第53話 一歩ずつ着実に
やたらと半モヒが俺を物騒な方向に引っ張ろうとするのは、アレだな。
危険地域に行けば嫌でも戦わなきゃなんないから、ありもしない秘技でも出させようとか考えてるっぽい。
本当に力がついたなら見せびらかしてるよ。
現実を思い知らされて段々と気持ちが沈んでくる。
思惑が外れてガッカリ感が半端ない。
魔法屋で長話してから黒森に来たが、まだ昼にもなってないというのに、気持ち的にはぐったりだ。
身体能力アップは期待できねえから、せめて動きやすくなれば稼ぎも良くなると喜んでたってのに……闇耐性最高値を叩きだした検査結果はなんだったんだ?
俺の期待を返せ!
はぁ、ようやくギルドに到着。
さて納品納品っと。
「あーしんど。採取ってより持って帰る労力のために対価もらってる気分だ」
「ハハハ、違いねっス」
うっかり愚痴ってしまったが、このクソ重い木の実を半モヒは八個持ってるんだった。
たった二個で言うことじゃないな。気を付けよう。
カウンターに置くと、即座に毒姉は胡散臭い笑顔を張り付けてトゲトゲ木の実をチェックする。
「一度で済ましてくれるなんて手間が省けて助かるわ」
これが毒姉じゃなければ純粋な労いだと思うんだけど、どうせ「ようやく学んだようだなボウズ。いつも一度でノルマ達成してこい」くらいしか思ってなさそう。
「こんな依頼に時間かけて食っていけるのか心配になるくらいよ。助かるけど」
う、やはり続いたか……。
口調は柔らかいが言葉には棘がある。
でも威圧感なしに、こういう含みのある言い方は、真面目に忠告してくれてるんだと分かってきた。
言われたように、本来なら宿と飯代で消えそうな稼ぎでしかない。
今日は俺もクワガタリスの謎毛を幾つか持ち帰ったが、それで普通の四級品冒険者なみになったかどうかだろう。
それだと余裕ある収入と言い張るには足りないはずだ。
「えー今日はあれだ。ちょっと色々と準備中なんだよ。明日からびびらせてやっから!」
「あっそ。期待で胸一杯だわ」
つまらなそうに言われた。
もうすっかり俺が来たときの期待感なんか消えてそう。
泣きたい。
「はい報酬。あら、街の依頼は受けてかないの」
「うん……今日は黒森で一日過ごすって決めてたから」
なんかもう結果は分かったから予定を変えてもいいんだけどな。
一応はパーティ組んでるし、気分でころころと予定を変えるのは良くないかなと思う。
変えたくとも気力がないけど。
ギルドを出ると再び裏門へふらふらと移動。
なんて地味な活動なんだ。
「やはり黒森じゃ割に合わねっスか? 今日のアニキは冴えてるからなぁ! もっと奥地に行くなら案内しやすぜ! あ、奥地っても四級品に許された範囲になりやすが。アニキには物足りないのは承知っスが……コドックさんにバレたらあの世が見えるっスから」
「まさか、遠くを見る魔法とかある?」
「ないっス。けど、あの人ならやってもおかしくねぇなぁ……まあ、獲物でバレるんスよ」
「あー木の実も判別してたもんな」
依頼のほとんどが歩く時間で終わる感じで地道過ぎるから、高耐性がついて華麗に稼げると浮き足立った。
でも――ポケットに突っ込んでいた手がコインケースを掴む。
重みは増している。
「今日は冴えてた、か……」
「そりゃもう見違えやしたぜ!」
偽毛リスを数匹倒したのは事実。
毒姉にはああ言われたが、寄り道したのを知らないからな。
それがなけりゃもっと退治できてたってことだ。
自覚はなかろうと稼ぎは確実に増えてるんじゃん!
「行くか、奥地」
「おおやりやすか! 任せてくだせぇ!」
足を速めて俺たちは黒森へ突入した。
勇んで初めの木の実広場に到着!
「その前に腹ごしらえしときやしょ」
「もうそんな時間か」
いきなり休憩!
もぐもぐとヤロゥ弁当を食べながら、半モヒインフォメーションに耳を傾ける。
「念のためっスが、はぐれた場合を考えて伝えておきやス。この木の実広場は基本的に必ず視界に入る間隔であるんスよ。ここを辿りつつ靄の暗さが薄れる方に移動すりゃ、外に出れやすぜ」
「ふんふん」
木々の合間を埋めるような靄に濃いも薄いもあるのか。
……奥に行くほど真っ暗になるとか? できれば見たくないな。
所々に斜めに光が差し込む場所があるのは確認済みだが、距離感はよく分かってなかった。
一定の間隔で必ずあるというのは、しっかり覚えておこう。
いや基本的に必ずってどういうことだ。
「基本的にってことは例外もあるのか」
「あ、木が連なってる限り必ずっスね。後は地形に依るんで。例えば明るいからって向かったら崖だった、なんて場所もあるにはありやスから」
「罠すぎる」
聞いておいて良かった!
「光の筋は似たようなもんスから、これ追えばいっスよ」
「この木漏れ日の形はよく覚えておく」
「というわけで、まずはこっから見える、あそこに移動しやしょう」
「了解」
言いながら早速、ガサゴソと手で枝葉を掻き分けるようにして移動を再開。
まだまだ人が通る用の道らしきもんはあるんだが、木の低い位置からも細い枝やらが伸びてたりするからな。
すっと前に出た半モヒが、それらを折りながら進んでいく。
変な森だから木から反撃受けたらどうしようかと思ったが、気にしなくていいらしい。
俺も折っていこうっと。
推測ではモヒ森の元になる森の筈で、色違いだが木の種類は同じようなものだ。
なんだが、街の中の森には普通の藪だとか生い茂ってるのに対して、こっちは藪は少ない。
これなら奥に進んで獣道さえなかったとしても、歩き辛いほどではなさそうだ。
――クキャキャ!
「えいっ」
――キュルゥ……。
たまーに偽リスが降ってくるが、物音立てまくりのため難なく潰して進む。
「木の実がないところでも襲ってくるんだな」
「やっぱあいつらにとっても通り道なんしょ」
俺たち冒険者と同じく木の実ルートの利用者だったらしい。
当然と言えば当然に思えるが。
「それにしちゃ、木の実に齧られた跡は見ないな」
「齧るのは枝っスよ。中身があれなんで食いやしませんが、牙を研ぐのにちょうどいいらしっス」
「枝の方かよ!」
しかも猫の爪研ぎみたいなもんかよ!
幽羅と同じくスライム系の癖に、半端に生き物っぽいのが謎だよな。




