着けるにしろ、少しくらいは手がかりを探るのに動いてからでないと恰好が付かないからな。

 ようやく懐に余裕が出てきたけれど、あれから早十年経ちました、では困るんだよ!


 お、おちついて考えるのぜ……実質、街一番の強者ではないかと思われる毒姉にも、もちっと上を目指せやって言われるくらいには俺の謎力は強力なんだ。

 さっさと実績上げりゃいいんだよな?

 実績ってなんだ? 試験なんかなかったし四級品依頼を制覇すりゃいいのか?


 あと級上がりには依頼達成度による信頼度も含まれていたっけ。

 もちろん五級品から上げられた時より件数は必要だろう。

 普通に考えれば他の条件も増えてそうだが、聞いたところで教えてくれるか?

 毒姉の胸先三寸という気もする。


「なぁ、三級品に上がる条件はなんだ……?」

「ははは! この調子ならすぐっスぜ!」

「具体的に頼む」

「えー基本は依頼達成件数っス。一定の期間内に達成しなきゃならないんスが、アニキは毎日達成してやスから。それと、はっきりは言われやせんが、達成の仕方っスかね」

「そうなるよな。その、言われないことってのは、毒姉の判断任せ?」

「もちろん組合で決められた基準がありやスぜ。依頼人がいりゃ、その評判とかで、討伐なら数や種類っスかね。結果を総合的に見て判断するのは、まあ、コドックさんに祈るしかないっスね……」

「やっぱり……」

「そうか、アニキは、先を見据えて計画を練ってたというのか!」


 半モヒのぶわぶわな動きが活発になるのを横目に、明確になった条件について吟味する。

 毒姉のことだから、件数だけこなせばいいということはないだろう。


 たとえば木の実採りだけで達成ラインを越えたとして、認めてくれねぇよな。

 冒険者に対する信頼度という点で期待されるのが、門番のタツィオさんの態度も考えれば、魔物討伐に積極かどうかって気がする……。


 しかし当事者である冒険者にとっては、生活するのに採取依頼なんかも外せないし……なんか世知辛いんだけど。

 しゃーねぇ……。

 面倒だけど、もっと行動範囲を広げるしかないか?

 そうすりゃクワガタリスとの遭遇率もあがるだろうし……。


 そこで、何かが引っかかった。


「ん? 欠片の大きさは魔物の種類に関わらず等級ごとに同じ、なんだよな?」

「そっスね?」


 半モヒは粒々を、トサカからお手玉するように回転させながら、ふわふわと浮かせつつ答える。

 変な進化を遂げるな。疲れねえの?


「魔物ごとの討伐依頼書、貼ってあるよな? どうやって判別してるんだ」

「そりゃ欠片にも魔物毎に多少の差はありやすから」


 言いながらも道具袋から欠片を二つ取り出した半モヒは、それを手に並べて見せてくれる。


「こっちがクワガタリス、こっちが発泡茸っス」

「……お、ほんとだ」


 毒きのこの方が、わずかに大きい。

 言われてみれば、同じリスもどきの欠片でも、同じ形をしているわけではないから、もとより完全に同サイズではないんだ。


「近い感じのを等級毎に振り分けてたのか」

「それに帯びた魔法も違いやスから、魔法使いにゃ読めるんスよ」

「そういうのもあったのか」


 毒魔法特化とはいえ一級品魔法使いの毒姉なら見間違いようもないと。

 どのみちクワガタリスだけで頑張ることはできないと判明して俺絶望。

 明日から毒きのこ狩りを増やすしかねえな。


 まー、じゃあ、ひとまず四級品依頼の制覇を目指すしかない。

 やってる内にそこそこ稼げるだろ。もうそれでいいや。

 って、それもなにか見落としがあるような。


 稼げる? 四級品依頼で一番稼げる……あ!!!


 初めに半モヒから聞かされたろ。夢見がちなアイテムばっかって、ええと。

 そうそう、天蓋の流れ星とかだっけ?

 さっそく半モヒに聞いてみようと口を開けかけて……やめた。

 今、聞いたら、明日にでも連れて行かれそう。間違いない。


 確か、三級品の実力が必要なパーティ推奨の依頼だ。

 相当な戦闘力が必要なだけじゃなくて、環境もやばそうじゃね?

 四級品冒険者が気まぐれに行っていい場所とは思えない。


 幾ら二級品の半モヒだろうと、一人じゃ厳しいだろう。

 俺は超部分的な必殺技があるだけで、戦闘員とは数えられないからな。

 さすがに、もうちょっとだけ心の準備期間が欲しい。


 はぁ……結局は毒きのこしかねーのかよ。


 渋々ながら結論を出すと、後はクワガタリスを散々毟り、最後に木の実を抱えてお開きとなった。


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