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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活

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第50話 鍵

 俺はローブおやじと、ついでに半モヒにも、改めて意識を向けてほしいところで語調を強める。


「初めに確かめておきたいんだけど。各属性と耐性の関係というか、説明な! あ、できれば簡単に頼む」

「おお、うっかりしておった」


 ローブおやじは、ぺちんと額を叩くと意識をこっちに戻した。


「属性は耐性や使用魔法が、闇、光、露のどれに属すかというときに使うものだ」


 そうそう、なにか初めはゲーム的に『光属性』とか、ステータスについてそうなイメージしちゃってたんだ。

 そういうのって、それ以外は付いてない印象。

 でも別に種族的な特徴になったりするわけでもなく、みんな備わってるらしいからな。


 混乱したのは魔法を聞いてからだな。

 魔法の方は、どの属性を使用するかは結構はっきりしてる感じがあった。


 魔法具の場合は用途別だからというのもあるけど、複合アイテムは高価ということは難しいってことだろうし。

 闇玉との戦いで活躍したなかでも魔法使ってるらしい人はそこそこいたのに、光属性魔法使いは数人だったとかな。


 そもそも習得自体の難易度が高いから、全部極めるのは難しいとか、そういうことかもしれないけど。


「人が持つ属性耐性は、基本的に外からの影響を相殺するものと考えてくれればよい」


 こっちの免疫力の一種みたいだと思ってたが、そこは合ってたっぽい。


「魔法は、逆に外界へ働きかける形にするものだ。どのように干渉するかを属性から選択するのだな。あくまでも簡単に説明するならだが、こんなところだ」

「ふんふん、ありがとう。知ってたことと同じで安心できた」

「なッ……わしの説明は一体!」


 説明を聞いて、使いどころが合ってるか分からなくて戸惑ってた単語が、多少はすっきり頭に入ってきた。

 大体こんな感じかなーと思ってた通りで良かった。


「それでここからが肝心な話なんだが……あ、前提が分かったおかげで、さっきの質問の答えが出た気がする……」

「なにっ、さすがわし、説明上手!」


 耐性は、成人までは一定ラインに成長し、その後は自己鍛錬が必要。

 半モヒが黒森で寝泊まりしてつけたように、その属性の濃い場所に身を曝せばいいらしいもんな。


「俺の闇耐性が成長したのは、あの闇玉の場に居たから……で、いいんだよな?」

「それ以外なかろうな」


 ローブおやじは嬉しそうにうんうんと頷く。

 俺は背筋を伸ばし直した。


「じゃあ、もう一つだけ。俺の推測が正しいかどうか教えてくれ。俺だけ闇玉の手と互いに掴めなかったのは、俺の闇耐性が高い、それもあいつと同じくらいの強さだったからでオーケー?」


 ローブおやじは片手を顎に添えて、考え深げに目を細めた。


「うぅむ、その通りだ。しかし桶のようなものとは言い得て妙だな。人の器を桶と見立てるならば、その大小で湛えられる量も決まると……さらには湛えるものの種類が属性を表し、水位が現在の耐性力とも言えるか。なるほど、感銘した」


 桶じゃねぇよ。

 なんか外来語混じりの単語も結構聞いた気がするんだけど、たまにおかしな解釈が入るな。


「大した洞察力ではないか。とても基礎知識がなかったとは信じられんな。これは良い情報をいただいた」

「俺の状態変化は、おかしくない……?」

「もちろんおかしいぞ!」

「おかしいのかよ!」


 俺の焦りと対照的にローブおやじはにこにこしている。


「よもや、あの場で急成長するとは恐ろしいまでの逸材だ。はっはっはっ」


 そういう意味かい……。

 これなら怪しまれるようなことはなかったみたいだ。


 ようやく、ほっと息を吐いた。

 あいつの仲間と思われるような異常なことじゃなかったならそれでいい。




 話を締めると空気が緩む。

 すっかり休憩時間の教室のごとき空気だ。

 仕事中じゃなかった?


「それにしても、これで四級品冒険者だと? とても名のある冒険者ではないなど信じられんよ」

「あたぼーよ、聞いて驚け! なんとアニキはなぁ、山籠もりの覇者なんだぜ!」

「なっ、なんだと! やはり何かあると睨んでいた。それだけの技を磨くなど生半可なものではない。若く見せているが同年代ではないかと疑っていたのだ……」

「おい、そこ、疑うな! 見たまんまだよ!」

「ははは! 気持ちだけは、いつでも若々しくありたいものよな!」


 殴りてぇ……いやいや駄目だ自分が気に入らないとかでの暴力は反対。

 まったく山籠もり設定はどうなってんだよ!

 くっそー色々と辻褄合ってるらしいから迂闊に否定できねぇし……毒姉め。


「とにかく……闇耐性が鍵だな」


 あらためて事実を噛み砕いて頭に収めた俺の胸に、困惑が沸いてくる。

 意外なことに、魔法団の窓口でもある、この見た目はしょぼい魔法具屋にて手がかりを掴んだのだと気付いたからだ。


 この世界に飛ばされたことも含めて、自分の体に起きた変化が、闇魔法に関係してそうだってな。


 その場合、他の無理難題がどうやって解決されたのかが焦点となる。

 試しに召喚術のようなものがあるか質問してみることにした。

 一応、質問の内容は、他の空間と物質を行き来できるかと曖昧にしてズバリ人間がテレポートできるか聞いたわけじゃない。

 緩んだ顔付きは一転、ローブおやじは険しい顔で俺を見据える。


「なんと恐ろしいことを考えるのだ。そんなものはないし、あっては困る」


 即答された。

 やべぇ、地雷踏んだ……?


「変なこと聞いてすみません……」

「いやすまん脅したのではない。ただ、我々魔法団が存在する理由でな」


 毒姉とは違う真面目な反応は、自分たちの管轄だからだった。


「そこらの大地とは違う、特に危険な兆候のある場を監視しておる」

「天然記念物、だよな?」

「そうだ。こうして強力な壁を築こうとも、人類にとっては厳しい現象だ。そこから現れる眷属も、魔物族とは比較にならん。もしも……もしもだ。空間と時を超えて瞬時に物を移動できる術などが存在したなら、それを、その眷属らが行使したなら……」


 街の中に、忽然と敵の魔法攻撃などが現れたら、人間がどれだけ抗えるか――その先は察しろと諭されたようだった。


「我らのできることは、害をなす者も出来得ると考えねばならん」


 俺も真面目に頷いて見せた。

 もう迂闊には聞けないな。


 そんな俺の引き締めた気持ちは破られた。


「でだ! なぜないかということを考えてみようか。先にも桶でたとえたように、人間一人が行使できる魔法量には肉体による限界がある。人の器を超えた力など出しようがない。潰れてしまう。起こり得んのはそれが理由でもある。人数で振り分けて負担しようにも、街の住人と同じだけの魔法使いが必要だろうな。魔法具の補助があれど、たかが知れている。しかも、その広範囲の人間が同時に魔法を紡ぐ合図はどうする? 力量も同じではない。どちらにしろ無理だろう」


 なぜかウキウキとしたおっさんの説明は、毒姉から聞いたものと基本は同じ。

 それが一般的な認識であり、現状で実現可能なことの実体なんだろう。

 なんで嬉しそうなのか分からんが。


「そもそもなぜ、たかが壁を築くだけで人が住めるかといえば、新天地と呼ぶ安定した場というものは、そのような技がないから保てるのであって――」


 半モヒと俺は目を虚ろにしてローブおやじを眺める。


「やばいとこツツきやしたね」

「趣味なんだろう」


 えー長そうだから聞き流そう。

 でも、改めて確信が持てたから感謝はするぜ。

 俺の体に、人が扱える範囲を超える魔法的な力が働いたのは間違いないってことだろ?


 自然と口の端が上がる。


 これまでの状況は、闇の中で真っ暗のようなもんだった。

 それが足元に、獣道が見えた気がしたんだ。


 右手を持ち上げ、ぐっと握り込む。


「くくっ……いいじゃねぇか、この状況!」

「アニキがなにやら燃えている……!」

「おうよ、やれることが広がるってのは気分がいいもんだろ!」


 だったら次にそれを調べりゃいいんだもん。

 なんにもないところに、取っ掛かりが得られただけで幸先がいいってもんだぜ!



 はたして俺は、このトンチキ世界のデスゲームから脱出できるのか!?




 ――――夏休みの残りは、あと39日!!






 ★★★☆☆彡


 とある薄暗い屋敷内の一室。

 低く囁き合うように言葉を交わす姿がある。

 報告に訪れた者が口を閉じると、聞いていた者は眉間に皺を寄せる。


 魔法具が察知した事象や、街周辺に起きた大地の揺らぎ、一人の魔法使いによるとてつもない規模の魔法行使――そして、高水準の耐性を持つ者が現れたこと。


 それらは、ここ最近彼らの頭を悩ませてきたものを並べただけであり、未だ関連は見出せない。不確定要素ではある。


「重なったな。偶然の筈の事象が」

「はい。ですが、人の介在もあることを考えれば……」

「ありえん。人の手で自然を意のままに操ることなど」


 沈黙。

 彼らはよく分かっている。

 人の持つ魔法がままならぬことを。

 魔法は人にとって唯一持てる力、自然に対する剣であり盾である。

 しかし自然に対しては、わずかに身を守ることができるに過ぎない。


 魔法も自然の力の一部であり、人がそこから分かたれようと編み出した魔の法故に。

 苦渋を浮かべた者が呟く。


「もし、偶然が初めの一点だったならば――」


 坂の上から落とした玉の通り道に、ぬかるみがあったなら。

 その後、泥や枯草をまといながら転がっていくように。


「異常な切っ掛けが、後の事柄を引き寄せたならば」

「ありえますな、しかし、しかしそれでは……!」


 その切っ掛けが、何か。

 そして、どの時点で起きたものなのか。


 どこで、というのは分かっている。

 起きたことの中心に存在するのは、この街なのだから。


 問題は、それらを引き起こせるほどの力や条件を兼ね備えた異常事態。


 彼らの脳裏に浮かんだのは、一つの災厄だった。



一章終了

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