第41話 級と住宅事情
「今日はアニキ、随分と気合い入ってたっスねー。オレも久々にマジのマジで熱くなれやした!」
「う、ん……たまにはまじめにやっとかないとね……」
「実力を身に着けようが初心を忘れない謙虚さが必要と。アニキの教えはしかと胸に刻みやス、ゲヘヘ」
お前の謎ポジティブ思考回路なら俺に聞くまでもないと思うんだ。
やっぱ変えようって切っ掛けがなかっただけ説が合ってそう。
半モヒは己の弱点らしきことを俺に聞いて欲しかったらしく、「ここが気になるんスよね?」チラッ、などと話に混ぜながら動いたりしていたのだ。
少しイラッとしたから、「素直に動けばいんじゃね」だとか投げやりに答えた。
「ハッ……これかぁ! この攻撃力が高まるからとやってたこの捩じりがっ、逆に枷になってると!?」
などと言って次に繰り出されたパンチは、鋭さが神がかってた。
こいつ、今日も勝手に強くなってたよ……。
ゴブ塚を出ながら、半モヒは嬉しそうに力こぶを作る。
「オレも早くアニキに一人前と認められるようになりやス!」
あー、ちょっとだけ罪悪感が増してくる。
「んなこと言われても……免許皆伝とか、そういうのねぇからな?」
「まずは渾名を見直してもらうのが目標だぁ! いきなり実力を見抜かれ、『この半人前が、もっと光れや』と発破をかけるために賜った『半モヒ』の名。これを一人前の『一モヒ』と変えられるよう精進しやスぜ!」
えぇっ、そう捉える? 無理矢理過ぎない? 違うから。
つうか一モヒって、モヒは一つしかねーだろ!
そういえば、モヒカン族が存在しなければモヒカンなんて呼ばれるわけないか。
でもなぁ、他の強そうな冒険者も恰好はごちゃごちゃしてるが、こんな髪型の奴は見たことない。
別の面白髪型とかもなかった。
普通に短髪か、長いのは伸ばし放題でバサバサしたのを縛ってるだけで、髪をセットするといった習慣はなさそうだし。
仕事的に動きやすさ重視なんだと思うけど。
一人だけ浮いてるんだよな。一人?
未だ見たことないパーティの皆さんだが、こいつの仲間だ。
その中で浮いてるなんてのもおかしい……まさか!
「半モヒのパーティのやつらって、お揃いの髪型じゃないよな?」
「えっ髪? もちオレが一番尖ってるっスよ」
よかった違うのか。
半モヒ集団とか見たら全力で逃げ出したいからね。
ほっとしかけたけど、言い方が変だな。
「他の奴らは違うんだよな?」
「そりゃ各々自分が一番攻撃的だぁ! とか言い張るもんスからね、ヘヘ」
似た者同士の集まりには違いないのかよ。
別の意味で恐ろしい。
二級品ランクのパーティって濃そうだなー。
でも役割分担とかはあるはずだ。
メンバーの中には補助職担当でブレーン役みたいな落ち着いた見た目の人もいるかもしれない。いてほしい。
あっでも……もしそんな人がいて俺の真の実力を見抜き、この現状を知ったら……半モヒを詐欺ってるとか疑われたらどうしよう!
その時は毒姉の斡旋だったからって逃げればいいな。事実だし。あっさり解決。
それより、今後の指針だ。
俺の動きを見て半モヒが実況解説してくれたから、姿勢も矯正できたと思う。
あえて俺が腑抜けた自然体を作り、敵に動きを悟らせないスタイルなのだとか煽てられながらで、やりづらくて敵わなかったけどな。うるせーよただのへなちょこだよ!
学んだことを踏まえて、明日は黒森で意識しながら動いてみようと決めた。
体を動かす方で出来ることは、今はこれでいいとして。
もう一つ、この世界での懸念。
「鍛錬といえば半モヒは、魔法耐性どうやって身につけたんだ?」
今のところは俺がどれだけ足を取られず動くか気にすれば済むけど、奥に進むうちに魔法っぽい特殊能力を持つ魔物も出てくるだろう。
魔法耐性を俺も鍛えられるかどうかで、半モヒの足を引っ張り具合が変わってくるはず。
「闇耐性なら黒森籠もりっスね。一月ほど黒森の三等級区域で寝起きしたんス。ありゃあヤバかった……」
「難易度高ぇな……」
「ゲヘヘ、それほどでも」
さすがに今すぐ試すのは無理だな。辿り着く前に死ぬ。
「半モヒはさぁ、そんだけ強いのに都とか、もっと大きな街に出ねぇの」
五年はいるとか言ってたが、一級品冒険者を目指すのに、こんな田舎街らしいところに居続けてるというのも妙な話だ。
これだけ向上心も根性も無駄にあるのに。
そこはまた別の要素があんのかね?
「ゲヒヒ、強いだなんてアニキに見込みがあるとの言葉を頂戴できるとは」
「だから調子乗んなって」
「そっした! いやぁ都はっスねぇ、倍は街の規模がでかいっスし、場所だけでなく人も多いんスよ」
「だから、そんだけ金になる仕事も多いんだろ?」
「そーなんスけど……もちろんちょろっと行ってきやした。でもあそこに居りゃあ、今のイカシタ家は手に入らなかった」
イカレタ家の間違いでは……じゃなかった、住居の選択肢が狭まる?
「都っていうくらいだから人は多いだろうけど、その分街自体も広いんだろ?」
「住人の数に対してでかくは感じないっスね」
「あー冒険者は普通、宿暮らしが多いんだっけ」
人口密度高そうだ。
耕作地も壁の内側だもんな。遊ばせる土地なんかないだろう。
空き家なんかもほぼないか、半端な稼ぎだとマイホームが郊外の微妙に不便な位置になるような問題がありそう。
街が広い分むっちゃ不便な場所に住むと毎日旅行してる気分になるようだとか、色々あるのかもな。
電車もないし、毎日ギルドまで片道徒歩二時間とかだと死ねる。
満員電車の拷問がないだけマシか?
それ以外の要素もあるな。
戸建ての住宅街なんて贅沢なものは、金があったところで一般人にまで行き渡らないのかも。
俺は城方面を指さして半モヒに尋ねる。
「あの金持ちが住む区画って、身分的に偉い人たち限定?」
「領主の側で働くもんの家族だとかが暮らしてやスね」
やはり貴族向けなのか。
それにしては塀で区切られたりもしてないし平和だな。
ちょっとした民衆の暴動で襲われたりしそうな印象があったんだけど。
なにか防犯用の魔法具があるのかもな。
「半モヒも、ああいう所に住むのは無理なのか」
「その予定はないっスねぇ。今の家も場所も最高っスからぁ!」
あ、本気であれが気に入ってたんだ。理由はそれだけかい。
ふと半モヒは険しい顔になる。
な、なんだよ。
「でも……アニキならいけるかもしんねぇ。今日の指導だけでも、アニキの底が見えず震えちまったくれぇだ」
ないもんは見えねぇよ?
「オレも腹ぁ括るか……そん時は、不肖ながらこの半モヒ、お供しやスぜ!」
えぇ?
そんな暑苦しく覚悟を決めたような宣言されても、訳が分からんのですが。
なんか俺の考えてる身分制度と違うのか?
ああ、強くなったら権力者からスカウトされるんだっけ。
二級品くらいになれば十分名が届きそうだけど。
俺の級上がりを手助けするような物言いと違うような……。
「ええっと、俺も二級品になりゃ、あの区画に住めるかもってことだよな?」
「ハッ、アニキにはもっと相応しい場所がありやスぜ」
「怖いこというなよ」
「さすがアニキ、気負いがねぇ」
多分、その真剣みの意味が分かってないからだぞ?
「だから、何が言いたい」
「アニキは、新天地を発見する男ってことだあぁ!」
「なんで住居の話から一級品依頼の話になってんだよ!」




