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闇魔法で最強の拳を得た俺は異世界を突き抜ける!~いずれ拳聖のぐだぐだ冒険者生活~  作者: きりま
冒険者な生活

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第43話 闇魔法

 初めて見た表門は立派だった。

 門扉の縦横が裏門の倍は超えてそうだし、周囲の壁も分厚く高さだってある。


 その頑丈さうな外壁の上には何人も歩哨が立っていて、こっちも何人かが長細い光る魔法具を振っている。

 交通整理かよ。


 門の周囲には兵ばかりだと思ったのは、裏門で見た兵士と同じく、お揃いの全身革鎧だし槍を携えているからだ。帯剣もしてる。

 その一人、門前に待ち構えていた兵が光棒と声を上げた。


「よく来てくれた冒険者の諸君! 目標は門から視認できる位置にある! 心して向かってくれ!」

「おう任しとけ!」


 兵の指示に野太い冒険者たちの声が応えた。


 はたと、あることに思い至る。

 ここの冒険者は、剣といった見るからに武器だと分かる装備は身に着けていないのは気が付いていた。

 ただし一般住民と分けられるほどの特徴はある。ただの布の服よりは頑丈そうという程度だが、どいつも好きな恰好をしてカオスだ。なのにトータルで見れば「ああ冒険者だな」と頷いてしまう姿。


 だから魔法具がメインウェポンなんだろうと流してたけど、そうだよ兵士は普通の武器を持ってるじゃん。

 魔物に対人用の武器は意味ないからとか?

 剣はロマンだろ……。


 困惑と悔しさで兵を睨んでると、そいつらの背後にはローブ姿のやつらが混ざっているのが目に付いた。

 黒ローブで見え辛い。


「なにあれ胡散臭い」

「あれが魔法団の奴らっス……数揃えてきたな」


 俺と同じ理由ではないだろうが、情報収集していたらしい。辺りを探るように睨んでいた半モヒが言った。

 口ぶりからして、魔法使いがぞろぞろと出張ってくるのはヤバイ状況そうだな。

 ただでさえ、どこかピリピリとした空気だ。俺もつられて、ごくりと喉が鳴る。


「開門!」


 偉いらしい兵が叫ぶと、重そうな両開きの扉が、両側から二人の兵に開かれる。

 まず視界に入ってきたのは、赤みの強い灯り。それが揺れ枝が爆ぜる音が届く。

 門の両脇には魔法具でなく篝火がたかれていた。


 そのかすかな灯りで見えるのは、ほんの足元くらいのもので、裏手と大差なく枯れたような草がこびりつくように生えているだけ。

 あとは、どこまでも夜空が広がっているだけだ。


 ぽつぽつと冒険者の列の中からも魔法具の灯りは零れているが、大した光度はない。

 そんな中だというのに、冒険者の列は躊躇なく動き出す。

 止まることは許されそうもなく、最後尾である俺たちまで吐き出されると、門は軋むような音を立てて閉じられた。


「え、えぇ……なにこれ生贄感ぱない」

「っすがアニキ、こんな空気の中で冗談言えるたぁ、踏んで来た場数が違う」


 俺の絶望の声は半モヒの小声のよいしょでかき消され、そのまま口を閉じた。

 すぐに列に動きがあったんだ。


 先頭に白い棒状の光が掲げられていた。冒険者も持ってたのか。

 その先導するパーティの背後にいた二つのパーティがやや左右に開き、背後の俺たちもそれに合わせて展開し背後につく。


 密度が広がったことで人の隙間の向こうが見える。

 前方には、幾筋もの黒い煙が立ち昇っていた。

 初めに空に走ったものほどの強さというか濃さはないが、ゆらりと立ち昇っているのは分かる。


「間違いねぇ、あれだ」


 誰ともなく呟くと、周囲の空気は研ぎ澄まされたように緊張をはらみ、目標を認めた全員の動作は自然と揃っていた。

 そして列は慎重に進みだす。


 まごついてるのは俺だけ。

 視線だけできょろきょろと周囲を確認し、大人しく縮こまってついていく。

 どうせ最後尾だし活躍の場はないだろうけど。頼む何事もなく終わってくれ。


 せめてなにか見えないかと暗い空間に視線を向けるが、空には星が瞬き、砂埃らしきものが風に巻き上げられ流されていくだけ。

 そういえば、本物っぽい星も普通にあるんだよ。変な妖精が塗り替えてるだけなのに不思議すぎ。


「アニキ、来やス」


 低く吐き出された半モヒの声に意識を戻され、黒煙の向こうを凝視する。


 もくもくが――膨れ上がった。


 それは濃厚な闇の渦だった。

 ある地点から立ち昇っていた煙は重力を無視して空中に湧きポイントを浮かせ、そこから這い出る速度と量を増やしたんだ。


 中心の黒煙は倍々に膨れたと思えば回転しながら縮む。

 そこからまた黒煙が湧いては巻き取られていく。

 もしかして……湧いてんじゃなくて、吸い寄せてるのか?


「半モヒ、これ、闇魔法ってやつだよな?」

「これ以上ねえってくらいには」


 ブラックホールとしか言えない渦は、決して触りたくないし、近付くことさえ憚られた。


 それは俺だけではないらしく、先頭の二級品パーティさえ足を止めた。

 そして白いパラソルが開いた。

 透過した白い光の傘だ。


「魔法具? 灯かりにしちゃでかいな」

「……先頭の奴は光魔法使いっス。ありゃ魔法の盾っスよ」


 なんか含みがあるのは魔法使える奴だからかな?


「やっぱ闇魔法に対抗できるのは、光魔法ってことか」

「その通りっス!」


 あんな巨大な盾が掲げられたなら、俺と違って怯んだのではなく隙を伺ってる感じだが、それだけ脅威ではあるんだろうな。


 先頭で灯り棒が水平に振られた。

 なんの合図かは分からんが、多くが前傾姿勢になるのを見て突っ込む用意しろと判断。

 俺も諦めの溜息を吐いて、そろっと拳を上げる。

 いつでも走れるように心の準備をして息を詰めた。


 灯り棒が、ゆっくりと上空へと掲げられ、振り下ろされる――というところで黒煙が全方位に噴き出した。

 白い火花が先頭で派手に散る。

 魔法の盾に触れた黒煙が砕け散ったんだ。


「く、砕ける煙!?」

「ただの副次的な効果じゃねぇらしっスね」


 真ん中の黒い塊が闇魔法の何かかと思ったのに、あの煙が形になったものなら……あれで攻撃される?


「ふおぉぉ!!!」


 一斉に叫びが上がった。

 気が付けば紐のように伸びた黒い煙は、皆の体に巻き付いていた。

 危惧した通りになりやがった!


「マジかよ……」


 周囲の暗がりが、ただの影なのか闇の手なのかも分からない。

 ぞわぞわと不安が込み上げ、背筋から押し込んだ恐怖心が逆流した。


 どどど、どうすんじゃこれえぇ……ッ!!!


 周りに影響しないようにと、なんとか叫びを飲み込む。

 すぐにあちこちから火花が散ったり重い音が響いて、煙触手が半ばから途切れては夜に掻き消えていく。

 だが次々と煙は縄を編んでいく。

 際限がないかのように……ないんじゃねぇか?

 もし、夜が味方なら。


 至る所で飛び散ってる白い火花は光属性魔法なんだろう。


 大きな魔法を使える人間は滅多にいない、だったよな?

 あんなもん相手に、一人一人で対処してたって力の無駄なんじゃないか?

 少なくとも今この場の奴らの行動を見る限りでは……。

 相手が格上なら徒党を組むしかねぇだろ。


「光魔法使えるやつ! 集まってなんかできねぇのか!」


 たまらず叫んだら、すぐに先頭から返ってくる。


「盾の下に来い!」


 先頭の盾が一回り大きくなった。そして他の魔法使いが集まりやすいようにか、そのまま後ずさってくる。

 それを見て即座に周囲の他の奴らは、光属性の魔法や魔法具持ちを煙から抜け出す手助けをし、盾の下に押し出した。


 そして前方に掲げていた盾は、頭上へと向けられ、まさに傘のように曲がって集った全員を庇うように覆う。

 魔法使いら数人が文字通り傘下に入ると、周囲を魔法具を持ってる奴らが囲む。

 さらに周囲を、魔法を使えない者が囲んでいく。


 集団で訓練でもしてたの?

 素早い動きについていけなかった俺は、それを呆然と眺め、元の位置で取り残されるように立っていた。


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