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第7話 俺のヒロインはお前なのかよ

 陽射しを背に入り口に立つ影は、鼻息を漏らした。


「フッ、間に合ったようだな」


 なにものだよ。

 聞き覚えのある声だが知りたくない。


 今後を予想して身震いする俺とは反対に、姉ちゃんはあからさまに厭らしい笑みを浮かべた。

 獲物は決まりだな。


 嫌々ながら振り返れば、やはり見覚えのあるチョビ禿モヒカンのシルエット。

 それが左右に揺れていた。


 うお、マジで半モヒやん。

 え、あんな攻撃喰らってなんともないの?

 復活早ぇな!


 その半モヒは威勢よく片手を上に伸ばすと、一瞬でカウンターに跳び付いた。


 ひっ! すげえ身体能力じゃねこいつ!?

 やっぱ俺、こいつに騙された?

 いや、でも確かに瓦割もどきもできたよな……。


「はいはーいッ! オレ予定空いてるっスーッ! 投げ飛ばされた打撲を治療してる間は、メンにゃ別の依頼受けてもらうことになったんで! バッチっスよッ!」


 ドン引きだ。

 なにこれすげえ食いつき。


 え、こいつとお出かけせにゃならんの?

 幾らゴツイやつしか居なかろうと、せめてさっき巻き込まれてない人で、できればお姉さんの方がいい。繰り返すがお姉さんがいい。毒属性は除く。


「この二級品冒険者であるオレほど相応しい道先案内人はいねぇ!」


 その道は黄泉に続いてないだろうな。

 こんな奴に付きまとわれるのは嫌なんだが……。

 いつどんな場所で逆襲を受けるか分かったもんじゃないじゃん。断固阻止!


「な、なんで治療中の奴がここにいんだよぅ」


 ぷるぷると蚊の鳴くような声が出てしまった。

 だが届いたらしく思いっきり振り返られた。バッサとトサカが跳ねる。


「うおっ、さーせん! まずはアニキに説明っスよね!」

「は、はぁ? アニキだぁ?」


 怖い。怖ぇよ。

 なんなんだいったい。


「っつれーしやしたあぁッ! アニキの断りもなく勝手に兄弟分のつもりでいやしたあああぁ!」

「きょ、兄弟分……」


 何度目か分からないが思う。やっぱここは、いたって普通の男子高校生には縁のない、まずい事務所なのではなかろうか。


「っで、治療なんすけど。いやぁ運よく治療長が戻って来て、一発ボン! とぶち込んでスカーッ! スわッ!」

「ごめん何言ってるかよくわかんないし危ないことに手は染めたくないから離れてくれる?」


 つうか上から頭を下げてくんな近い怖い離れろ!

 俺が丁重にお断りしてるというのに、姉ちゃんが横から乗り出した。


「あぁん良かったぁ、ちょうど小僧の相手も飽き飽きしていたところなの! このヤロゥもたまには役に立つわね! じゃ依頼探してきなさい。不人気な残りカスだと助かるわ」

「俺は承認した覚えはないんですけど?」

「なんでも体で覚えた方が早いでしょ。現場にぶち込むに限るわ」


 なんてやつだよ!


「露払いはお任せっス。さ、アニキ、こっちっス」


 俺よりでかいモヒカンがぺこぺこと頭を振りながら片手で部屋の奥を示す。

 ヘッドバンギングかましてるようにしか見えねぇ。

 こんな舎弟嫌だ。

 しかし目の前でバサバサと振られるトサカ頭に当たるまいと、避けながら必死に動いていたら知らず移動させられていた。


 ……まあ、ね。贅沢言えないよね。

 何が何だか分からないから、早く状況を見極めるべきなんだろう。

 そのためなら選り好みせず誰からでも情報を得た方がいい。

 下手すれば情報料を取られる可能性だってあったんだから妥協しないと。

 でもな、これだけは言わせろ。


「ぐすん……おれの出会いイベントフラグが……穢されちゃった……」

「アニキだいじょぶっスか! 腹でも下したっスか!?」


 デリカシーのないやつだ。

 騒ぐ半モヒを無視して項垂れたまま渋々と、掲示板らしき壁に打ち付けただけの板切れに体を向けた。


「ピュー、やっぱ男は寡黙っスね。口が多いオレにゃ真似できねぇ」


 無視されたのに気を落とすどころか、謎の感心を見せる半モヒ。

 俺も拗ねてる場合じゃないな。ちゃんと質問して決めないと。


 板切れに五寸釘サイズの木の杭で留められた紙切れは山とある。

 が、板自体が幾つかあって横に並んでいた。

 よく見れば種別で分かれているようだ。


 内容は、街なかの便利屋仕事程度から、街周辺の討伐と幅広い。

 で、姉ちゃんが言うには、冒険者ってのは人跡未踏の地を渡る者だったよな。

 それに関する情報はないかと見ていくと、一番奥の見えづらい板が気になり近付く。ここの紙切れは、ぽつぽつとあるだけだ。


「アニキ、そっちはまだ早いっス。挑戦するなら二級品以上必要っスよ」

「やっぱりか」


 黄ばんで風化しかけているということは、長いこと達成されてないってことだろう。

 それも年単位で。

 書かれてあるのも他と違ったんだ。

 何を探してるのかは曖昧でよく分からんが。


『新天地発見者には、王国より報奨金が支払われる――』


 といったもので、この支払人部分は何々領主だとかばかりだった。

 あきらかに権力枠。

 桁違いの金が入るんだろう。見つかるんなら。


 依頼というより、なんというか、ウエスタン映画で見た賞金首の張り紙みたいだな。

 探すのは場所なのに指名手配犯探しみたいなのが不思議。

 ……それだけ危険区域がものすんごい危険なのかなぁ。


「あっオレは、いつもこの辺っスね」


 別に半モヒの行動には欠片も興味はないが、示された真ん中ら辺の板の前に戻って確かめると、討伐依頼の数がすごい。板の外の壁にまで紙切れがはみ出ている。


 やだ危険な世の中なんですね。

 嫌だわー、平和な世界の住人な俺には無理だわー。


「手ごろに稼げるのは、この辺っス。手っ取り早く稼ぐには、ちっと遠出する必要がありやすが」


 この辺と言われても行く気はないというかランク的に行けないので、ふむふむと頷いておく。

 半モヒの反応的には、大した相手でもないのか?


 いやでも、あの毒姉さえ二級品はそこそこすごそうな物言いじゃなかったか……それがどれだけの実力があるのか分からないから、鵜呑みにはできないよなー。

 俺が五級品スタートということは、数字が小さいほど能力が高いということだろうし。


 というわけで、大人しく初めの板へと戻る。

 分量が少ないからか五級品と四級品の依頼が一緒くたに貼られていた。

 しかし五級品の依頼は四分の一くらいと少ない上に、俺が受けられる依頼は多くない。


 どぶさらい、ゴミ廃棄、浄化槽清掃……おい。

 もう少し難易度低い依頼はないのか。精神的な意味で。


「……街の五級品の依頼って、これだけなのか?」

「アニキぃ、そんな街の皆に喜ばれる爽やか依頼なんぞやめて、討伐依頼受けやしょうよ。そんだけの力でもって、たかがゴブ退治、クールっス」

「おっ、五級品にも討伐依頼あんの?」


 しかもゴブ!

 危険なことは嫌だが、ゴブリンとかいんなら、すっげ気になるじゃん。

 ますますファンタジーゲームな世界みたいじゃないか!


※半モヒはヒロインではありません。

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