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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第59話 ほっと一息

 数分が一時間にも感じられるような、忍耐が試される苦労の割に報酬のしょぼい星屑浚いだったが、無難に終わったと言えなくもない。

 もちろん俺だけなら一日じゃ厳しかったろうけど。


 ともかく、四級品依頼の最低基準として体に叩き込むことはできたよな。

 これより上の依頼は、危険度が増していくということでもあるが……。

 同じく単調で苦痛なゴブ退治二日分の報酬を一日で獲得できると考えても、もうやりたくない!


 そうだ、その危険度のこともだよ。

 稼ぎといえば一つ当てが外れた。

 幽羅が襲ってこなかったんだ。


 この前いきなり歓迎されたのは異例らしいと半モヒの言動で知ってはいた。

 だから街の近くまで来ないってのは、あの辺まではってことだろうと思ってたんだよな。

 だけど今日さらに知ったことから、魔物が近寄らない範囲はもっと距離がありそうだった。


 半モヒが俺の要求に応えて四級品冒険者が活動できる指定の範囲内を、ぎりぎりまで離れたと言ったこと。

 それが、外壁の防御効果らしい範囲と重なることを知った。


 多分だけど幽羅なんかも、あの街が翳んで見えなくなる辺りまで普段は近寄らないんだろう。


 まあ、当てが外れたと言ってもな。

 もし幽羅がぽこぽこ湧いてたら、稼ぎは増えたところで星屑浚い分が足りずに二日目も毒姉に放り込まれたろうし、出てこなくて助かったかもな。




 それでもお財布は膨らんだけどな。

 ポケットの中でズシリと増した重みを手で確認する。

 大きめとはいえ所詮はコインケースだから余裕がなくなってきた。


 しばらくは食費以外に使う当てもないから、そろそろまともな物入れでも買った方がいいかなぁ。

 そしたらまた減るけど……。

 紙幣がなくて硬貨ばかりなんだし、今後を考えたら諦めて買うか。


「半モヒ、鞄とか売ってる店ってまだ開いてる?」

「開いてるっス。選ぶの考えたらちょいと急ぎやすか」


 ギルドを出たばかりで良かった。

 イメージ的には日が昇れば起き出して沈むと眠る時代感で、実際にどこも早朝から動き始めている。

 というより、こっちの人は慣れてるからか朝鳥が飛んでくる前に起き出してるらしく、一日の始まりの方が早い。


 けど、昼夜の変わり方が急なことは影響してるのか、日が暮れたばかりなら店は開けてるところもある。

 他の仕事終わりの奴らが寄ってくれるのを期待してのようだ。片付け準備は始めてるみたいだけどな。

 まあ昼間は閑散としてたから、自然とそうなるのかも。

 逆に昼に開けてる方がもったいない気がしてくるな。




 暖簾のように垂れ下がってるのは、鞣しただけの革って感じなのがワイルドな店に連れてこられた。


「こういった柔らかめの革が主っス」


 暖簾じゃなくてサンプル品だったらしい。

 たのもー。

 掻き分けて入ると、これまで見たどの店よりも狭かった。

 奥に細長いキオスクサイズ?

 おかげで目移りし易い俺にも商品の把握が楽だった。


 入ってすぐに目に付いたポールスタンドに目を向ける。

 様々なポーチ類など小型バッグがぶら下がってるものだ。

 客寄せ目的か泥棒対策かどうかは分からんが、出入り口付近には安い商品を置いてる店が多いというのも学んでたからな。

 ざっと目だけで確かめてから、一つに手を伸ばした。


「これにするわ」

「そっスね壁に並んでるのはー……早ッ! それっスか! アニキの目利きと決断力に応えし鞄とは如何な掘り出し物だったのであろうかぁ!?」

「安いから選んだだけだ」


 この前、布屋でさんざん悩んでたと思うんだが?


「今回は欲しい型が決まってたんだよ。これ、ベルト通しがついてるやつ」


 留め具にジップはないから、バックルで留めるかボタン式だ。

 今回はお値段重視でボタンにした。

 ボタンといえども糸ではなく革紐で縫い付けてあり、しっかり固定されてある。

 服のボタンとは違い、すぐに切れそうな感じはない。


 腰のベルトに取り付けられれば、そこまで動きの邪魔にはならないだろう。

 まだまだ身軽でないと不安というのもあるし、リュック系を使うのは、もう少し慣れたらというか鍛えられたらというか……必要に駆られたら考えようか。


 俺たちの声を聞いておくから出て来た店主は、エプロンのポケットに色々な工具を詰めている。

 職人でもあるらしく、鋭い目をギョロつかせ無精ひげの顔は油染みなのか薄汚れている。見た目通りの不愛想さで精算を済ましてくれた。

 店を出ようとする俺たちの背に声がかかる。


「修理も任せてね!」


 意外に軽やかな声だった。




「安く済みやしたが、仕切りもないヤツで良かったんスか?」


 安かったね……。

 まあ、安かったかもしれんね……。

 魔法具なんかと比べればな……。


 コインケースは半分の軽さになり革製は高価なのだと学んだ。


「……まあ、自前のもあるし」

「アニキの魔法具式? 入れ物は便利そっスよねぇ。代わりに容量が少ないんならしょうがないっスね」


 魔法具式だとか思われてたのかよ。磁石はないのか?

 それにサイズ?

 そういえば、魔法具屋の棚に並んでた道具も小物ばかりだったな。

 半モヒがジャラジャラ身につけてんのを見て、持ち歩きやすさが重視されてんのかと思ったけど別の理由がある?


「魔法具は、大きくなるほど作るのが難しくなるとか?」

「そっスね。普段使いの道具がでかくなる意味もないっスが」

「それもそうだ」


 俺が知ってる最も大きな魔法具は便器という事実。

 悲しいが、あれを参考にするなら、サイズ以上の性能が込められてそうだよな。

 欠片や妖精素材がどれだけ必要かも知らんが、大きくなるほどに値段も高くなるんだろう。




 モヒ家で食後の薬臭い茶を啜りながら、ぼーっと天井の年輪を見上げる。

 ほんの一週間前に来たとは思えない。まるで自宅のように馴染みまくってるな。

 そうだ新しい鞄に荷物を移しとこう。

 小型ながら水袋と弁当くらいは詰められそうだ。

 おや……?

 俺は財布代わりが欲しかったんじゃなかったっけ……?


 あー、えーと……完璧!

 そうさ、ぶらぶらと邪魔だった巾着袋がなくせるじゃん!

 さらにスッキリと身軽になれたし予定通り!


 ……汗拭き用の布きれだけ詰めておくか。

 ベルトに通して、はいおしまい。

 さてと明日のことだ。


「明日はどうすっかなー。つっても黒森だよな……」

「四級品の全域制覇を目指すのもありっスぜ!」


 ちょっとしたこととはいえ様々な目標を立ててこなして、色々と小さなことでも答えを知れたりと収穫はあったから結構満足したというか……。

 恐るべし星屑浚い。

 星屑浚いを二度やるくらいなら、なんかもうゴブ退治なんぞ楽勝って気がしてくる。


「俺ゴブスレイヤーになるわ」


 なんかそんな漫画があった。いや小説だったか?


「ええぇっ! 冗談っスよね? ね!? あっ、今さら稼ぎがどうのはいいんス!

 技を極めてぇってのを邪魔立てするつもりはありやせんぜ! けどやっぱ、でっけえ依頼をこなした方が箔が付きやすし! そういったもんが街の人間にゃ効くんス。んな俗なことなんぞバカみてぇだと思うでしょうが……オレも、アニキには一度覇権を取らせてっス」


 お前はどこを目指してんだ?

 なんの覇権だよ。派遣仕事ではあるな。


「いや稼ぎは大事だろ。……もう少し黒森を頑張ってから他の依頼も考える」

「そ、そっスか! 良かった! よおぉし明日も張り切りやすぜぇ!」


 弱音、というつもりでもなかったんだけど。

 ネガ系冗談は真に受けられると面倒だ。

 というか居候の癖に寝言ほざくなって感じだよなマジすみませんっした!


 ただ黒森の行けるところまで行ってみるのもいいけど、やりたいこともあった気がする。

 なにか新しいことでも考えてみるか。


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