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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第62話 闇耐性の活用法

 いつも門の近くから黒森に入っていたが、今回は荒野側を回りこむようにして進むことになった。

 四級品指定範囲の限界辺りに着いたら森に入る。その辺にも入り口は設けてあるらしい。

 それは以前に、こっち側の街道は冒険者が依頼で使うくらいと聞いて、別の道があるんだろうと見当をつけていたから確認してみたら当たりだった。


 ま、森に入る前に、まずは幽羅を倒すんだけどな。

 それが今日の黒森行きに加えた予定だし。

 幽羅は透明だから辺りを慎重に見回すが、それらしいゆらゆらはない。


「いねっスねぇ」


 風が土埃を巻き上げることもあって、対象そのものだけでなく距離感も分かりづらいとはいえ、半モヒも見つけられないなら本当に近くには居ないんだろう。


「この前はなんで近くまで出てきたんだ? 何か原因を話してたよな。虹の雲だかなんだか」

「筋雲っスね。たまに浮島が雲帯を通り抜けたときに引き摺ってるんスよ。魔力が散り切らず濃くなったもんっス。さすがに街の守りも抜けて来るんスよねぇ。あ、壁を越えるこたありやせんぜ!」


 思わず空を見渡す。

 綿菓子のような積乱雲ベルトは変わらず地平線を覆い隠すようにぐるりと取り巻いている。

 形状に変化はあるようだが、消えてなくなることはないらしい。

 俺の知ってる雲と違う。


 虹の浮島は、あの分厚いもこもこ雲を突き抜けてんのか。

 あちこち気ままに流されてんなら、あの雲間を通るのも当たり前なんだろう。

 けど、こんな世界だ。見た目通り霞んでるんじゃなくて、山のように物体としてありそうに思えてたんだよな。


 いや本当にそうだったとしても突き抜けられるのかもしれんが。

 虹の浮島というのも大概に怪しい存在だし。


「あれ、街を越えない? でも虹の浮雲ってふらふら浮いてんだろ? 街の上を飛んでくるとかねぇの」

「そんな怖いことにゃなりやせんから!」

「え、上空を通り過ぎるだけじゃないのか」

「抜けられちゃ困りやすぜ!?」


 半モヒがここまで焦りを見せるのも珍しい……いやそうでもないか?


「でも、壁の守りがあんだろ」


 ぶんぶんとトサカを回転させる勢いで半モヒは頭を振って否定する。


「壁の守り程度じゃ無理無理っス。新天地っスぜ? この領域に差し掛かるなんてことがありゃ新天地の信頼は無に還りやスからぁ」

「城壁に施された魔法具の守りと、新天地という立地は別物……?」

「あぁいや別というか相乗効果っつーか……」


 その辺を改めて聞いてみた。

 外壁の魔法ってのがドーム状に覆ってるイメージしてたから、上を飛ばれても落ちてこない限りは問題ないと考えてたら、そういうことじゃなかったみたいだ。

 ああいった大地の現象の、いかなるものも干渉できないのが新天地帯ということらしい。


 人間の目には見えないし知覚の難しい不安定な空間になってるからこそ、ああいったものが存在できる。だから、あの浮島にしろ雲の帯にしろ街と重なると大問題ということだ。


 人間にとってのという前提で、新天地が正常な場で、他は歪められた異空間みたいなものとか?

 こまかいことは分からんが、街で見られる空の異常は時報妖精だけと覚えときゃいいんかな。


 そんな話をしながら、ぶらぶらと歩いていたら、不審な歪みが視界に入った気がした。

 なんでも気のせいで済ませないように決めたから、目をそちらへ向け直す。


 黒森外縁の木々。その下には、黒森の中の白い草とは違う、普通の雑草が少し伸びて密集している。

 多分、荒野側の植生だろう。吹きっさらしでなければ、あれくらいには育つんだろうな。

 そう考えると、完全な境界になってるわけでもないのか。


 とにかく、その下草と黒森から滲み出る黒い靄との狭間に、まだらに黒く染まりかけた縦に細長い空間がある。


「あの木陰にいんの、幽羅じゃね?」

「お? マジだああぁ! おぉアニキは魔物の気配を見るのが特技っスか! オレにゃ感覚でしか捉えられねぇ!」

「そっちのがすごいんじゃねーの。念のため、他にもないか探してくれ」

「うっス!」


 ぴょこぴょこ頭だけ動かしながら半モヒは辺りを睨む。

 周囲の警戒は半モヒに任せて、俺は右手を掲げて真っ直ぐにその幽羅に近付く。

 飛びかかれば届きそうな位置にきても、他にこんな幽羅は見当たらない。


 よしでは行くか。

 と動く前に、幽羅が倒れるように頭を地面につける。

 しゃくとり虫移動だ。

 三歩も歩けば届きそうな位置で幽羅が頭を上げる。もう一度頭を下げようとした瞬間。


「そこが隙だ!」


 俺は地面を蹴り幽羅の足元へとヘッドスライディング!


 フオォォォ――幽羅が頭上で空気の渦を巻きながら消えていく。


「ふおぉぉぉ……ぐばっ!」


 俺は俺で、変な呻きを上げながら藪に突っ込んでいた。

 俺の手にはなんの感覚もなく幽羅を断ち切って通り抜けたのだ。

 勢いを殺す抵抗すらないとは予想外だったぜ。


 暗い周囲だが、顔の下に白いマッシュルームもどきや苔もどきが見えた。

 こうして改めて見ると、ちょっと藪に入り込んだだけだというのに森の中と外で別世界の光景感ありすぎるのが不思議。

 それと森の中が暗いと分かるにも関わらず、光景が理解できるというのも変な感覚だと気付いた。

 ごくわずかに夜目が利くようになっただけと考えたのは、誤りだったのかもしれない。


 暗さが、理解できる。


 それ自体が、おかしなことだ。

 どうしてもこれまでの感覚で考えちまうが、闇耐性については、それを踏まえて行動すべきなのかもな。


 そんな光景がズルリと移動を始め、辺りが明るくなる。


「アニキぃダイジョブっスか~」

「あ、悪い」


 半モヒから足を持って引きずり出されたようだ。

 もうちょい助け方ってもんがあるだろ。


「なかなか出てこないから焦りやしたぜ」

「つい考え事をしてて」

「ふとした拍子に閃くたぁ……っすがアニキゃ大物だぁ!」


 ふっ、大物か……おバカには比較的よく使われる言い回しですよね。

 ほんとバカだ。こんなところで寝転がってる場合かよ。

 飛び起きて泥を叩き落す。


「なんか、感覚がつかめた」

「お、おお! 一体なにがどのような天啓を受けたというのか!」


 俺が幽羅に気付けたのは、目で見たのとはちょっと違うということだ。


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