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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活

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第44話 踏み込み

 白く透明な、魔法の巨大な盾。

 その下に光属性魔法を使えるやつらが集まった。

 そいつらの手元から光が強まり周囲が白く煙り始めた。


「あいつらに、あの闇を近付けるな! ふんむッ!」


 周りの冒険野郎どもがそんな声を掛けながら、腕を振り上げて黒い煙の縄を引き千切り、魔法を使う奴らに迫る闇の手を体を張って受け止めていく。


 少し離れた場所に取り残された俺は、あわあわとその光景を眺めていた。


「アニキっ、何か探ってるんスね? こいつらはオレに任せてくだせぇ!」

「あ、うん」

「ぬおぉ!」


 半モヒも残ってたのか。

 ぐねぐねと絡まりつこうとする黒煙を、半モヒは両腕で掴むと引き裂いていく。


 煙の攻撃が狙ったものか手当たり次第なのかは分からない。

 闇を引き寄せただけ力が増すのか徐々に煙は伸び続けて広がり、最後尾にいた俺たちの元へも届いていた。

 いつの間にか、すぐ近くに黒い筋が幾つか走ってるよ!


 反射的に手で払おうと振り回した時だ。


「ガッ!」


 目の前で右に左に高速で動いていた半モヒのトサカを、黒い煙が絡みとって絞り上げる。

 今にも引っこ抜かれそうな芋のようだ。

 笑いたいがそんな場合ではない。


「ヘッ! こんなもん……闇耐性を鍛えたオレにゃ効きが甘いぜぇ!」


 やはりなんの心配もなく半モヒは元気だ。

 半モヒは髪を掴まれながらも闇の綱へと、逆に掴みかかって何本も引きずりながら前に進む。

 退避しようって頭はないのかい。


 問題は半モヒを避けてこっちにきた煙。

 右手だけはしっかり前に出している。

 砕けるし掴める謎煙だ。

 掴めるなら、撃退できる。掴めるなら――思った通り掴めねえぇ!!


 そうだ。

 さっき咄嗟に振り払ったのに、手応えを感じなかった気がする。

 なんでだ?

 ゴブと違って幽体でもないよな?


 魔法だから魔物ではないだろう。

 闇属性に対抗できるの光魔法というなら、魔法は魔法でしか対処できねぇとか?

 あ、でも皆は引き千切ってるよな。

 一定以上の馬鹿力が必要、とか?


 ……そもそもさ、人間離れしてる身体能力の出所ってのが、魔法と同じく心臓にくっついた謎器官のせいだったら?

 だから、みんなの馬鹿力自体が魔法と同質のもんってことにならねぇ……?


 そうなると謎器官を持たない地球人の俺では、撃退不可能なんじゃね?

 それどころか、今後の見通しも立たなくなる。

 幾ら俺が謎の手を持っていようが、肉体がこっちに適用できないんじゃ、鍛えるも何もない。

 ……雑貨屋のおじさん、雇ってくれないかな?


 それも、今を生き延びられたらの話だ。

 血の気が引く頭で上を見る。

 隙を伺うように頭上で渦巻いていた何本かの煙が、回りこむようにして飛びこんできた。

 だけど、俺に出来るのは手で払いのけることだけ。


「はっ! よっ! ぬおっ! なんのっ、これしき!」

「アっ、アニキぃ!」

「俺はいいから、あいつらの助けに向かうんだっ!」

「くっ……アニキ、ご無事で!」


 嫌なフラグ立てんな。


「えい、やー、とう…………行ったか」


 ふー、もういいかな。

 実は掴めず泡食ったのは一瞬だった。


 なんとこの闇煙な、するりするりと俺の表面を滑るように脇へと逸れたんだ。

 どこか戸惑うような素振りを見せた煙は、それでも果敢に巻き付こうとしてくるが、俺から掴もうとしてもするりと反発するように逸れてしまう。

 どうも掴めないのはお互い様らしい。


 危機は去ったけど、これじゃ誰かの助けにもならない。

 元々居ても居なくてもいいような四級品冒険者かもしれないが、意味合いが違うだろ……。


 はーい俺、無効でーす!

 なんて言える雰囲気じゃねえ。

 二級品でもなんとか千切りながら動ける程度なら、異常事態だよな……。


 慎重に先頭集団を伺う。

 集った者の頭上を庇いながら掲げられた巨大盾は、小刻みに回転するなどして煙を弾いている。

 その下では、白い霧の光が充満していた。


 魔法を使う周囲には、灯り棒より強い光を放つ魔法具を掲げた奴らが立ち並んでいる。

 それが闇煙を遮る盾代わりにもなってるみたいだが、そこから光の力を集めているようだった。

 詠唱らしきものは聞こえない。代わりに集中する時間は必要なんだろう。


 俺はくねくねと適当に両腕を動かしながら、ゆっくりと光集団へと近付いていくが、自由に動けるのが分かったからって手立ては思いつかない。

 手段が限られた形のないものに対抗するのって面倒だな……。

 RPGでいえば属性縛りの強いタイプ。ああいった頭と手数使わされる戦闘は面倒で苦手だった。

 レベル上げて物理で殴るが最高だと思うの。


 地上に膨れ上がった光の半球で見辛くなった、向こう側を見る。

 闇玉からは煙の紐が、うぞうぞと四方八方へと生えて、今や俺たち全体を囲う程に広がっているようだった。


 無数に空から迫る相手だ。

 遮ることができないなら囮にさえなれるとは思えない。

 いっそ、あの闇玉の中心でも確かめに行ってみるか?

 効果が及ばないから出来ることって、それくらいしか思いつかな……あっるぇ?


 どどどうしよう! 未だ信頼の浅い俺だ。あの変な煙と仲間とでも思われたらどうするよ!


 魔法攻撃への危機感はごっそり減ったが、別の焦りで冷や汗が止まらない。

 光集団の手前で、足は止める。

 業を煮やしたのか、個々を狙っていた煙は幾つもが重なり太い縄を編み上げると高度を下げる。

 動きは鈍るどこか速度が上がり、光球の周囲を回転しながら距離を狭めてきた。


「集団ごと締め付ける気だ!」


 周囲で体を張っていた奴らも、人の胴より太くなった縄のしなりで弾き飛ばされてしまう。

 それでも何人かが取り付く。

 真っ先に半モヒが縄の先端を捉えていた。


「ふんっ、ごごおおおおおおッ!!」


 半モヒは縄を脇に挟みこむと両腕で締め上げながら吠えている。お前は本当に人間か。

 踵が地面を削りながらも、そのまま押し留めようと半モヒは踏ん張るが、じりじりと光集団へと寄っていく。

 他の奴らも、半モヒが固定している間にと次々と縄に取り付いた


 けど、足りない。

 もうすぐ、薙ぎ払われる。


 俺はただ、じっと動かず固唾をのんで状況を見守る。

 見守るしかできない……本当に、そうか?

 拳を握りしめる。


 闇耐性のない奴は、成すすべなく絡めとられている。

 闇耐性持ちの半モヒなどは、同等の力を返している。

 対抗属性である光属性の魔法なり耐性を持つ奴は、煙を崩すことができる。



 ――なら、互いに触れる事のできない俺は?



「ぐ、おおおおおおおおおおっ!!!」


 半モヒが押し切られそうになる瞬間、地面を蹴っていた。


 飛び込む位置は、半モヒと光集団の間!


「ふぁっニキぃ!?」


 頭を下げて縄の下を滑り込み、即座に反転。

 意味があるか分からないが両腕を十字に掲げて、右手の平だけ外へ向ける。


 押す勢いの増していた縄。

 まともに当たったなら、ふっ飛ばされる勢いだ。

 その勢いのまま縄が、俺の手に触れる。


 ――シュルン!?


 俺の手が、煙の太縄へとめり込む。

 否応なく働いた無効作用によって、俺の手を避けようにも避けられなかったためだろう。

 縄はぼこりと不自然に形が歪み、掛けられていた力の行き所がなくなったのか上空に跳ね上がった。


「ヒャッハー! っすがアニキだああああぁ……ッ!」


 太縄と一緒に跳ね上げられた半モヒの叫びが遠ざかっていく。

 と同時に背後から声が上がった。


「今だ!」


 盾を掲げていた男の掛け声と共に、盾だったものも解除され、その力も白い煙に混ざると光はより濃密になった。

 対抗して作られた光の煙触手が伸びあがり、猛然と黒の渦巻きへと襲い掛かる。


 闇玉は身じろぎするように揺れ、煙触手を引いたように見えた。

 動きが止まったのは確かだ。


「まさか、怯んだ? うおお! 効いてるぞ! 押せ! 押し返せ!」


 興奮していたせいか、けしかけてしまった。

 もちろん皆も気付いたようで、さらに力を増すと今度は明確に一点へと集中させた。

 闇玉の中心だ。

 思った通り、さらに煙の手は身を引いていく。


 そのまま分断しようという勢いで白い太縄が闇玉の中心を狙って巻きつき、締め上げ返す。

 がりがりと岩石を削るような振動が響き、散った光の屑がパッと闇を何度も照らした。

 ピンと張った糸が切られて跳ねるように、闇玉の表面からぶちぶちと煙の糸が剥がれて夜空に翳んで消えていく。


 力を、削いでるんだ!


 黒い霧の糸を引き摺るようにして、闇玉は動きだしたように見えた。

 距離感は掴めないし、動きが遅いせいかはよく分からないが、離れていってるような……?

 削られてるから縮んでるとかではなく、黒いもやもやは遠ざかっているようだけど。


 そこで光縄が薄くなりスーッと掻き消えた。

 ここまでかと緊張したが、煙の姿もすでになく、闇玉も荒野の闇に溶けて消えたようだった。


 先頭集団を見ると、二級品パーティのリーダーらしき盾男が背後を振り返って両腕を振り上げる。


「よーっし、俺たちの仕事はここまでだ!」


 一斉に拳が空へと突き上げられる。


 ――ブォオオオオオオオオオォ!!!


 荒野に野太い歓声が響き渡った。


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