第69話 毒きのこ死す!
見た目は、いかにもな毒きのこモンスターが、毒を持ってないって言われたところで裏があると疑問に思うべきでしたね。
「また跳ねたぁ!」
「アニキ! 傘の端で動きが読めやっス!」
咄嗟に大股で後ろに下がろうとしてよろける。
足元は湿った石ころの川原だった!
さっき立っていた場所に発泡茸が着地。
どうにか踏ん張って二歩、三歩と下がりつつも、傘の縁に注意を向ける。
チラッとスカートの裾をめくるように反ったのが分かった。
その下から折り重なるような黒いレースが覗き、煙を吐き出す。
毒きのこのチラ見せなんぞに萌えるかよ!!!
「当たるかぁ! うぐょおおお!!」
無理に体を捻って木陰に飛び込んだが、あんまり意味はなかった。
直撃しないというだけで、粒々は煙って辺りに漂ってきやがる。
幸いなのは飛距離が大してないことくらい。
ブホァと発泡茸の周囲に舞い上がり、そのまま自然と落ちたら、少し足元に漂って地面の土と変わらなくなる。どういう原理だ。
まあ俺の事ですからね。
避けてもそう距離を取れず、はみ出ていた足にまとわりついて気持ちの悪い斑点を作ってしまった。
ダメもとで足を振ったり手で払ったり、木の幹に擦りつけてみたが取れるのは少し。やっぱり、ほとんどは服の表面を転がるだけ。
下手に触ると腕にも付着するから、迂闊なことできねぇ。
もうこれ毒と変わらねえだろ!
悔しさと恨みを込めて発泡茸を睨む。
できるだけ粉を舞い上げようと、全身を揺すっている姿が忌々しい。
視界の端に木陰から水玉モヒカンが飛び出た。
俺と同じく身を隠して様子を窺っている様子。
「半モヒ! これっぜってー体が麻痺するとか何かあるだろ!」
「ねっスよ? まあ言われてみりゃ……全身にまとわりついてイライラが止まらない精神汚染に特化した能力っスかね?」
「本当にそれだけか?」
「えぇ!? それだけって……すげー気になって集中が乱されるんっスよ?」
「そりゃ確かに、なんかムズムズして注意散漫になる感じあっけど……」
あ、まじだ。
一度認識したら、本当に全身がザリザリチクチクしてきた気がする……。
地味にうぜぇ!
「あ、初めに完敗したとか言ってたけど生きてるやん。そん時はどうしたんだ?」
「ゲヘッ、恥ずかしながら泣いて逃げ帰り不貞寝したら、翌朝には辺りに散らばってやした!」
「最後までめんどくせぇ!」
「ほんと掃除が大変でしたぜ」
埒が明かん。
木の幹を掴んでいた右手を一目見ると、感触を確かめる。
川原に飛び出して、発泡茸と対峙した。
「もう一度だ」
「アニキ!? そいつの胞子は数回吐き出したくらいじゃ止まりやせんぜ!」
「策がある」
「おお!」
なんて大げさなもんじゃないけどな。
右手を見て、いつものように敵を排除すべく力を込めれば、ブンッとぶれて粒々が落ちたのだ。
この微妙な感じの便利さなのはどうにかならんのか。
とにかく。
真正面に発泡茸を見据え、片足を前に腰を落として前傾姿勢。
引いていた右手に全ての力を乗せる勢いで踏み出し、思い切り突き出した。
何の捻りもなく再び傘への攻撃!
「だが今度は通す――失せろ!!!」
さっきはチョップを上から叩き込むようになっちまったんだ。
今度は確実に真っ直ぐ目標を突き――右手は茸に沈む。
かすかな抵抗感の後、発泡茸は大きく縦に裂けていた。
やっぱり、闇玉の太縄を弾き飛ばしたときと感覚が似ている。
普通に力むだけでもゴブやらパンやらを潰せるというのも気になるが、それに加えて反応がでかくなる感じだ。
その作用部分に闇耐性が働いてるなら。
思った通り、こいつの黒い体が闇属性によるものだからだろうな。
発泡茸は傘を反らすように身じろぎしたが、断末魔の胞子を放つこと叶わず、バラバラに崩れ落ちて土に還っていった。どんな生態だ。
え、体が崩れるってどういうこった。
幽羅やクワガタリスと違って本物の……体?
「おおおおお! っすがアニキ! 完封だあああ!」
完封って……胞子喰らってんだろ。
「半モヒ、こいつ肉体あったよな?」
「ぁあ? はいありやスね?」
さも当然、それの何がおかしいの? そんないつもの不思議そうな顔を見れば、これが当たり前のことだと理解。
そういえば前に魔物族の生まれ方を聞いた時に……人間のような増え方はしないと聞いた。
そうそう、必ずしも肉体を伴うわけではないと。
これまでの敵は幽霊みたいなもんだった。
本当に怨霊らしいのは最弱のゴブだけだが、幽羅は魔力の残照らしいもんで、クワガタリスは闇の煙の塊と、肉体といったものではない。
「こいつは本物のきのこが変身したとか、そういうやつ?」
「ええまあそんな感じっスかねぇ。おお、些細な情報から結果を予測したってぇのか!? 知恵袋としてのオレの存在価値が危ぶまれるぅ!」
「幾らでも聞くことはあっから」
「まだまだ重用いただけると!」
やったーと拳とトサカを振り上げつつ喜ぶ謎モヒをよそに、俺は塵となった毒きのこ跡を見て一息ついた。
半モヒのこの様子だと周囲に他の魔物はいないようだし、俺も何も感じない。
発泡茸は体も大きめだし、縄張りが広いとかあったりして。
なにはともあれ恐ろしい敵を、相変わらず立ち回りには苦労しつつも、あっさりと破った俺だった。
謎ツッコミパワー様々だな!




