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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第64話 内実伴う

 特に何事もなく、ただ俺がひーひー木の実を運ぶだけの一日だった。

 まあ所詮は実質最低ランクに位置する四級品冒険者向けの場所だからね。仕方ないね。


 くくく、だがそれだけと思うなよ?

 なんと今までにないクワガタリスの討伐数を果たしたのだ。

 奥に行くほど増えるらしい。

 お陰で半モヒだけでなく俺も顔周りがもこもこしている。

 腰は辛いが顔はにこにこ顔になるってもんだ。


 植物の偽毛皮なんぞ買い取り額は大したことないが、魂の欠片と合わせれば木の実採集依頼より実入りがいい。

 だからといって木の実採りをやめたりはしないけどな。

 絶対に毒姉が何か言ってくるから……。


 とにかく俺も討伐数を稼げたのは、リスの気配を読むのに足音だけじゃなくて闇耐性を活用できたからだ。

 闇の靄に動きがあるような気がしたんだよな。

 実際に、暖簾を掻き分けるような気配の方を見ればクワガタリスは跳んできた。

 そこで右手を構えておけば勝手に瞬コロよ。


 地味な働きだろうと宝の持ち腐れで終わらずに済んで、実のところほっとした。

 もし、「ぶっちぎりに高い数値を叩きだしておいて、そのへっぽこぷりかよ」だとか嘲られたらって、想像するだけで居たたまれないからな。

 こうして耐性を活用して戦えてるのは嘘じゃねーからと言いはれるだけ、気分的にマシだ。


 今回は街まで距離があるため、無理せず木の実は二個を背負うに留める。

 何往復かしないとならないからな。

 これも少し慣れてきて移動速度は上がっている。

 歩きながらの雑談も軽いもんだぜ。


「木の実は分かるけど、この毛皮はなんに使うんだ?」

「これってのはあったかなぁ。掃除道具とかっスかね」


 タワシかよ。

 というか、それ以外の用途が想像できんな。

 あ、ミニ箒とか、刷毛代わりにもできそうじゃね?


「すぐにボロボロになっちまうんで、数はあっても困らないらしっス」

「ふーん」


 そんなもんか。

 安いから大した使い道はないだろうと思ったけどさ。


 それにしても、初めは討伐だとか怖い仕事なんぞどうなることかと思ったが、ここまで軽くこなせるようになるとはなぁ。

 俺にも順応性が備わってたようだ。

 これなら四級品依頼制覇も近いな! ガハハ!




 そんな俺の笑顔につられてか、珍しく毒姉も笑顔になった。

 貼り付けたような笑顔なのが怖いのは気のせいだ。


「あんたら毎日々よく飽きないわね」


 気のせいじゃなかった。

 やっぱり素直に喜んでるわけではないよな。分かってた。


「慎重に進めてんだって言ったろ」

「私だってバカやれってんじゃないけど、せっかく最低限とはいえ力量を認められたってのに、いつまで外壁に張り付いてんの。普通は級上がりした日にゃ浮かれて無理目を狙って泡食って逃げてくるもんなのよ?」


 それ、たんに俺が慌てて帰ってくるのを見たかっただけだよな!


「そこは、ほら、無謀と勇気があるのは違うってゆーかー?」

「冒険者だろうが。危険に挑め」

「そんなときだけ冒険者扱いかよ。半ば形骸化してるじゃん!」

「なにいってんの。仮にも組合なのよ? あんたらに代わって稼ぎが保証された依頼を掻き集めてきてるこっちの身にもなって欲しいもんだわ」


 ぶつぶつ言いつつも収穫物の処理はパパパと進めている。


 あれ? 

 これはちょっといつもと違うパターンじゃない?

 毒姉から出る黒い気配は、普段の単純なお小言って感じではない。

 興味ないときのつまんなさそうでも、俺の拙さを見かねての文句でもなく、ちょっと気合いが入っちまったっていうか。


「ほら報酬。数日かけてようやく四級品らしい額になったわね」

「毒姉さ、もしかして応援してくれてる?」

「怠けてる奴がいたら尻を叩くのも仕事なの」

「これでも四級品推奨の区域って辺りギリギリまで頑張ったんだぞ」


 性格通り捻じれまくった言い方ではあるが、檄を飛ばしてくれてる?

 毒姉の場合、ぶつくさ言ってるのは別として、ただ毒を一つ吐くのですら利益がなければやらない。

 怠けてるように見えるということは……!

 俺はカウンターに乗り出していた。


「もうちょい先行けそうってことだよな! ぐなっ!?」

「アニキぃ!?」


 素早く飛び出した毒手に、俺は顎を押し上げられていた。

 半モヒは叫ぶも怯えて見るだけだ。

 そういえば毒姉が相手のときは一ミリも助けようと動かねぇなお前。

 俺でもそうしますはい。


「いきなり興奮して近寄らないでくれる?」

「ぐがっ……首が曲がるかと思っただろ」

「首は曲がるもんでしょーが。それで? 何が言いたいの」

「もっと先に行けるだけの力があると分かるなら、なにか根拠があんのかなって。自分じゃ分からないこともあるし」


 毒姉は俺を押した手をひぶらぶらと振って言った。


「あんた受け身に関しちゃなかなかのもんなのよね。今も平均的な四級品なら倒れるくらいの力は込めたんだけど」

「そんなことで分かるんだ……腕、鈍ってんじゃねぇのかよ」

「誰が鈍るって?」

「まさか毒姉さ、密かに鍛えて維持してたりすんの? 偉い人に目を付けられるの嫌とかじゃなかったんだ」

「あ、いや、鈍ってる。鈍ってるわよ? な、なによその疑わしい目は」

「ごほごほん、四級品を越えると怒られるかなってのもあって地道にやってたんだけど……それなら、もう少し黒森の奥まで進んでみてもいいのか?」


 毒姉は呆れつつ、目だけはちょっとだけ真剣さを込めて俺を見た。


「あんたね、勧誘したときのこと忘れてんの? いい腕してるから入会させたんじゃないの。どこかチクハグだから様子見てたけど、その常識のなさっぷりが枷になってるんでしょうね。技量だけ無駄に高くて現実に即してない。それに気付いたから山を下りてきたんでしょ?」

「う、うん……そんな感じ?」


 俺はそっと視線を逸らした。


「ふおおぉ! あの激辛コドックさんでさえ認めるアニキゃ本物だああ!」

「ヤロゥ、うるさい」

「っつれいしやしたぁ!」




 なんとなく肩が軽くなった気がしつつギルドを出た。


「とにかく、お財布が暖まって助かったな」

「買い物っスね!」


 俺たちは商店街の端に急ぐ。

 材木屋に着いたときには店を閉めようとしていたところだった。

 慌てておっちゃんを呼び止めたんだが、依頼を受けたことが良かったのかすっかり馴染み客相手のように笑顔で売ってくれた。

 大荷物は半モヒが難なく担ぎ帰路に就いた。

 なんとなく満足した一日として終わってくれた。


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