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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第58話 雄大な自然

 ぷるぷると震える二の腕。

 震えを抑えつけるようにして抱えたザルの中身が散らないよう、慎重に袋へと傾ける。

 ざらざらとした音を立てて、水色のガラス片に見える星屑は収まった。


 荒野の真ん中で周囲が翳んで街さえ見えなくなると、怠け心はどこかへ吹き飛んだ。

 自分の置かれた状況の綱渡り具合を実感させられたというか、目を覚まさせられたようだったというか……。


 行商人だとかは冒険者を護衛に雇うという。

 そりゃ俺だって雇うよ。こんな場所。

 街が近くにあるはずなのに、俺一人だったら、もう辿り着ける気がしねえ。

 命綱は半モヒだけと思えば、さっさと終わらせて帰りたい気持ちが募り、昼飯と生理現象時の他は真面目に地面と戦い続けた。


 星屑を零さないよう無意識に止めていた息を吐き出すと、ようやく気を緩める。

 蜃気楼の向こうを仰げは、空が湯気のように揺らめいているのが薄っすらと分かった。

 夕闇の覇者だっけ、そんな名前の時報妖精が近付いてきている前ぶれだ。


「もう、夜かよ……」

「お、引き揚げ時っスね」


 実際に時報妖精が飛んでくるには、もう少しかかる。

 明るい内に門まで帰れるだろう。


 今度は溜息を吐きつつ、小汚い布袋の口を紐で縛った。

 片手で、その重みを確かめる。

 どうにか俺も星屑を集めることはできた。


 結果は、両手で掬ったくらいの量だ。


 これが砂金とでもいうなら、荒野を浚いまくった甲斐はあるだろう。

 しかし小瓶を作るための材料だ。

 魔法具用らしいから、そこそこ貴重ではありそうだけど、ないならないでも構わない感じはあったし。

 それに依頼にはノルマとかある。


「こんなもんで、受け取ってもらえるの?」

「十分……最低限ダイジョブっス!」


 ギリギリ駄目そうだな……。


「あ、ホンキで余裕の依頼達成っスよ? これがパーティの強みってやつですぜアニキ!」

「……なるほど」


 一人では足りずとも、力を合わせれば一般的な量より……増えるわけねーだろ。

 もちろん半モヒの手にある袋はズシリと重そうだ。

 俺の倍では済まない量を集めてやがる。

 半モヒの分だけで余裕で足りてるぞ絶対。

 俺が鍬なら半モヒは耕運機だったよ……。


「今さらこんな依頼に付き合わせて悪かったな」

「くくく、またアニキはオレをひっかけようとしてやすね? オレもアニキの弟子として心構えは準備万端でさぁ! アニキが見せようとしたことは分かりやス」

「ちなみに?」

「未熟だった己の、目を覆いたくなるあの頃を、まざまざと思い返し直視する。そんな苦痛を乗り越えることで気付きを得ることもある、と。さすがアニキの計らいは、さりげないながらも芯を突いてるっス! 実際、今の力量を把握しなおすことができやしたぜ!」

「……そ、そういえば、敵を知り自分を知るのが大事だとかなんとか言うよな」


 バトル系漫画とかでよく見た気がする。


「おぉぉ……アニキが師匠から賜ったことを、このっオレにも授けてくれたと!」


 俺の師匠……そう来たか。

 ま、まあ人生の師匠と言えば間違いでもないよな?


「とにかく納品できるならいい。帰ろう」

「うっス! ささ街道は、こっちっス」


 俺たちはザルを脇に抱えて街道らしき筋を辿る。

 遠目じゃ分からねぇはずだ。

 裏門から確認した時だって馬車だか何かの跡らしき筋が走ってるだけに見えた。

 それが街の守りを離れた辺りから、もっと雑になってやがった。かすかな段差があるかもしれんってな具合で、さらに土埃でくすんでる。

 慣れてる奴がいないと道なりに歩くことさえ難しいだろこれ。




 予想通り、裏門を抜けたところで時報妖精が飛んできた。

 暗くともギルドの樽看板は見える距離だから、灯りはつけずに移動。

 燃料がもったいないし。


 カウンターに採取物を置くと、毒姉は土で薄汚れた俺たちから僅かに体を離しながら受け取った。

 ポケットに入り込んだ砂かけるぞ。倍返しが怖いからやらないけど。

 毒姉は、お椀のぶら下がった秤らしき台を持ち出して袋を乗せる。


「ふーん、意外と頑張ったのね……つまんないわ」

「つまるつまらないの問題?」

「足りなきゃ、明日も行ってこさせるつもりだったけど」

「いかねぇ」

「そう言うわよね」


 そうして渡された金は、ゴブ討伐二日分だった。


「ひどい依頼だ……」

「やはりアニキでも辛いっスか……」


 これが四級品依頼とか間違ってると思う。




「はー、早く汚れ落としたい」

「全くっス」


 特に買う物もないし帰るしかない。

 娯楽はないが、半モヒが本マニアのおかげで暇が潰せて助かる。

 今日は特に疲れたから、そんな暇もなく早めに寝てしまうかもしれんが。

 そんなこと毎日言ってる気がするな。


 地味ーな仕事を達成したところで受付嬢は毒姉だし、まともな労いもないと思うと余計に疲れるぜ。


「毒姉なら、あんな依頼も軽いんだろうな」

「え、コドックさんが星屑浚いなんて、新人の時ですらやったとは思えねっス」

「確かに」


 なにか気になる。

 半モヒに冒険者の人数とか聞いたことを思い返す。

 一級品冒険者といって俺が頭に思い浮かべるのは一人しかいない。

 もちろん毒姉なんだけど。

 レアクラスなんだろ?


「そこまで一級品の存在が珍しいなら、幾ら引退したっつっても引く手数多になりそうなもんだけどな」


 魔法おやじも毒姉の恐ろしさをほのめかしてたように、引退して三年くらいでは忘れ去られないだろう。

 現役の半モヒにすらブランクを感じさせない手癖の悪さだぞ。


「毒姉も受付嬢なんてやらずに、もっと割のいい仕事がありそうなもんなのに」


 更迭して今すぐ優しくて可愛いお姉さんにチェンジしてくれ!


「さすがに現役時代ほどは動けねぇと思いやすぜ」

「その根拠は?」

「体型から違いやすし」

「は?」

「昔は立派な胸板してたんスけどねぇ、すっかり柔になっちまって」

「胸、板……?」


 すげーガン見してたんですけど……?

 いやいやいや柔ってか、ふつーの女の人って感じだろ。黙ってれば!

 え、嘘……あれって雄っぱいだった?


「俺は筋肉に裏切られたというのかよ!!」


 なにか意味が違うけど!

 もうチラ見できねぇ!


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