第55話 深みに嵌る
端々で考えていたことや、薄々と勘づいていたことが繋がっていった結論。
俺の魔法耐性の上がり幅が悪すぎな理由を求めるなら？
単純に謎器官の有無しかないよな！
というわけで、俺と半モヒたち現地人の肉体的な違いについての原因に当たりを付けた。
度々思いついてたことだけど、ますます実感が湧いたってことだ。
けど、それだけだ。肝心の何か対策を思いつくまでには至らない。
それに、たまたま謎器官のことを知ったから拘ってたけど、他の要因がないとも限らないだろう。
……いや魔法に関すること専門ぽいから、ほぼ確定な気はするけど。
なんせ耐性付くまでは毒素っぽくさえある魔法的要素の処理を担ってる。
魔法の素を生み出すのもそうだ。
俺は謎器官が不思議な力を増幅すると考えたりしたが、半モヒから聞いた感じ、馬鹿力については関係してるなんて思ってもなさそうだった。
俺の場合は、普通に動いただけの分しか鍛えられないってことは間違いないんだろうなぁ……はぁ。
成長の見込みがない未来が重くのしかかってきそうで、これについては思考放棄してたところもある。
けど今は、変化したことはした事実もあり余計に混乱する。
元の世界でなら、僅かでも一晩で目が良くなるとか、それだけですごいことだ。
検査器材が何を判別してんのか知らないが、とにもかくにも反応した。
なら、俺が異世界人のせいなのは直接には関係ないんじゃないかと思えてくる。
地球では違う名前の同じものがあるとかならともかく、魔法的な要素はどう考えても質は別物だろうし……。
何かが反応した、か。
身についた魔法耐性の力だけが？
こっちの魔法のことも、まだよく分かってないけど。
仮に、何かの魔法が俺に掛けられてるとして、それは器材で判別できるもんか？
魔法跡の調査用の道具があるなら、判別自体はできるんだろう。
でも、それは検索した結果を知らせもんになるよな。
俺の場合は器材を騙したってことにならねぇ？
それはそれで、可能なのかということ以外にも疑問が出てくる。
これまで見た限りでは、魔法にはなんらかの燃料が必要だ。
魔法具なら魂の欠片。
人間なら、そいつの魔力か。
その魔力を作り魔法として形作る一切を担うのが、謎器官。
それを持たない俺は、何を燃料に魔法効果を維持してんだ？
なんか急に消えたらと思うと、怖くなってきたな……。
「アニキー、こっちも数が潜んでるっスー」
「なにっ敵はどこだそこかぁ！ あるだけ偽毛を剥いでやるうおおおお！」
「研ぎ澄まされた殺意が恐ろしいほどだぁ！ オレも見習わねぇとなあぁ！」
ま、所詮は妄想よりの推測だ。考えすぎはよくないからな。
それより飯のために毛皮をむしるのが重要だよなあッ！
急に謎力が消えたらどうしよう？
といった怖いなんて気持ちはすぐに消える。
そんなの起こってから考えりゃいいじゃん？
そういう性格だから兄貴にくどくど注意されてたけどな……あいつは頭が固すぎんだよ。
とにかく、ずっと暗い気分でいても生産性ないだろってのが俺の考えだ。というか飽きて忘れちゃう。
まあ、状況証拠からの連想やら妄想だろうと、足りないながらもここまで考えられたのは魔法おやじのおかげだろうな。
色んな意味で胡散臭かったが、さすがは魔法使いってところか。
やっぱりダベるのは良い気分転か……情報収集が捗っていいな！
時々遊び、じゃなくて魔法具の調査にも行こう！
直接得られた手がかりは闇属性についてだが、他に気になっていたことの答えも見えた気がするな。
俺の年齢が実際より遥かに上と思われがち、ということについてだ。
しかも毒姉、半モヒ、魔法おやじと三人もくれば、これには意味があるだろう。
若作りだとか言われたが、それは実際に若く見えてるってことだ。
にもかかわらず、歳がいってると思われるのは妙な山籠もり修行設定のせいだけではないらしい。
ただの慣用句の可能性も考えたが、共通の流れがあった。
それだけの力があるなら――そんな枕詞が付いている。
魔法があるからと隔絶した強さが手に入るわけではなく、それだってかなり練習しないとならない。
謎器官の強度によって強さが決まるようで、幾ら俺の知ってる人類よりも上限が高かろうと、そこに辿り着くまでにはそれなりの訓練が必要ということだ。
そこから分かるのは、こっちでは才能だけで一足飛びの強さを手に入れるなんてことは、ありえないということだ。
このことも、俺の体に起きた異常を浮き彫りにした。
強さと言えば――ふと魔法事件と、自分の言葉を思い出した。
毒姉が行ってたらすぐ片付いてたんじゃねえかって。
あの場に集まった冒険者を率いたのは二級品冒険者のニバンさんだ。
一級品って毒姉の他はどこに？
じゃなかった……一応引退してんだよなあれで。うっかりでも言ったら怒られそうだ。
こんなときは浮かんだ疑問を隣に投げかける。
「そういえば、一級品冒険者は何してんだ？ 出かけてるとか？」
「なんと一級品の奴らについて知りたいと！？」
「深い意味は無いから。この前、参加してなかったよなと思って」
「あー……今は都の方でなんやかやっス」
何を残念がってるのか聞かずとも想像つくようになってきて悲しいよ。
戦わねーから。
「じゃあ運が悪かったのな」
「いや滅多にかち合わねっしょ。ほとんど出てるんで」
「遠征依頼だっけ、そんなので出てる？」
「そっス。あちこちから声がかかるんスよ」
領主やらから勧誘されるといっても、さすがに全員を抱え込むなんてこたないよな。
難易度高い討伐依頼などは幾らでもありそうだから、偉い人たちから引っ張りだこなんだろうか。
「へーさすがは実力者……それ、この街の冒険者って言わなくね？」
「少ないんで他にゃ手に負えない件は頼むしかねっスから」
「え、全国でも一級品ってそんな少ないんだ？」
「二桁ってとこっスかねぇ」
選ばれし化け物だな。
確か他に冒険者ギルドのような競合組織はないような話だった。
だとしたら、少なすぎない？
ここは街自体がすごく長閑な雰囲気だけど、こんな立地なのにそれでいいのか。
「冒険者組合って、そんな大きくないって聞いたんだけど、在籍冒険者も大した数はいないのか？」
「そっスねぇ、他の街のことまでは分かりやせんが、この街は百人程度っスかね」
「そうなんだ……」
なんともコメントしづらい微妙な規模だった。
