第38話 属性を決定づけるもの
属性に関連したことがないかと記憶を掘り返していて、ある事柄に思い至り固まった。
雷に打たれたような衝撃に背筋が伸びる。
「時報妖精だー!」
「ひゃあ!」
半モヒは俺の声に飛び上がって振り返る。
「アニキどうしたんスか!」
「そうだよなんか招き猫みたいのいたじゃん。なんだっけなんとか招き……」
「朝露招きっスか?」
「それそれ! なんか光る鳥と、夜の王者だっけ、どこが王者になるんだよ……じゃなくって」
「煌々の鳥と、夕闇の覇者っスかね……? えぇと、笑うところっスか?」
ギャグで言ってんじゃねえ。覚え辛いんだよ!
「なんでもない……ちょっと深みにはまってただけで」
「お、おぉ! アニキは未だ頂点への道を諦めてねぇと……! この半モヒ、アニキの思考を邪魔立てするものなきよう体を張って道行く者どもに睨みを利かせてもらいやス!」
「威嚇すんな」
「へへっ、ほどほどっスね!」
カクカクと左右に視線を向けて嫌に気合いの入った半モヒに、罪なき住人がビクッとしながら通り過ぎる。放っておこう……。
それより三妖精!
俺は見たことないから煌々の鳥とやらが本当に鳥の姿なのかも分からんし、他二つはなにも想像できねぇ名前だし……とにかく!
闇、光、露の三属性が揃ってるんじゃん!
すっげー身近なところにヒントがあったわ。
ここまで人の生活に食い込んでるなら、人間の属性にも影響しないはずはない。
太陽無しで地球人が生きられるのかってくらい切り離せない気がするし。
人の属性を定めるのも妖精によるものだとしたら……。
いや、だけど契約とかないし、魔法具に素材を分けてもらうが、人は媒介のようなものは使ってない。
ちょろっと見た魔法は、回復魔法と毒姉の変な強風くらいだけど。
ケチ臭そうな毒姉が、俺を追い出すためだけに何かを消費してまで魔法使うわけない。それなら摘まみ出すだけでもいいんだし。
育つうちに得意属性が決まるんなら……妖精そのものというよりも、放つ影響がでかいのか?
妖気だっけ、それを取り込み消化して発現するというか、循環してんじゃねぇのかなぁと思う。
それって空気並みに充満してなきゃならねぇな。
まあ魔物や外の環境も合わせて考えたら、妖精ってのも、そんくらい自然に満ちた何かな気がする。
これが、この世界の理なんかなぁと。
やっぱり改めて考えると、謎器官の有無だけでなく、人間だって俺の知る地球人とは全く違うものなんだろう。
ふと、俺のボーイミーツガール作戦失敗事件が頭をよぎった。
体が出来てない子供にヤブ仕事させられるかという毒姉の言葉は、魔法耐性に由来したんだな。
街なかでは店の手伝いをする若い奴らも見かけるから変だと思ってたんだ。
けど冒険者は討伐で外に出る。
嫌でも様々なおかしな気配に曝される機会は増えるよな。
だからお子様お断りなのか。
……俺を蹴り飛ばした貧乏そうな洟垂れガキどもでさえ、もう十分に冒険者になれそうだったが稼ぎに出ないなんて不思議だったし、耐性の問題に間違いない!
あれほどの強さでも足りないということは考えたくねぇ……。
ひととおり考え終えると、なんだか一仕事終えたような充足感に満たされる。
それが何かに役立つわけじゃないけどな……。
「……魔法を使うにも限界があんのか」
夢のない話だ。
そこで、また丘を振り返った。
とっくに遠ざかっていて、てっぺんが見えるだけだ。
よく考えたら変だな。
調査に冒険者を雇って出したんだろ?
なんで今さら、兵士があんなところにいるんだ?
大規模な魔法らしいとしか聞いてないが、警戒してるなら攻撃魔法ってことだよな?
そんなでかい魔法が使われたなら、そん時に誰か気付くんじゃねぇの?
まあ、距離がどれだけ離れてるか知らないからなんとも言えねぇけど。
丘が視界から消えて向かう先に視線を戻しても、頭から光景が離れない。
残りの五級品依頼を受けるべく街の中を歩いているのだが、自然と足が重くなっている。
予定より下見がずれ込んだため、街の中の雑用依頼も大したものに在りつけず、時間的にも受けられたのは一件だけだったし急ぐ必要もないしと、テンション下がりまくってるせいもある。
決めた通りに行動しておこうと受けただけだが、荒野で起きた事が気になり、つい夢中になっていた。
俺に直接は関係なくとも、ここにきて初めて起きた事件らしいニュースだ。
ちょうど依頼者の店が、ギルドからは丘を回りこんだ反対側ということもあり、その丘には事件に関連しそうな兵士たちがいるとなれば、嫌でも気持ちは引かれるというもの。
妖精の住む木から、魔法と魔法耐性との関係だとかに話は逸れたものの、聞けば聞くほど事件とは齟齬のようなものを感じて興味が湧いてくる。
「ただの調査にしては、出かけて行った冒険者は何人も居たよな。なにか危険があると分かってるからか?」
あくまでもこちらのと但し書きは付くが――所詮は人間の肉体に扱える程度の魔法しか使えない、らしい。
あの人間離れしてそうな毒姉も、大地の不思議現象をどうにかできるような大がかりな魔法はないと言っていたんだ。
ようやく、これがどれほど異質な件なのか俺にも理解できてきたようだった。
実は大事件だろ。他の奴らにはそんでもなさそうだけど俺にとってはね。
半モヒが振り返った。
話しかけたつもりはなく言葉にしてみただけだったが聞こえたらしい。
「さっきのが気になるんスか?」
なにかワクワクしてるが、別に新たな技を編み出すとかに関係ないからな?
「魔法跡としか聞いてないから、攻撃とは限らないかもしれないのに大げさなっつーか……でかい魔法使われたんなら、分かりそうなもんなのになって」
念のためだとしても、何か懸念はあるんだろうと思うのは穿ち過ぎか?
見に行けない俺じゃ確かめようもない。
と思ったら半モヒはさらっと答えた。
「何かってことなら、分かったから調査を決定してんだと思いやすぜ」
「え、どうやって」
実は頻繁にあることなのか?
「魔法団の爺さんどもが観測用の魔法具を持ってるはずなんで」
「あれ、魔法団も関わる件なん? 極悪天然記念物現象じゃないだろ」
半モヒが既に見えない丘の方向を指す。
「あの兵士らに魔法団が加わってるはずですぜ。あの妖木の力を借りて魔法具の効果を増強するんで」
なんと、そんな役割があったのか。
やっぱ知らないことだらけだと、考えるにも要素が足りなくて空回りだね。
充実したから別にいいけどな!
なるほど。人には限界があれど、妖精さんの力は遥かに人を超えるだろう。
俺が妄想したようにでかい存在なら。
妖精全体の方針かは分からないが人間とは協力関係にありそうで、ちょっとほっとする。
「痕跡があると分かる程度なら、そこそこ距離があって、なおかつ夜に行われたんじゃないかとオレは睨んでやス」
「あー闇に紛れての犯行って可能性はありうるな」
「でしょでしょ」
「魔法団は自分たちで見に行かねぇの?」
「フッ、大地での危険は冒険者の領分っスから!」
なんか鼻高々だけど。
冒険者は日常的に肉体的な危険相手で、魔法団は自然現象に対する切り札って感じなのかな?
魔法具に興味はあるけど、用がない限り近付きたくないとか思ってしまった。
どうも話からエリート集団臭がして……いけ好かない奴らが多そうという勝手なイメージがあってすまん。
もちろん居てもらわにゃ困るけどさ。




