第61話 門番対俺?
わくわく絡まれイベント発生!
なんて思ったが、どっちかというと絡んでるのは半モヒだな。
おい俺も関わってると思われっだろやめろ!
と言う前に半モヒは門番タツィオさんの前に、ずいと踏み出していた。
半モヒの背後から頭だけ横にずらしてハラハラしながら見守る。
さすが兵隊さんと言うべきか、タツィオさんは特に怯む様子はない。
先ほどと体勢を変えることもなく先制口撃!
「俺には、お前が二級品にふさわしい獲物を相手してるようにゃ見えなかったんだがな?」
怠そうな姿勢は変えずとも、顔付きと声音だけは少し険しさを増している。
半モヒとの関係は良くも悪くもなさそうだったし、そうでなくとも冒険者との付き合いは嫌でも長いだろう。
たんに慣れているのか……それとも、ああ見えて実力で劣らない故の余裕か。
本気でちょっとワクワクしてきたな。
タツィオさんの言葉に鼻を鳴らした半モヒは、呆れたように首を振りながら文句を返す。
「それが欠伸野郎だってんだ。うすらぼやけた視界で、てめぇが見てるもんさえ正しく理解できねんだろうが」
欠伸野郎って、そういう意味かい。
いや、はっきり見えていたところで、木の実の大荷物を抱えていたことは間違いないだろ。
事実、この一週間というもの最低ランク依頼ばっかりじゃん。
なのに半モヒは堂々と相手を侮っている。
一体この過剰な自信はどこから湧いてくるんでしょうかね。
「その曇った目じゃ理解できねぇようだから教えてやる。オレはアニキを紹介したときに覚えておけと言ったはずだ。すげえ男だと。今は、ちっとでけぇことやる準備中ってこった。分からねぇのか、この気合いが。これが力に溺れて舐めたヤツに見えるってのか、ぁあ?」
半モヒは声を強めてビシッと腕を掲げると力こぶを強調する。
それでなにを証明する気だ。
「ぬうぅ……欠伸欠伸と気楽に言いやがって! 夜番がどれだけ心折れそうになったり折れたりする任務だと思ってやがる」
「すいません頭がさがります」
「ごくろうさんっス」
俺と半モヒは反射的に頭を下げていた。
意外と大変な仕事だった。
外はともかく街の中はいたって平和だから舐めてんのかと思っててさーせん。
「まあ分かった。楽しようと考えてないならいい」
タツィオさんが言った一応の納得の言葉を受けて、半モヒが半歩下がり不穏な緊張は失せつつある。
ちょっとした言い合いに過ぎない。
このまま立ち去っても問題ないんだろう。
けど半モヒは不貞腐れた感じで、タツィオさんもどこか不満気なままだ。
これは、俺のせいで余計な不審を与えてしまってるってことなんだよな。考えるまでもなく。
他人事で済ませて、後でなにかあったらと思うと気分悪い。
俺は勢いをつけて半モヒの横に出ると嫌な空気を断ち切るべく声をかけた。
「アクビさん」
「タツィオだ!」
おっと、うっかり。
「タツィオさん、後輩を導くのも大切なお仕事だと思うぜ。仲間は増えた方がいいじゃん? 半モヒは、ど田舎者の俺をものすごい勢いで鍛えてくれてるんだぞ」
「……はん、もひ?」
そこは気にしないでくれ。
「ゴホン、ほんの数日前まで俺は魔物なんか倒したことなかったし魔法だって知らなかった。それが今や幽羅を大地から毟り、クワガタリスの毛皮を毟り、そしてトゲ木の実を毟り倒す!」
「ヒッ! 毟る……」
タツィオさんは何故か自分のこめかみを押さえて息をのんだが、革のメットを被ってるので何を意識したのか分からない。なにか心が痛むことがあるようだ。
恐らく俺の只ならぬ気合いに呑まれてくれたのだろう。
「おかげで着々と依頼をこなせてるし、すぐにも三級品に上がってやる。そしたら半モヒも二級品依頼に戻れるから、まあ見ててくれよ」
もちろん二級品依頼に戻るのは半モヒだけだ。
誰がついていくか。俺じゃ荷物持ちすらできねーし。
さすがに三級品に上がれたなら、他の同ランクの奴らと組んでみるのもいいかもしれない。
普通のレベルがどんなもんか分かりそうだしな。
なにか狼狽していたタツィオさんは唸りながらも頷いた。
「あ、あぁ、言われてみりゃ確かに……。数日前まで幽羅のようにひょろいボウズだったとは思えん成長っぷりだな。ひょろいが」
「誰が幽羅みたいなひょろもやしだ!」
「おぅ、ヤロゥとは長い付き合いだもんでな。余計な世話を焼いたようだ」
いつもの気が緩んだ態度に戻ったタツィオさんは、そっぽを向くと手で追い払う仕草をすることで話の終わりを示した。
「へっ、分かりゃいいんだよ」
なぜか半モヒは勝ち誇ってそんなことを言うと、胸を反らして踵を返す。
俺はちっとも分からんのだが。
門番をやり込めたのが嬉しいのか晴れ晴れとした笑顔の半モヒ。
あれ、やりこめたっていうのか?
まあ解決したかったのは、今後まで嫌な雰囲気を引き摺らないようにってことだから、それは達成したと思うしいいんだけど。
微妙な気分の俺は裏門を開いて踏み出す。
途端に強めの風が髪を通り抜けるのが、ひんやりと心地よい。
どこまでも広がって見える荒野は、枠だらけの場所から束の間の解放感を与えてくれる。
もちろん幻想だ。
魔物だとか他の問題がありすぎなんだから、逆に壁に囲まれた街の中の方が人間にとっては解放された場所ってことなんだけど。
そこは気分の問題。
こんなところで昼夜問わずの見張りか。
タツィオさんも人知れず戦ったりとかして俺たちは守られてんのかな。
付き合いが長いからと、なんで門番が冒険者の行動に口を出すのかと思ったが、冒険者ギルド事務所は裏門側の警備を兼ねて安く貸してもらってるんだっけ。
そんな事情を知ってんだろうな。
なんの因果か冒険者ギルドに飛んできて、そのまま冒険者になっちまったんだ。
俺も少しは戦力に数えられるようになんねぇとな。
「んじゃ、討伐から行くか」
「へぃっス!」
俺が提示した討伐重視で黒森へという曖昧な予定だが、具体的には簡単にルートを変更することにしたのだ。
俺たちは地平線を睨むと、門を背に真っ直ぐ歩き始めた。




