第47話 魔法具屋へ
どうも金が入るとぱーっと使ってることに気付いた。
魔法具なんか買ってる場合か?
でも懐中電灯くらい必要だろ。ロウソクとか持ち歩けないし、ランプにしろ火を点けて歩き回るとか不安だからな。俺が丸焼きになりそうで。
自宅は電磁調理器だし、俺は電子レンジと電気ポット派だし、現代日本で生きてたら直接火を扱う機会は少ない。
魔法具は火傷の心配がないのだから持っていて損はないはずだ。
魔法的なデメリットは知らんけど、道具によって使い方は異なるだろうし、それに気を付けていればいいはず。
「アニキー着いたっスー」
言い訳めいたことを考えている内に、目的地へと到着してしまった。
これは仕方ない是非寄らねば。情報収集は大切だからな!
そうして訪れた古びた店。
そこは商店街からも少し離れており、路地裏の奥まった場所にあった。
周囲も家より倉庫のような雰囲気だ。
壁の飾りと思っていた、ひっそりと掛けられている看板に遅れて気付いた。
ただの店、だよね?
醸し出される排他的雰囲気など無視して、半モヒは細長い扉を豪快に開くと俺に道を譲った。
室内が薄暗いのは魔法使いのイメージ通りだが、この街ではどこも薄暗いんだよな。それ以上に似合ってるせいで胡散臭さ増し増しだ。
他の店との違いは、ごちゃっとしてるものが商品ではないところか?
大小さまざまなチェストとか箱だとかが詰め込まれ積まれてあり煩雑だが、謎の道具っぽいものは壁に打ち付けられた一枚板の棚に一定間隔で並べてある。
見慣れた丸石の他は、全体的に木製の道具が多い。間に挟まるように真鍮らしきものやガラス製が並んでいるだけだ。
そのガラスはラムネ瓶みたいな水色。
「あれが荒野で拾うやつ?」
「っすがアニキは鋭い。その通りっス」
やっぱり星屑浚いで拾ったのを加工したものだった。
材料が採りづらいものだからか、最大でも卓上胡椒瓶サイズしかない。
どこの店もそうだったけど、ここも値札は見当たらない。一つ一つが手作りのようだが、同じ形のものはないから見本扱いかな。
それ以外に感想しようがない。
どの道具も用途が想像しづらい形状ばかりということだ。
「いかにも魔法具屋っぽいな」
「魔法団の窓口でもありやス」
「ここが?」
併設してるとか、もう少し立派な建物を想像してたよ。
こんなところが、と言いかけて止めた。
最も雰囲気を胡散臭くしている存在に気が付いたからだ。
室内の隅にひっそりと、頭からローブを被ったおっさん魔法使いが居た。
その側で小さな魔法具の白い灯りが揺れている。
夜に見たときは黒ローブと思ったけど、やや灰を被ったような色だった。
使い込まれた質感の天秤を前で俯きがちに、なにか手元で作業をしているのがまた、いい具合に怪しい。
特にこちらに顔を向けることさえなく、話しかけられるわけでもなかったから、そのまま半モヒに聞く。
「一番安い灯り石はどれだ」
「あれっスね」
半モヒが棚の端っこから紐でぶら下げられていた石を指さした。
これまで見たのは手のひらサイズばかりだったが、そこにあったのはゴルフボールサイズ。
棚にさえ席がない最安品なのかよ。
と思ったが幾つもあるから、これだけは需要的に作り置きしてんのかもな。
じゃあそれを見せて欲しいと言いかけたら、ローブおやじがガタリと椅子の音を立てて立ち上がりビクッとした。
「日持ちはせんぞ」
「え」
「燃料っスね」
「あ、その欠片の補充がどのくらいで必要なのか聞きたかったんだ」
肝心のデメリットというか、ランニングコスト?
それによっては、もうしばらく自走式モヒライトで我慢しなければならん。
それはそれで半モヒの財布を利用してるわけだけどな……。
「使用頻度によるぞ」
「そうなんだ」
詳細を聞くと、通常の灯り石は大体、晩飯から就寝時までの点灯で一月ほどもつと簡単に説明された。
俺の気持ちは大浮上!
見た目の胡散臭さ通りに素っ気ないが、他の商品の売り込みだとか半モヒのように別方向に逸れて行って余計な情報が入らないのはありがたい。
使わなければ減少しないらしい。そこはとっても重要!
どうせ基本は帰宅時に使う程度だ。小型とはいえ三ヵ月は軽くもつだろうと算段をつける。
「一年も使わないとなれば話は別だ。その時は持ち込んでくれ」
ついでのように言われたが、それも俺にとって重要なことだった。
「元と同じで自然と消える?」
「欠片から魔力を取り出し加工してあるものだから状態は違うが……まあ、そのようなものだ」
「揮発するようなもんか」
使用期限もあるのか。そりゃあるよな。
今さら気が付いたことがある。
俺も普通に土管ポットを使えたことだ。
多分、生身でこっちに来た俺に謎器官はないと思うんだ。
昨日の戦いで思った、こっちの身体能力の上がり方がおかしい理由が謎器官によるものなら、俺にはなんの変化もないわけだし。
魔物倒してレベルアップみたいなのもなかったし……。
だから人体に備わった魔法的な力に反応して動くようなものではない。
俺は成人なりの魔法耐性は身についているらしいけど、それは拳を基点とした体の変質と関わりが深いように思う。
かといって、これのお陰かというのも微妙。
そうなると、魂の欠片って本当にただの燃料だよな。
何かが、引っかかってる。
そういや朝からだ。
いや……昨晩から?
魔法具についてのデメリットを考えていたときに、なにかが頭を掠めるんだけどなぁ。どうにも掴めない。
多分、情報が足りないんだ。
ちょうど目の前には、いかにもな魔法使いがいるんだから聞いてみてもいいんだけど、そもそも何を聞けばいいのやら。
半モヒのように秘技伝授を期待してるわけでなし、ほいほい無駄話に付き合ってくれるわけないよな。
今もローブおやじは怪訝に眉を寄せている。
興味を持つにはおかしなことを聞いたのか、常識過ぎたのか。
ここは半モヒが言ってたように、依頼でも出すしかねぇか。
といっても、今はまだ漠然とした疑問ばかりだからその内な。
何より金がない。
「他になにかあるか?」
「いや、それにする」
俺が買う意志を伝えると、ローブおやじは頷いて紐をほどいた。
そのまま机に置かれて差し出される。
「すでに充填済みだ」
俺も金を取り出して置いた。
媒体の石代がゴブ退治半日分、燃料代は込める手間賃や欠片の変換の工賃やらでさらに半日分。
みっちりゴブ退治一日分の稼ぎという、駆け出し冒険者には少々厳しいお値段であった。
でも、ないと困るもんだし、今の内に無理して買っておく方がいいよな。
そう納得する頭と違い、心は寂しくなったコインケースを見て溜息を吐く。
「半モヒがちょっと羨ましいぜ」
「え、えええ! オレなどがアニキに羨まれるとはいったい、どんな秘めたる才能が発掘されたというのか!」
「一々大げさな反応すんなよ。ほら闇耐性で夜目が利くんだろ?」
「あーそこっスか。でも生まれもったもんじゃなきゃ、かなりの鍛錬が要るっスから」
後々楽にはなるだろうが、森籠りの時間と人間捨てる覚悟が必要ってことなんだよなぁ。
それだけ大変な魔法耐性……魔法、属性?
「そ……それだああッ!」
なにかがずっと引っかかっていた。
それがなぜか昨晩からといった感覚。
「属性が気になってたんだよ!」
魔法具は属性設定に妖精を頼っているということが抜けていた。




