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第5話 ツッコミパワー

 しかし、なんでまた掌打なんだ?

 俺に武術の心得は、まったく微塵もありません。

 生まれてこの方、習い事の見学さえ行ったことはない。超インドア派。

 ゲームだってアクション系はあんまやんないし。


 うーん、何かされたとしたら死んだと思ったときしかないと思うんだけどなぁ。

 体を改造した科学者だったり、あの世への橋渡しの神様なんてものに会った記憶は欠片もない。


 思い返してみれば、俺を撥ねたのはトラックかもと思ったが、それにしてはシルエットが全く見えなかった。

 強烈なライトのせいだと思ったけど、それにしても完全に見えないのは、ちょっとおかしいな。


 電灯も、うちの近くのやつだけでなく、何カ所か取りつけられたんだ。全部が壊れるなんて、地域全体が停電?

 いや、でも、月は出てたろ。完全な暗闇ではなかったような……。


 どうも情報が変だな。

 気が動転し過ぎてとか、事故の後遺症で衝突前後の記憶が飛ぶとか聞くし、それも考えられるけど。


 それにしては、ぶつかる寸前に目を閉じてから室内で目を開けるまでの流れも、しっかりと記憶にある。

 本当に、長い時間の経過なんて感じなかった。

 そりゃ気絶なんかしたことないから、意識がなくなるってそういうもんなのかもしれんが……。


 あの時、ぶつかる寸前に考えたのは、せめて一矢報いようと全力でツッコミしたかったくらい、で……そんな!!!

 俺が手を伸ばせば、力が発動する。それって――。


「ツッコミパワーか! ツッコミが強化されたのかよ!!」


 しょうもなさすぎるだろおおおおっ!!!






 辺りを気にするのも億劫になって、項垂れたまま足取り重く閑散とした冒険屋に戻ってきた。

 とはいえ、もう何をすればいいのやらだ。


 後始末も済んだんだよな?

 やる気ない姉ちゃんのことだから、どこまで本気か分からないけど……今は、そう聞かされただけでも、ほっとして気が抜けたようになる。

 よっぽど緊張してたんだろうな。当たり前か。


 だったら、ここらで気分を切り替えよう!


 帰り道を探すにしろ、それまで滞在する場所を見つけないとな。

 入国管理局みたいなものがあって面倒見てくれたらいいけど、なければ普通にホテル代とか金がかかるし、そうなれば稼ぐ手段が必要だ。


 幸か不幸か入会させられたことだし……まずは、この閑古鳥の鳴く事務所がなんなのかということから知ろう。

 ……それも難易度高いけどな。

 意を決して、今は暇そうにカウンターで頬杖ついて欠伸してる口汚い姉ちゃんに近付く。


 少しは余裕が出て来たせいか、姉ちゃんの服装に目が行った。

 初めは巨大な山に見惚れてじろじろ確認してしまったが、街の人たちと違って、結構良い布地なんじゃないかと気付く。

 他に社員は居ないし、奥の部屋からも物音さえしない。

 実は、受付嬢ではなく偉い人とか?

 だったら掛け合ってみるのもいいかもしんない。


「ちょっと、さっきからなんなの。落ち着きがないわね。拘束されたい?」

「もしかして、ここの店長?」

「人買いの店だなんて上手いこと言ったつもり? なかなか非道ね。感心したわ」

「感心しどころが間違ってる!」

「まったく、どう見ても私は受付嬢でしょ。あら説明してなかったかしら」


 こんなのが平均的な受付嬢であってたまるか。

 というか経営者じゃなくて少し安心した。

 見るからに怠そうに背を伸ばした姉ちゃんは、営業用のつもりなのか表情を取り繕いなおす。


「よく来たな、向こう見ずの新人。ここは未踏の地を踏み越える、恐れ知らずの阿呆共が巣食う情報交換所――ようこそ、冒険者組合(ギルド)へ」


 ただのマニュアル挨拶なんだろうが、一段低いトーンで吐き出された声と楽し気にぎらつく目に脅されているようで背筋が凍った。


 俺、圧倒的に縋るところ間違えたわ。


 言葉を失くして立ち尽くしていたが、あることに気付く。


「なにがよく来たな、だ! 説明もせず入会させたのは、あんたじゃねえか!」

「だからぁ今から説明すんのよぉ」


 身を乗り出した俺から距離を取ろうと、姉ちゃんは嫌そうな顔で仰け反る。

 くっ……! 事後とはいえ説明してくれるんなら聞かないと、こいつのことだからもう機会はないかも。

 仕方ない。ここは俺が大人にならなければ。すーはー。


「じゃあ、聞かせてくださいよ。俺は何すればいいわけ?」

「何ってあんた……知らずに飛び込んで来たの?」


 心底呆れたような溜息と共に吐き出されたのは、なんでもないことだった。


「がんがん仕事してもらうだけよ。ほら、あの隅の壁にある板。あそこに打ち付けてある紙切れに依頼が書いてあるから。出来そうなやつがあれば、ここに持って来る。それだけ」

「えっ、ただのハロージョブ? でも、よそ者が勝手に稼いでいいのか?」

「へえ、いきなり稼げると思ってんの。随分と自信家ね。そりゃあんたくらいの腕があるなら、こっちも高難度依頼を押し付けたいのは山々なんだけど」

「ツッコミたくないが売り込む気本気であんの?」

「あるわよ。残念ながら規約でね、最下位から始めてもらうしかないの。会員証を確認して。チッ……しくじったわ」


 あーそれで途中からやる気だだ下がりだったんだ。

 勝手に盛り上がっておいてひでえな。


 言われた通り、ポケットからあの煤汚れたような金属メダルを取り出す。

 名前の下に、何か書いてあった。


「ええっと……俺は、五級品か」


 おお、読める。

 そういえば言葉も通じるし、書けたよな。姉ちゃんも俺の字を普通に読んでた。

 なんというご都合展開。


「五級品!?」

「そんな鼻の穴広げて怒ってもどうしようもないの。実力があるってんなら、さっさと依頼こなして昇級してね」


 ちげーよ! そうじゃねー!


「ふつーAランクとかSランクとか、そういうのじゃねぇのかよ!」

「何言ってるかさっぱりだけど、あんたの地元ではそうなの? 冒険者なんて片足墓に突っ込んでるような輩が集まる場所が、他に幾つもあるなんて聞いたことないんだけど」

「そっ、そんな危険!?」


 うわー裏社会? あ、だから俺が不法滞在者でも気にせず仕事押し付ける気満々なんだ。やっぱ汚い仕事に違いない!

 俺、マジでやばいんでね?


「んー、困ったわ。あんた、よっぽどの辺境から来たのね。ここでくっちゃべってるだけで伝わるかすら怪しいじゃないの」


 悪かったな。俺だって好きで来たんじゃないやい。


「こんなところで不貞腐れないで。なんとかするわ、それが仕事だし。誰か人を呼ぶしかないか」


 姉ちゃんの口から出た、まともな案を聞いて、俺はきらりと目を光らせた。


 まともな女の子が紹介してもらえるフラグだろこれ!


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