第65話 かたい、やすい、つよいモヒ家
一抱えもある束の板を担いで帰った半モヒだが、当然の如くなんの疲れも見せていない。
さらには片手で鍵板を取り出して扉に当てる。
「オレゃこいつを裏に置いてきやす」
鍵を開けると半モヒはさっと移動していく。
ちょっとばかり毒姉にも認められた気がしないでもないくらいで喜んでたけど、俺も少しは荷物を持ち帰れないと、今後の討伐予定にも差し障るよな。
それに……荷物を持っての移動といえば、ぼんやりとだがやりたいことに関わっていて、半モヒと組んでる間は考えなくていいということでもないというか……。
まあ、今考えてもしょうがないことは後だ後!
部屋の灯りでも点けておこうと扉に手をかけて、ふと家に改造されたらしい太い幹を見上げた。
木材といえば怪奇棚退治のときに、見た目通りの木じゃなさそうと感じたことがある。
それと、この家。
やたらと幅だけあって高さはない変な木。
普通は、これだけ幹が育ったなら高さだってすごいことになりそうなもんだ。
……いや植物の種類なんて詳しくないから地球でそんな木がなかったのかは知らんけど。
この世界でいえば、俺は一つ知っている。
市街地中心部にある物見用らしい丘のやつ。
てっぺんに一本だけ生えた妖精さんの棲み処だ。
「ありゃアニキどうしたんスか?」
「この木、丘のやつに似てるなと思って」
「そっスね。同じ由来っスよ」
何気なく言われたよ。
「妖精さんが住んでる?」
「もちろんいやせん」
「まさか無理に追い出したとか?」
「いやいや討伐するだなんて恐ろしいこた無理っス! ハッ! こんなことくれぇで尻込みしてちゃ追いつくどころじゃねぇなぁ! アニキの闘争心にゃ震わせられっぱなしっスぜぇ!」
「討伐まで言ってねーよ!」
俺がなんとなく思いつきを言うと、こちらでは大変物騒な意味になることが多いようだ。
やたら半モヒのやる気を煽ってしまいうるさいが、ご近所さんが居なくて本当に良かった。
ひと呼吸置いてから聞き方を変える。
「理由は分からんが妖精さんの出ていった跡地ってこと? 逆に、この木の種類を見れば何かが住んでると思えばいいの?」
「えっ、この木は周囲と同じっスよ」
「でかさから何から違うやん」
「妖精が住むとこうなるんス」
段々、半モヒも俺の非常識に一瞬驚いては引っ込めて説明をし、俺は俺で一々驚きに叫ぶこともなくなってきた。嫌な慣れだ。
で、この木について簡単に説明すると。
「モヒ家は妖木と」
「えぇーモヒ家っスかぁ? もっといい称号にしてもらえるよう励まねばッ!」
「うっかり言っただから付けねーから」
「そんな! どかんと派手なヤツ頼みやスッ!」
空の大妖精とは違い、普通の小さな妖精さんはグループで巣を構えるらしい。
それで拡張工事を施すらしいのだが、妖精さんは手足や魔法などの代わりに妖気を使う。
根本は魔法と同じようなものらしいが、とにかくその妖気で木がこのような特徴を持つことになるようだ。
しかも思った通り頑丈になり、妖精が出て行った後は妖気は消えるが丈夫さだけは残る。
だから普通は良質の木材として利用されるのだとか。
「だから自然の泥棒避けになってるんスよ。並の強さじゃ壊そうたって壊れねえ。一級品の奴らが本気出しゃ分かりやせんが、あいつらがそんなしけた稼ぎやる意味はありやせん」
「想像以上に頑丈だった!」
触ってみてもピンとこない。
樹皮自体が硬い感じがないからか?
「ああ!? アニキ! 気になるからって試さないでくだせぇ!」
「試さねぇよ。ちょっと撫でてみただけだって、だから座り込もうとするな!」
勝手に思い込んで土下座しようとするな。俺をどんな破壊魔だと思ってやがる。
土下座は異世界でも有効かよ。
……もしかして全宇宙最強技じゃない?
「俺も住んでるだろ!」
「それもそっスね!」
納得したのかホッとすると半モヒは跳ねて立ち上がる。
手触りは普通の木に思えるのに、これが一級品冒険者並の力がないと壊せないというのもすげえな。
でも、普通の木は普通なんだよな?
そこも人間と共通するとするところじゃね?
大自然の魔法的な何かが顕著に作用するなら……。
この世界の物質には、基本的に魔法受容体のようなものが備わってる?
はぁ……俺には成長の見込みがないという悲しい事実の裏付けだったな。
「で、家の何かが気になりやすか?」
「その、なんでこんな森の中にぽつんと一軒だけあんのかなぁ、とか?」
「あーそこ気になるっスよね。どうも初めは森林管理用に残したらしんス。巡回用の拠点とかで」
確かに兵の巡回だとかありそうなもんだよな。
言われてみれば、ここはゴブ森の半ば?
こっから外壁までどの程度の距離があるかは分からんが囲いの中だし、外から見た感じでも、そう広くはないはずだ。
それでも休憩用の小屋くらいはあれば便利だろう。
「でもまあ外壁の魔法具による補強も完成しやしたし、こっち裏門側は特に重要なもんはないっスからねぇ」
「じゃ、今は見回りはないのか」
「人も足りねぇし壁の外を回ってるんで。それで手入れも面倒だからって手放すことにしたんじゃないっスかね。オレが住む場所探してたら勧められたんス。運命としか思えねぇげへへ」
あ、人が足りないってので裏が見えたような……。
二級品冒険者が住んでくれるってんなら渡りに船だったんだろうなー。
「丘の上の木と似てるはずだな」
それが半モヒ仕様に改造されちまったわけだ。
また一つ、この世界の何かを知れたような満足感を得ることはできたな。
部屋に入って手荷物を置くと、半モヒは流しに俺は井戸へ行水にとそれぞれ動きだした。




