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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活__四級品冒険者ライフ

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第56話 級別分布

 この街の冒険者は百人くらいらしい。

 そんなもんかぁと納得しかけたが、この環境では随分と少ないような……でも街の規模から言えば多い方なのか?


 人口がどのくらいかなんて知らないけど、雰囲気的に少なそうなんだよな。

 住宅街だけでなく倉庫通りっぽいところだろうと、人はそこそこ見かける。

 でも、一番賑わうのは商店街付近だろうけど、そんなに集まってるようには見えなかったんだ。

 夕方くらいの時間帯でもそうなんだから、下手したら全員顔見知りでもおかしくないくらいに思える。


 この前の事件で冒険者は、全員が集まってもいいくらいだと思ったが百人はいなかった。


「闇玉事件に集まったのは、五十人くらいじゃなかったか」

「隊商の護衛で遠出してるのも多いんスよ。定期的に移動してるっスから、いつでもありつける上に報酬がいいんで」

「あー」


 すごく冒険者っぽい。


 けど一級品冒険者について考えてたんだった。


 こんな城塞都市が他に幾つ存在してんだろ。

 数はないよな?

 そうじゃないなら全体で二桁くらいしか存在しないって、ちょっと不安だ。

 まあ、そんな一人の負担がでかくて依存しまくりで、世の中が維持できるとは思わないけど。


「で、この街を拠点にしてる一級品は何人いんの」

「今は一人っスね」


 は?


「一人」


 半モヒはかくかくと頷いた。


 二桁居て、この街の割り当てが、たった一人……だと?

 兵士というわけではないから誰かに配属させられるとかないんだろうけど。

 多分、それが依頼に反映されてる感じだよな。

 拠点としては、どこかに固まってそうだけど。たとえば都とかに。


「いや一人ってさ、パーティは組まねぇの? 依頼の時だけ別の街の奴らと組むとか? それなら拠点も移した方が良さそうなもんだけど」

「生まれがここらしいんで」

「それって……生まれ故郷じゃなきゃこんな街にはいられねぇってこと?」

「そこまでしけた街ってわけでもないような、あるような……それより危険度が高いからっスかねぇ?」


 やっぱしけてんのは違いないんだ。


「ん? でも都は冒険者も多いんだろ。そいつらが暮らせるだけの依頼があるってことだろうし、それだけ危険も多いってことじゃないのか?」

「あっちも近くにおかしな森がありやすが、それより都市群の中心っスすから。派遣が多いんス。他の街から依頼が集まってるっつーことっス」

「へ、へぇ」


 だめだ。まだまだ基本知識が足りない。

 いきなり広い範囲に話が及ぶと重いな。

 外の情勢を知るには早かったか……。


 けど、まじか。

 ここの冒険者って実質、毒姉頂点の有象無象集団じゃねえか。


「強い奴らなら、危険度が高い街の方が稼げそうなもんだけど」


 一級品まで成り上がったからにはもう働かねぇ! とかな。

 ペーパー冒険者。

 ただのゴロツキだよ。


「人が安心して家を建てることのできる少ない安地。それが新天地なんだろ?」

「なんつーか……新天地も、線が引かれたように明確なもんじゃないっスから」


 思わず見上げたら眉間に皺を寄せている。


「なんか言いづらいことがあんの?」

「あぁいや、考えてみりゃ色々と面倒なことが絡み合ってるようなぁ感じでぇ? ズバッと言えねぇなと。くっ、これじゃ二級品案内係として失格だぁ!」

「そんな資格ねーだろ」

「それもそっスね! で、この街は新天地の中でも端っこなんス。不安定地域との狭間にかかるっつーか、そこで食い止めるための場所っつーか」

「ほー、それは初耳……」


 よりによって俺は一番不穏な街に来ちまったのかよ!




「一度、戻るか」


 もう一つ木の実広場を進んでみたが、まだ特に背景の変化はない。

 まずは一番遠いここの木の実から持って帰ることにした。


 行動範囲は狭いけど、最低ランクと言って差し支えない四級品だし、こんなものか。

 あとは、半モヒが先導してくれてるからというのを忘れちゃならない。


「大漁っスねー」


 うっきうきとしてる半モヒの顔は毛皮でほとんど隠れている。

 木の実採取依頼のはずなのに、大漁なのはクワガタリスの方だよ。

 どっちにしろ嵩張って邪魔だから、こまめに戻らなきゃならなくて面倒。


 距離がある分、ひーひー言いながら戻った。

 それから二番目の広場にまとめて置いてあった木の実を回収して取って返す。

 毛皮を置き去りにしないのは、クワガタリスに持っていかれるかららしい。

 確かに。


 それにしても必ず湧いて出てくる奴だが、よく毛皮の元の数が揃うな。

 奥地に群生地でもあんのかね。

 もっさもさとひしめく巨大なタンポポの綿毛を想像してしまった。




 最後は一番手前の木の実広場から回収。

 一度は挑戦しておこうと、頑張って三個の木の実を背負う。

 抱えるときに、ちょっと体がぐらついた。


「ダイジョブっスか?」

「フッ、片手があれば十分だからな」

「っすがアニキ、余裕だぁ!」


 というか、どうせ片手しか使い物にならねぇし。

 避けられるわけでもないなら、もう警戒とかどうでもいいかなって。

 それより、なんとかして持ち帰る回数を減らしてえよ。


 よろよろ戻っていると、あることに気付いて気味が悪くなってきた。


「昨日、採取したよな、木の実」

「へぃ」

「今も担いでる」

「っスね?」

「……生えるの早くね?」

「こんなもんスよ?」

「それは、他の植物もそうなわけ?」

「いやぁ、黒森の気配で変質してると思いやスぜ。席でも決まってるのか、枝一本につき一つと、必ず生えてんスよね」


 やっぱ、異常じゃねーか!


「んなもん食って体に影響ねーのかよ!」

「ないんじゃないスかねぇ。あ、やたら日持ちするのは、その効果のせいじゃねぇかなぁ。いつも食ってるパンに入ってやスが、体調が悪くなるどころか快便でいっスよ」

「俺も食ってた!」


 あの砲丸パン、色んな木の実が砕いて混ぜ込んでると思ったら、酸化防止剤みたいな役割があったんかい。

 特に風味のない欠片もあったけど、あれかな。

 味気ないって言ってたし。




「はー疲れた……」


 ゴトンとギルドの床に荷を下ろすと、ゆっくりと持ち上げカウンター越しに押しやる。

 毒姉はもう毒すら吐くのさえもったいないというように冷めた視線だ。

 くそっ、一朝一夕で筋力ついてたまるか!


 毒姉がチェックしてる間、スイングドアから差しこむ陽射しをぼーっと眺める。

 振動が近付き遠ざかると、見る間に西日に変わった。

 西日じゃねえか。


 一応、予定通りに黒森での活動を終了できたんだな。

 感慨は薄い。

 地味な疲労感だけがあり、街の中の依頼ほどの達成感も湧かない。

 つい遠い目になってしまう。


「……冒険者とはいったい」


 黒森とギルドを往復してたら、嫌でもそんな疑問が湧いてきて逃避しそうになった。

 他にできることはないし、調べものするため金を貯めるといった目的がなければ、さぼってた。


 うん、己の弱気に打ち勝ったのだ。

 それで良しとしておこう。


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