第71話 今後の見通し
半モヒを覆っていた胞子は、現在まだらになっている。
俺のように一気に取れることはなかったが、魔法の元を全身にぶわぶわと巡らせる内に、少しずつ剥がれてきたようだ。
これも魔法耐性の備わり具合によるのだろう。
これまでに魔法耐性について知ったことによれば、イメージ通りというか、魔法攻撃やその影響をレジストするためのものと捉えられているようだった。
パッシブスキルだから意識してあれこれすることを考えない感じ。
でも、ここの人間の魔法の元は、はっきりと心臓にくっついた謎器官から生成されている。
少なくとも俺には、そうでもないと納得が難しいもんだった。今のところはな。
とにかく、そこから生み出す魔力量? 耐性の高さだけど、まあ仮に魔力量として、それが多ければ強そうなんだよな。
ここで大事な点は、その魔力が耐性の強さにも魔法の強さにも直結するらしいことなんだけど。
俺がふと気づいたようなことを、こっちの人たちがやってないなら、できないか、やらない理由があるんじゃないかと思った。
それで遠回しながら、半モヒにも似たことをやってみてくれと言ってみた結果、危険だからと慌てる様子はなかった。
半モヒも冒険者の中では闇耐性では一番の高さがあったらしいから、俺のやってることもできるんじゃねぇかと思ったんだが。
効果の出具合を見ても、単純に魔力量の足りなさで普及してないってことで間違いなさそうだな。
一応、冒険者の中ではって但し書き付きで結論付けておこう。
魔法団もあるしな。
けど、その半モヒがこの調子なら、結構高度な技なのかも。
いやどうかなー。
肉体まほう(笑)は天才っぽい雰囲気あるのに、魔法は全然ダメってところが気になる。
そこは別のセンスが必要なのかもしれんが、体から魔力の出る穴だかなんだかを作れるかどうかだけなんだろ? センス必要か?
魔法使いとしてもすごくなれそうなのに、もったいねえな。
魔法戦士とか中二心くすぐりまくり!
気合い入れて唸りながら、粒々をふわふわしてるモヒカンが視界に入る。
魔法戦士つーか……魔法蛮族?
耐性の働きだとかそこら辺は、また機会があれば魔法おやじに聞いてみるか。
「アニキ~、そろそろ次の潜伏地でスぜ」
「なんの気配もないな」
川を後にして木々の狭間に戻ると、俺はカビモヒに、もさ毛草の在り処を案内してもらっていた。
生えてる場所は点在してると聞いていたし、さらに奥地側に来てみたんだ。
クワガタリスは同じ場所で生まれるわけではないようだが、木の実採りに出かけると必ず会うほどには湧いている。
なら、もさ毛草各所を巡れば会いやすいかなぁと思ったんだけど、そう上手くはいかないか。
結構、森の中でも襲われてたけど、思えば木の実ルートだったかも。
とはいえ無駄足にはならなかったようだ。
闇の靄の一点が凝縮し始める。
「あっちで生まれるぞ」
「お? おおお! オレにも分かる、分かりやスぜ!」
コツを掴んだらしい。
その調子で育ってくれ。早く師匠役から解放されたい。
闇の雫が今にも、もさ毛へ落ちようとする。
うずうず。
「ていっ」
――クャッキィ!
どうなるかなーと軽い気持ちでツッコミ入れたら、水滴に苦悶のリスが浮かんだような気がして弾けて消えた。
「その状態でも鳴くのかよ……えーと、死んだ?」
「っすがアニキの狂戦士っぷり! わざわざ待ち構えていたオレがバカみたいでスぜ!」
ぽすっと、黒い塊がもさ毛に乗っかる。それを拾った。
「すでに欠片を持ってんのかよ」
「ほー、それを核にして生まれるんスかねぇ」
人間も魂の欠片を持ってんだろ? 赤子から育つってんなら、魂の欠片を核に生じる存在ではない、はずだよな……?
魔物は逆に、こいつが先にありきだとすれば、種族違いなんてもんじゃねえ。
完全に別もんじゃねえか。
共通点といや、魔法的な……あー、それか。
魔法的な働きを持つ重要器官だから、同じ名前を割り当ててんのかよ。
これを核として生まれる魔物族、か。
さっきの水滴の状態は、幽羅と似ていた。
大元は、こんな感じで同じで、場所によって姿を変えてるだけなのかね。
「じゃ次行くか」
「こっちっスー」
謎欠片の感触を手のひらで確かめつつ、ベルトに通したポーチにしまう。
サイズはクワガタリス完成版と変わりない。ゴブよりも一回り大きな四等級サイズだ。
毒きのことも同じで……なんなく倒せるのは分かったけど、面倒なあいつも結局のところ四等級なんだよな。
報酬がクワガタリスと同じって、割りに合わなくね?
偽毛が手に入る分、クワガタリスを倒した方が稼ぎはマシじゃん。
そりゃ早く先に進みたいよ?
ゲームみたいに強い敵の方が経験値が多いとかだったら、きのこ狩りだって頑張ろうって気にもなるけどぉ。
リアルな経験値は積める、かもしれないって程度だもんな。現実はクソゲ。
魔物は積極的に倒せとも言われたからには、ぼちぼちやっけど。
あんまり避けてると毒舌攻撃を受けてしまうからな。
しかし俺は、もう少しだけ蓄えを増やしたいんじゃい!
だからといって賭けみたいな真似を毎回やる気はないからな。
日々暮らせる分は確実に手にした上で、少しだけ冒険するってのが確実だと思うんですよ。
その暮らせる分を確実に、って部分を増やしていかないと貯蓄なんかいつ回せんだよって話でもあるが……。
魔物の強さはどうあれ換金できる欠片が同じなんじゃ、上に上がるしかねぇじゃん……。
え?
あの毒きのこが四等級最強?
黒森の中でも街からそう離れていない。
そういえば、ギルドの依頼掲示板も五級品依頼と一緒に貼られてるくらいで数がなかったよな……。
まさか、これ以上に稼ぐ手段が……ない?
ちょっと先の未来が明るくならないことに気付き、俺の目の前は黒森の中にいてさえ暗くなるようだった。




